ひゅうが型護衛艦【海上自衛隊小型ヘリ空母】Ⅰ【前半】 

 
しらね型との排水量増大の内訳
  • しらね型:約5,200トン、ひゅうが型:約13,950トン
+約8,750トンの増大
  • 情報・指揮通信能力の向上…多目的区画の設置等
+約480トン
  • ヘリコプター運用能力の向上…格納/整備スペースの増設、昇降機×2基の搭載等
+約3,230トン
  • 装備武器の能力向上…水上艦用ソナー、射撃指揮装置の装備等
+約830トン
  • 機関、発電能力の向上…エンジン、発電機の重量増等
+約1,120トン
  • 抗堪性、居住性の向上…機関区画の2重構造化、二段ベッド化・レストエリア追加等
+約2,940トン

能力

C4I

護衛艦としてはじめて、護衛隊群司令部を十分に収容できる規模の司令部施設(旗艦用司令部作戦室・FIC)を設置している。FICは第2甲板、CICの後部に隣接して設置されており、アメリカ海軍航空母艦強襲揚陸艦に設置されているTFCC(群司令部指揮所)と同様の機能を有している。ここには、海上自衛隊の基幹指揮回線であるMOFシステムの新型艦上端末であるMTAが設置されている。MTAは従来使用されてきたC2Tの能力向上版で、個艦の戦闘統制用のCDSと連接されている。また、通信機能も増強されており、従来より使用されてきたSUPERBIRD B2に加えて、より高速・大容量のSUPERBIRD Dによる衛星通信を使用できるようになっているほか、必要に応じて、さらに大容量のKuバンド衛星通信を使用する用意もなされている[6]。また、アメリカ軍との共同作戦を考慮し、アメリカ海軍の基幹指揮回線であるGCCS-Mも設置されている。これは、USC-42 Mini-DAMAを介して、FLTSATCOMなどアメリカ軍のUHF帯衛星通信を使用する。なお、音声用の無線通信機は、本型よりソフトウェア無線(SDR)が導入されている[7]

同じ第2甲板の前方には多目的室が設置されている。ここはOAフロアや可動式の間仕切りを備え、必要に応じてレイアウト変更が可能であり、大規模災害時の自治体責任者を交えた災害対策本部や、海外派遣時の統合任務部隊司令部などに利用される。また、これ以外でも艦内各所で情報にアクセスできるよう、艦内にはJSWANと称されるギガビット・イーサネット網が整備された。これは秘区分のある情報を流せる作戦支援系と一般情報を流せる情報支援系の2系統からなっており、作戦支援系端末は60台以上、情報支援系端末は200台以上が各所に配置されている。また、同時に、広大な艦内で艦長以下の幹部乗員が相互に連絡できるよう、艦内PHSも整備された[6]

CICには、OYQ-10 ACDSが設置され、個艦の戦闘統制に使用される。OYQ-10は、オペレーターの判断支援および操作支援のため、予想される戦術状況に対応して、IF-THENルールを用いて形式化されたデータベースに基くドクトリン管制を採用している。これにより、オペレーターの関与は必要最小限に抑えられ、意思決定の迅速化を図っている。また、OYQ-10は、NOYQ-1艦内統合ネットワークを介して、対空戦闘システムであるFCS-3、対潜戦闘システムであるOQQ-21、電子戦装置などと連接され、艦全体の戦闘を統括する。これらは、新戦闘指揮システムATECS(Advanced Technology Combat System)と総称されている[8]

  • FIC

  •  
  • 多目的区画

  •  
  • 司令公室

航空運用機能

全通甲板構造による複数機同時発着能力、支援設備による高度な整備支援能力、大型格納庫による多数機収容能力、高度なC4Iシステムによる航空作戦管制能力を備え、通常は、哨戒ヘリコプターSH-60JまたはSH-60Kを3機搭載する。この定数は、前任者であるはるな型(43/45DDH)しらね型(50DDH)と同じで、必要時には、これに加えて掃海・輸送ヘリコプターのMCH-101を1機搭載することができる。なお、これらの哨戒ヘリコプターの機上に搭載された戦術情報処理装置(SH-60JではHCDS、SH-60KではAHCDS)と艦の戦術情報処理装置を連接するためのヘリコプター・データリンクとしては、新型のORQ-1Cが搭載されている。これは従来のORC-1 TACLINKをデジタル化したORQ-1Bの改良型である[9]

整備区画とエレベーターを含む格納庫部は第2-4甲板のほぼ6割の長さを占めており、全長は120m、幅は19-20mであり[10]、60m×19mの格納庫のみでSH-60哨戒ヘリコプターであれば1個護衛隊群の定数に相当する8機以上を収容できる広さを持っている。また、格納庫は防火シャッターにより前後2区画に仕切ることもできる。後部エレベータをはさんで格納庫の後方には最大20m四方の整備区画が設けられ、艦内でメインローターを広げたまま整備を行うことができる。飛行甲板から格納庫をむすぶエレベーターはいずれもインボード式で、格納庫の前後に長さ20mのものが2基、後方エレベーターは幅13メートルで、SH-60がローターを広げた状態で積載できるため、飛行甲板から整備区画に直接移動させることができる。前方エレベータは幅10メートルで、やや小型となっている。哨戒ヘリコプターに搭載する対舟艇ミサイル魚雷などを輸送する弾薬用のエレベーター(長さ4m×幅2m、力量1.5トン)も前後2基装備する[9]。飛行甲板には4機分のヘリスポットが装備されており、3機の同時運用が可能である[2]

