9月30日に虫に刺されたような感じを受けていた。腹部の左側にダニに噛まれたようなものではなく、それよりは大きな発疹が赤い模様のようだった。虫刺されの薬を塗ったが、案の定その行為は無駄に終わった。

 

10月1日、痒いなどの生易しいものではなく、ちょっとでも触るとまるで神経を触ったかのようなビリッとした痛みが感じられた。鏡に映して左側の腹部を見た。その発疹は点在し密集し帯の様に広がっていた。早速PCで調べたが、どうも帯状疱疹ではないかと思った。同時に、そんな言葉も覚えた。

 

2日はパンパンに張った肩凝りだと診断されたクリニックに行って、マッサージと骨密度の測定と医師の面接を受けた。3週間前、毎日のように耐えられないギリギリの緩急はあるものの、連続した鈍痛を肩甲骨辺りに感じていて、たまらずクリニックに行ったのだ。医師は即座に肩凝りを看破し、首筋の上部両側に注射をした。多分筋肉を柔らかくするものだったか単に痛み止めだったか。

 

それから1週間毎にリハビリに行き、この日は医師との面接を受けた。自宅のリハビリ(簡単な運動)も最低限やったし、クリニックのリハビリのお蔭もあってか、殆どあの頃の鈍痛を感じなくなっていた。

 

骨密度とどう言う関係があるか分からなかったが、医師は結果を見て腰椎正面からと大腿骨全体の骨密度は若年成人と比較しても劣らないと言い、自信はなかったが取り敢えずは安堵した。

 

もう自己診断の帯状疱疹はかなり広がっていて、赤ワインの天の川のようだった。流石に、このクリニックから帰ってすぐに皮膚科のクリニックに行った。5時半頃だった。

 

感じのいい2人の受付の人に、ずっと昔に行った事があった診察券と健康保険証を渡した。

 

「予約されていますか」

 

「いや」

 

「それではこちらで予約しておきますので近くなったらお電話でお知らせしますから、それからいらっしゃって下さい。9時過ぎると思います」

 

もう外は暗く、9時と言えばとっくに晩酌をして多分TVを観ている頃だろう。

 

「えっ、そんな時間に診て貰えますか」

 

とっさに聞き返した。3時間は家にいて、それからまた出掛けるような初めての体験だった。

 

「後72人いらっしゃいますので」

 

「大変ですね」

 

あまり意味のない事を喋って、そそくさとその場を離れた。アルコールのない夕食はリラックス出来ない。しかし、赤い川を放って置く方がずっと心配だった。

 

電話があったのは、男子バレーで日本がポーランドに2セット取られ3セット目で1対2となっている時だった。善戦していたが、次のセットも取れたらなあと思っていた。

 

電話は、無機質な声で淡々と喋り終えて切れた。

 

「あなたの順番は209番です。今からお越し下さい。あなたは209番です」

 

クリニックの受付の女性は1人になっていたが、やっぱり感じがいい。すぐに笑顔で応じ、親しみが感じられる。この時間にまだ人はいて、それからも何組かの人達がやって来た。

 

医師はとても感じが良く、後ろに立っている看護士も笑顔がとても感じが良かった。

 

「どうされました」

 

事情を出来るだけ簡潔に話した。腹部の左側を見て、

 

「帯状疱疹と言う事は知っていますか」

 

「はい、知ったばかりです」

 

医師は6ページ程に纏めてあるパンフレットを開けて簡単に説明すると、そのパンフレットをくれた。飲み薬と塗り薬を1週間分処方した。

 

「子供の頃に罹った水疱瘡のウイルスが体内の神経節に潜んでいて、加齢やストレスや疲労が免疫が低下した時に活動をします。神経を伝わって皮膚に到達し帯状疱疹として発症します。」

 

成程、どんな時に発症するかがとてもよく分かった。この3つは、全部当て嵌まっている。NHKの深夜便を聴くので、睡眠はとれていない。それも疲労の大きな原因だ。

 

医師は塗り薬を塗る時、搾り出した薬をまずガーゼに塗って、それを幹部に着けてテープで止めて置くようにと言ったが、パンフレットを後で読んでよく分かった。

 

水ぶくれが破れると、細菌による感染が起こりやすくなるので、細菌による化膿を防ぐためにも、幹部は触らないようにしましょう、と言った事が書かれていた。それで、指で直接に塗るのではなくガーゼに塗ってから貼ると言う事に納得した。

 

『帯状疱疹は他の人にはうつらないそうだが、水疱瘡に罹った事のない乳幼児には水疱瘡を発症させる可能性がある。小さな子どもとの接触は控えましょう』とあった。

 

「先生、もう1つあるんですが、最近右目の下の黒子が急に大きくなったようで、気になってすぐに触ってしまいます。9月の終わり頃からですが、・・」

 

と言うが早いか、

 

「紫外線の影響でしょうね。これは良性です」

 

「それで、小さくするとか色を薄くするとかは出来るのでしょうか」

 

「これは取る事も出来ますよ。今から取りますか」

 

余りにも急で、

 

「またその時に・・」

 

と言ったその時、

 

「もう用意していますよ」

 

と看護士さんが言った。

 

「それならやらないといけませんね」

 

「いや、いいんですよ」

 

「やります」

 

と言った。このアイドルのような黒子がなくなる事は考えた事がなかった。しかし、ちょっと目立ち過ぎになった。

 

銀色のビアマグのような容器からはドライアイスの気化した気体が煙のように上っているのが見えた。医師も看護士も笑っていた。

 

「先生、こんな時間まで大変ですね。余程体力もあるんでしょうね。それにしても皆さん明るいですね」

 

にっこりしながら、こんな時間でも相手に会わせて対応してくれる。喋らずにはおれなかった。

 

「私は楽しんでやっていますから」

 

部屋も明るいが、端々にユーモアが感じられ、何しろ明るいのだ。これが病室なのか、と訝しがる程だった。PCに目を遣るのでもなく、顔を近づけて笑顔で話してくれる。診察されている感じなど、更々なかった。

 

眼鏡を外すと、医師は綿棒をそのマグカップに差し入れては私の黒子の上にちょんちょんと付けた。何度もやっていた。

 

「痛ければ麻酔でも」

 

と脅かされていたのだが、この冷たさでそんな感じもしていたように思う。これで黒子が取れると言うのは半信半疑だ。

 

「1週間もしたらぼろぼろと取れて行きます」

 

帯状疱疹と黒子の治療が出来て、1週間後が楽しみになって来た。

 

薬局で薬を貰って、早速家でガーゼに塗って貼った。それに、もう1度軽くご飯をお腹に入れて、薬を飲んだ。何といいクリニックだったか。やっぱり明るく笑顔があってユーモアのある事が、接客業でなくても、自分にも是非欲しいものだと知らされた。

 

夜の明るい診察室、いやいや談話室だった。