まるでそれは衝動のようだった。
観たいと思って調べた上映時間が、11時45分から。それに余裕を持って間に合う高速バスの発車時刻には後2分しかなかった。次の上映は、14時45分。それでは流石に間延びする。次の映画ではなく次のバスを選んだ。
バス停は寒いばかりではなく、風が強かった。薄くなったと感じる髪が乱れた位だから身震いもした。
三宮でバスを降りると、東側にはすぐに9階に映画館を擁したビルが迫っている。時間はまだありそうだが、風は相変わらず寒く、強い。春一番かなと思った。だが、定義では、風は強いけれど南の海側から吹く暖かい風だと言われている。これはとても冷たい。気象庁がどのような見解を示すかは又の情報を観る事にして、私はただこの寒い風に、震えながら酔い痴れていた。童謡にある「たき火」の歌詞が思い出されていた。頭の中では、思い出深い、遠い昔の木枯らしのようだったから。
あんまり慣れていないパネルでチケットを購入した。60歳以上はシニア料金で観られる。何年か前1,000円だったが、今回は1,200円だった。2時間を越える長時間の映画だからなのか、値上がりだったからなのか。
無性にホットドッグをお腹は要求していた。暫く我慢比べをしていたが、私が勝利した。10分前からゲートを通る事が出来た。長いエスカレーターで上がり、上映される6番の部屋、L11番に座った。
「パラサイト」と言う名で、第92回アカデミー賞4部門を獲得したこの作品は、昨年来人気が落ちる事なく、その勢いは続いていた。急に観たくなった。韓国映画のタイトルは「キセンチュン」で寄生虫の事だが、それを態々英語にして「パラサイト」と名付けられた。
副題は「半地下の家族」と銘打ってある。ここでこれからまだ観に行く人も沢山いると思われるので、あらすじとかは喋る積もりもない。ただ、鮮烈な映画であり、韓国人の気質のようなものも感じられる映画であり、幾らかのテーマも感じられる映画でもあった。しかしながら映画である以上、そこには娯楽性もなければならなかった。あんな状況の中の映画でありながら、それも十分に楽しめた。リアリティーの中に娯楽性が同居していた。
韓国語は日本語とその組み立て方が殆ど同じで覚えやすいし、神戸には韓国の人達も沢山いるし、現実的だと思って少しだけ勉強した事があった。今回のそれは吹き替えではなく韓国語でキャストがそれぞれの声で喋っているので、二重の臨場感があった。そして、少しだけ韓国語が思い出された。
看板に「ウリ シュポ」と書いてある韓国語が見え、何か懐かしい気さえした。「私達のスーパー」なのだが、それが小さな看板だったのが面白かった。
涙が流れて立てなくなるような作品ではなかったが、もう一度観てもいいと思える映画だった。それは言葉を少しだけでも知っているからなのであろうが、現代の混沌とした不条理の映画でもあると思った。
映画は終わり、館内は暗いまま文字だけが流れていたが、私は音楽と共にそれをずっと観ていた。今までも、すっかり終わるまでは出ない派なのである。矢張り、少しずつ立っては出て行く人たちが見える。今回は、浸ると言う感じはなかったので私も出ようかと思ったが、癖なのかやっぱり最後までいた。そんな人が結構いたのに安堵感を覚えながらも。
外はまだ強くて寒い風が吹いている。暖かかったらきっと春一番だと思いながら、それでもあの歌を心の中で歌っていた。不条理ではなく矛盾のありそうな歌詞ではあるが、そんな事思って歌った事はない。
♪かきねのかきねの まがりかど たきびだたきびだ おちばたき あたろうかあたろうよ きたかぜぴいぷう ふいている