大規模災害発生時には、第72航空隊、第73航空隊のUH-60J救難ヘリコプターを搭載し、洋上救援基地として利用する。また、2013年のドーン・ブリッツ2013演習では、陸上自衛隊西部方面航空隊CH-47JA輸送ヘリコプター2機およびAH-64D戦闘ヘリコプター2機が「ひゅうが」に搭載されて派米され、島嶼戦での統合作戦を想定した演習を実施したほか、現地ではアメリカ海兵隊MV-22Bも同艦でクロスデッキ演習を実施し、発着・格納を実施した[11]

ヘリコプター洗浄用を含む全ての艦内用清水を作るための造水装置と、熱源となる補助ボイラーは、こんごう型(63DDG)と同型のものを同数搭載する。

  • 飛行甲板の舗装

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  • 後部弾薬用エレベーター
    ※ハッチを閉めた状態

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  • エレベーターの船体側

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  • エレベーター

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  • 下降途中のエレベーター

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  • 甲板の下にある格納庫からエレベーターを望む

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  • 甲板の下にある格納庫から前部エレベーターを見る

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  • 甲板の上から見たエレベーターと格納庫

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  • 艦載救難工作車

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  • 艦載クレーン

個艦戦闘機能

後部右舷寄りに16セルのMk.41 mod.22 VLSが備わり、防空用のESSM(発展型シースパロー)艦対空ミサイル、対潜水艦用に07式垂直発射魚雷投射ロケット(新アスロック対潜ミサイル)が収容される。

従来のヘリコプター搭載護衛艦であるはるな型(43/45DDH)シースパロー16発(うち発射機に即応弾8発)、アスロック16発(うち発射機に即応弾8発)を搭載していたのに対して、本型はアスロックの総数こそ減少しているものの、ESSMはMk 41 VLSに装填されたMk 25キャニスタ1セルにつき4発搭載可能なので、即応弾数と総数は増加しており、装填動作の不要なVLSによって即応性も向上している。艦内に1斉射分、16発のESSM予備弾を搭載するとされている。

対空戦

「いせ」の艦橋上部に設置されたFCS-3。大型がCバンド、小型がXバンドのレーダー面

新開発の射撃指揮装置であるFCS-3とOYQ-10 ACDSを中核として、高度に自動化された対空戦闘システムを備えている。

FCS-3は、従来より試験艦「あすか」で運用試験を受けていたものの改良型で、Cバンドを使用する捜索レーダーと、Xバンドを使用する射撃指揮レーダーのフェーズド・アレイ・アンテナをそれぞれ4面ずつ 、アイランド前部に0度と270度を向いたもの、後部に90度と180度を向いたものを設置しており、目標捜索から追尾、そしてOYQ-10から指示を受けての攻撃までを担当する。総合的な対空武器システムとなっており、最大探知距離200キロ以上、最大追尾目標数300程度とされる。砲を搭載しないことから、ESSM(発展型シースパロー)の射撃指揮にのみ用いられることとなる。なお、コストダウンのため、1番艦「ひゅうが」の捜索レーダーは「あすか」に装備されていたものの台枠3基を流用したが、アクティブアレイの素子は全て新造品に交換された。「あすか」に残された1基の台枠は「いせ」に用いられ、撤去された。また、従来開発されていたFCS-3はアクティブ・レーダー・ホーミング(ARH)誘導方式の国産艦対空ミサイル(AHRIM)を前提としていたため射撃指揮レーダーを必要としなかったことから、Cバンドの捜索レーダー部のみだったことから、ミサイルとしてセミアクティブ・レーダー・ホーミング(SARH)誘導のESSMを採用したことに伴い、タレス・ネーデルラント社のAPARの一部を射撃指揮レーダー(ICWI: Interrrupted Continuous Wave Illuminator)として導入した[12]

対空ミサイルのESSMは、従来使用されてきたシースパローIPDMSの発展型であり、より敏捷になっている。また、同時多目標対処を狙って中途航程に慣性誘導を導入したことにより飛翔コースが最適化され、近距離での機動性向上を狙って推力を増強した結果、射程も最大50kmに延長されている。射程の外縁部では機動性が低下するものの、限定的な艦隊防空[脚注 6]能力を有する。海上自衛隊護衛艦で、ESSMを新造時から搭載するのはひゅうが型が初となる。

ESSMの射撃可能域よりも近距離の航空脅威に対処するため、飛行甲板前端と、船体後部左舷側に設けられたスポンソン上に高性能20mm機関砲CIWS)を計2基搭載している。

  • 艦首CIWS
    手動モードを備え、対空目標の他、水上目標にも対処可能

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  • 艦尾CIWS
    甲板より低い、艦尾スポンソン上に装備。そのため射角は限られる