今日、とある駅前の大きな陸橋から5時20分位に空を見上げていました。西の空は矢張り雲が多く、またダメかと思いました。

すると斜交いに女子高校生が5人、空を見ながら指を差したりしていました。声は余り聞こえないけれど、金星がどうのこうのと言っていたり、すぐにはその場を離れる気配がありません。私はと言えば今日こそ紫金山アトラス彗星をみてやろうと思っていたのです。

あんなに張り付けられた西の空の雲が、不思議なほど開けて行きました。日没後ですからまだ少し明るいようでした。金星は私には見えません。そのうちに目に入りましたが、そんなに輝いてはいませんでした。

私は女子高校生たちはきっと彗星を探しているんだろうと感じました。少しするといつの間にかその5人が私の側にやって来て彗星を見ているのかを尋ねたのです。星はまだ金星しか見えていません。

私は金星を目印にして右の上の方に彗星が見える事を話しました。だんだん暗くなって行きました。

飛行機雲が長い尾を引いているのを見て、冗談なのか「あれ彗星じゃない?」とか言っているのです。飛行機も数機灯りを点滅させながら進んで行きます。彗星ははっきり尾を引いているように見えると思っているのでしょう。

21日の今日は彗星もだんだん暗くなり簡単には見えないと思っていました。幾ら待っても、周りが暗くなっても、金星がポツンと見えるだけでした。

目を凝らしてみないと見えないよ、と私は女子高校生の子たちに言いました。しっかりみつけようとしているのです。

その時私の目に小さな点のような星が目に入ったり見えなくなったりしました。それは金星の左に離れて見えていました。

その微かな星が見えるかな、と聞きました。何人かが見えると言っています。それは彗星じゃないけど、今日の彗星はもうその星のように小さく暗く見えると思っていてね、と言いました。

それからです。多分金星の右上に、集中して見ないと見えない位の星が私の目は捉えたのでした。

この指の先くらいの所にさっき見えたような星が見えますか。あれが彗星だと思う。あれがアトラス彗星だ、と言いました。止まってるような動いているようなそんな星。金星からの位置が私に確信をもたらしました。6時前だったと思います。みんなは、見えた! とか、どれ? とか言っています。目がいいなあと言っている子もいます。

尾は暗過ぎて見えないけど、双眼鏡ががあったらそれも少しは見えるかも知れない、と言いました。でも、あれが紫金山アトラス彗星だよ、と私は言いました。しばらく見えたらまた見えなくなったり、もう少し街の明かりが見えない所に行けばはっきりすると思いました。向こうの山に登ったら見える、とそんな事を言っている子もいました。

30分も一緒にいたのでしょうか。私と同じような背の高さの子もいます。手にプリントや問題集を持った子もいます。女子高校生たちは「ありがとうございました」と言って、陸橋の向こうに駆けて行きました。塾に行く前にみんなで彗星を見ようと相談でもしていたのでしょう。大学受験を控えた高校3年生だったのです。

 

私は、4日間もデカい灰色の雲に覆われた西の空をカインズの駐車場の縁から、虚しくそれでも微かな期待を抱いて見て来ました。尾を引いた美しい彗星を見るために。

あの美しい尾を引いた彗星は、カメラも技術も優秀な専門家が撮った写真に他なりません。それも条件のいい場所を求めて撮ったものなのでしょう。スマホでも写ると思っていた私も、安易な考えでした。

しかし、今日見られた紫金山アトラス彗星は、金星との位置関係と一種の勘で見つけたようなものです。それにそんな事に興味を持った女子高校生がわざわざ私に聞きに近づいて、はち切れそうな元気なエネルギーを貰って見られた事は幸せでした。知らないおばさまも寄って来て一緒に見ていたのですよ。

3、40分はいたでしょうか。もう暗くなった空に彗星は見えなくなりました。それでなくても見えにくい彗星だったのですから。

8万年前に見えていた彗星と今巡り合い、また8万年後に見られると言う。それは壮大な桁外れの宇宙の営みではないでしょうか。何よりも、私は紫金山アトラス彗星と名付けられたこの星が、彗星である事を確信したのでした。

1人で見ていた天体をこの日は証人ともなる女子高校生たちと見た事は稀な事で、奇跡的で愉快な思い出となりました。