元町も、昼は雨だった。

オカリナの練習の後は、ただでは帰らない。私が行きたかったのは、「ひょうたん」の餃子。ここの餃子は味噌だれだ。それは堪らない。それを泡盛で食す。けれど、ここは素通りした。

もう1つ行きたい所があったからだ。ドイツ。ニューミュンヘン大使館だ。ここのビールは絶品で、唐揚げは病み付きになる。久々に、泡盛よりビールを飲む方が勝った。エレベーターで3階に上がるよう指示された。待つ事もなく、花金でありながら、空いていた。

生ビールの中を注文した。唐揚げ3個と一緒に。先に運ばれたビールをグイッと飲みながら、唐揚げを待った。やっぱりデカい。塩を振りかけた。斑な雪景色のようになった。

運んで来た女性に聞いた。

「ここの唐揚げは持ち帰りも出来ますか」

「ええ、出来ますよ」

「デパートにも出されていますよね」

「そうですね。でも鶏が違うのです。大阪の鶏と神戸の鶏と」

「ああ、そうなんですか。やっぱりここで持ち帰る方が美味い唐揚げを食べられるのですね」

と言って笑った。

普通の黄色の生ビールの後は黒ビールを注文した。今正にビール祭りで、小さなカードにシールを10枚貼ると、もう1杯ただで飲める。但し2月末までに10杯飲まなければその特典は発効されない。ジョッキが運ばれると、取っ手に1枚シールが付いて来る。今で2枚、手慰みに貼った。後8杯も飲める訳がなく、また2月末に2、3回も来れるのでもない。

何故、3か月位延ばせないのだろうか。作戦と言えど、あからさまに飲める筈のない事を証明しているようなものだ。大抵商戦とはこんなものだ。もう1杯注文した。

「3枚貼ったってもう1杯飲める訳でもないし、すぐにまた来れる訳でもないし」

と言うと、品の良い女性はビールを運んで来て笑った。それしかないではないか、笑うしか。

私の右の席には家族らしい4人が座って、飲んだり食べたりしていた。

暫くすると、もう帰るのか皆立ち上がった。そして私に、

「良かったらどうぞ」

と、自分達が飲んで貼った紙のカードをくれた。とってもいい顔で差し出してくれたものだから、

「あ、いいんですか」

と言って受け取った。開けて見ると、何と7枚のシールが貼ってあった。私のカードには3枚貼ってある。

「いやー、もう1杯飲めます」

と言うと、益々相好を崩した。早速自分の3枚をこの7枚のカードに張り替えた。1センチ四方の生ビールのシールが10枚綺麗に並んだ。さっきの女性を呼んだ。

「10枚になったんだけど、もう1杯飲めますか」

と聞いた。えっと言う顔をしたがすぐ笑顔に戻り、

「ええ、いいですよ」

と言って5種類のビールを示した。

「この中から選んで下さい」

右側3つは普通の生ビールと黒ビール、それに両方を混ぜたハーフアンドハーフ。普通のビールにしようと思ったが、左の背高グラスに入った2つが目に入った。一番左はかなり濃い色をしていた。

「これは何ですか」

「地ビールです」

「どっちがお薦め?」

彼女は濃い方を指さした。

「私はこっちが好きです」

何と素敵な答え方だろう。こう言われると、

「じゃあこちらにします」

と言わない訳には行かなくなる。この人に言われたら従うしかない、そう感じさせたのだった。素晴らしい話術を学んだような気がした。

「開いてみたら10枚になっていて・・」

「まるで手品ですね」

そうして、もう1杯飲む事が出来た。焼きそばが食べたくなった。確か台湾焼きそばだったと思う。これが結構美味いのだ。

7+3=10。こんな事があっていいのだろうか。いや、いいに決まっている。しかし、そのタイミングと言うか、ドンピシャの成り行きに、驚くしかなかった。

あんまり酔わなかったが、ドイツを離れて日本に帰る事にした。ミュンヘン大使館から少し歩き、バスに乗った。雨は上がっていて、まん丸く膨れ上がったお腹を抱えながら、家に帰った。飲もうと思っていた残り少ない「北秋田」と「越後桜」。どうしようかなと思いながら、逡巡している自分を、外から眺めている。