「どうですか。変わった事ありますか」

 

「うーん、あのー。21日の朝の事ですが、喉の方がぬるっとして、ティッシュを重ねてペッと吐き出してみたんです。そうしたら、大豆位の大きさの、小豆色をした塊が飛び出して来たんです。それから今日(27日)まで朝いつも見ていたほんの少しの出血は見なくなりました」

 

私は、息堰切ったように話した。

 

30歳前後とは思うその女医は、

 

「鼻の中のものが取れたのかも知れないわね」なんて、そんな言い方はしなかったが、今日が今年最後のお勤めだからであろうか、浮き浮きした感じに見えた。私とは45歳前後は違うと思われる年齢であるが、こちらまで話すのが楽しくなった。

 

「鼻の中のものが取れたのかもしれませんね」

 

「一昨日、CTを撮りましたが・・」

 

「2度も撮らせてしまって・・」

 

「いや、造影剤の事がよく分かって良かったです」

 

「今回のCTでは、最初の跡が消えていました」

 

「じゃあ、あの塊がそうだったのですね」

 

女医は、にこっと笑ったようだった。如何にも穏やかな顔だった。

 

「それでは、手術はしなくてもいいですね」

 

「まあ、覗いて見ないと」

 

と言って、内視鏡を鼻に入れた。

 

「こっちだったかな」なんて言いながら、左の洞窟にそれは入って行った。

 

「奥にあったから、手術はどのようにしようかと考えていました。あった所がこんなに綺麗です。何もありません」

 

私も画像を観たが、雨が急に晴れたように、綺麗そのものだった。もう1度、聞いてみた。

 

「手術はしませんよ。よかったですね」

 

「こんな事ってあるんですね。もう来なくても・・」

 

「そうです。これでお仕舞です」

 

私の21日の出来事が、今日の話を積極的に聞く気持ちにさせていた。あの小豆大のものは、2年間の厄介な残骸だったと全く疑わないまでも、自分ながら信じる節を育んでいたのだ。

 

「最初覗いた内視鏡が、あの鼻の穴の奥の塊を突いたかも知れません」

 

「そうね。多分刺激を受けたのでしょうね」

 

何だか、私も心の中が解放され、まるで医者と話しているのではないような気になっていた。孫位開きがあるにも拘らず、画一的な対応ではなく、明るく温かな気が流れていたからだろう。

 

「今日で終わりですか」

 

そう聞くと、

 

ちょっと面食らったのか、微妙な時間の間を置いて言った。

 

「そう、今日で終わりです」

 

「ありがとうございました。いい年を迎えて下さい」

 

そう言って、診察室の大きな扉を開いて出て行った。何だったのだろう。これだけ不安を引き摺った2年の流れが、こんな形で終結した。

 

2つ鼻の穴がある訳がよく分かったし、無意識に呼吸している事の素晴らしさと爽やかさを感じられる幸せを、改めて感じていた。本当の幸せに自らが包まれている時には、その事を忘れている事が多いが、手術しなくても良くなった一連の鼻騒動から、残り5日の2019年を慈しみ、月並みだが感謝したい。

 

今年最後のブログになるだろうなどと言いながら、また書いてしまった私は、やっぱり意志薄弱だった。