三ノ宮に着いたのが4時15分頃だった。5時からの集まりにはまだ時間があった。元町の割烹「三ツ輪」が会場である。
5時までの30分をどう過ごそうかと思った矢先、三ノ宮のセンター街の前で、参議院比例区(全国区)自民党公認の演説があった。ここで時間を潰そうと考えた。えらい人だかりである。若手の議員が数人応援演説をしている。中には、宮沢賢治のあの詩を、朗々と全部暗唱した奴もいた。もう、止めて欲しかった。だが、周りの人は、写メに余念がなかった。私も、その1人だったかも知れない。私は、ミーちゃんかハーちゃんか。
その本人が演説するまでに、何人の若い議員が応援演説をした事か。段々暑くなって来た。
今井絵理子が話し出した頃には、もう4時30分になっていた。私は、西へと歩みを進めた。今井絵理子。それはかつてのスピードの一員だった。顔が頗る小さく、舞台慣れもしていて、物怖じしていなかった。正に芸能人の姿だった。
時間が気になった。私は元町に歩みを進める。流石に暑くなり、元町のスクランブル交差点にやって来た時、大丸デパートに入る決心をした。冷気に浸る為だった。だが、もう40分を過ぎていた。すぐにそこを出ると、やっぱり暑い。
ちょっと東へ戻り「三ツ輪」に着いた。15分前で、もう半分は来ていると思った。2階に上がってみると、何と私が1番に着いた。暑い。クーラーは26度を示していた。すぐに24度にした。
この日は5人集まるように聞いていた。私に取ってはN親分とT親分、それにK先輩と I 子分を入れて5人の筈だった。だが、6人の席が用意されていた。親分が来た。6人目は誰か分からなかった。何と、F君だった。現役の頃、彼はインドに3年間派遣され、いい思いをしている。私よりは年下である。
N親分は、私の家に電話をして来た時、嫁に「最後の晩餐会をする」と言ったそうだ。癌が十二指腸の外に出来て、抗癌剤投与の治療しかないと言う。7月は、Vポケットの手術から始まり、薬を飲む治療が始まるそうだ。
T親分も、来月は心臓の検査をする。カテーテルを何度か入れる手術をしているのだ。K先輩は、心臓の手術をとっくにしている。20年前位は、こんな事全くなかった。元気な親分子分だった。
私は、たまたまN親分が呼んでくれた。まあ偶然のようなものだ。あんなに飲んでいたN親分もT親分も、びっくりする位飲まなかった。N親分は、毎晩缶ビール1本と日本酒1合だけと言うから、余程体には気を遣っていると思った。
N親分は来月からそんなこんなで、皆と飲んで置きたいと言った。抗癌剤で癌が消滅してくれる事を願う。そうすれば、また7月に飲めるではないか。
F君は私より年齢が上だと思っていたらしいが、そうではないと分かった時から、妙に私には後輩面をする。現役を過ぎたらもういいのに。そんな事どうでもいいのに、彼はいつでもその事に拘るのだ。
楽しい時は、あっと言う間に過ぎた。N親分、K先輩、F君は東に向かった。私とT親分と I 君は西へ。JR神戸駅で I 君は降りた。垂水駅で残りの2人は降りた。T親分は西出口へ、私は東出口へと分かれた。親分親分と言うが、義理人情の世界の親分子分ではない。Nさんが大親分なら、Tさんは小親分だ。だが、どちらも凄い力を持っているのは確かである。皆慕って、ここまで付いて来ているのだ。
T親分と I 君と私は、電車に乗る前に元町商店街の「観音屋」に入った。ここはチーズケーキが有名だ。久し振りに堪能した。
私は、2人に7月10日の事を話した。 I 君は頻りに、行けないと言っていた。T親分はメモをしていた。「来て頂けたら、シマさんが喜びます」と言った。どうなるかは半々だと思う。来て貰えたら、シマさん主催の発表会も、更に盛り上がるだろう。
もう明日から7月だ。半分が終わる。7月は私に取っては時間的に忙しい月になる。最大のイベントは、神戸文化ホールの「オカリナフェスティバルin神戸」だ。7月23・24日の2日間のイベントが、無事に終わるよう祈るばかりだ。イタリアからモリネッラオカリナグループをゲストに呼んでいる。7重奏だが、人員は10名。翌日のゲストは舞歌さんである。
このフェスティバルもこの夏で16回目になる。技術が先行する事がはやされる昨今だが、今一度、オカリナの本質を見直してみたいと思うのだ。素朴な、オカリナならではの音が、聴衆の胸に残る瞬間を見直したい。その為にも舞歌さんは大切なゲストである。東京都のヘブンアーティストの資格を持っていて、東京のどこでも勝手に演奏出来るのだ。兵庫の出身で、大阪音大を出ている。
私は、今年はゆったりした曲はやらない。速いパッセージの含まれる曲2曲を演奏する積もりだ。上手く行くかどうかは分からない。だけど、そんな曲もやるんだ、と言う所を見て貰いたいと思うが故に。
1日目が過ぎて懇親会の時、私は乾杯の音頭を取らなければならないだろう。イタリアから来ている。「乾杯!」と日本語で言うのは、今一つ面白くない。イタリア語で「乾杯」と言いたい。
「チンチン!」
こう言えば分かって貰えるだろうか。きっと、イタリアの人以外は、私がご乱心遊ばしたと思うに違いない。けれど、グラスとグラスが触れ合う音。それがチンチンである。元はフランス語に起因する。
4月からイタリア語を勉強しようと思った。だが、それは続かなかった。その見返りとして、「チンチン」が、妙に私の胸に響いて来る。
「それでは、今から乾杯をしたいと思います」
「チンチン!」
ああ、3週間もするとフェスティバルだ。2日目は私の仲間が5、6人、加古川や神戸や大阪から来てくれる。終わったら、三ノ宮で是非とも杯を傾けたい。
「チンチン!」