♪叱られて 叱られて あの子は町までお使いに この子は坊やをねんねしな…、わたしは経費の無駄使い。
今日は運転免許証の更新に行く日と決めていた。気持ち良く9時過ぎに家を出て、高速バスに乗った。普通、三ノ宮まで25分前後で行く。今日もバスは順調に走り、私はその間心地よく揺られて眠った。
京橋を降りる頃はしっかり目が明いている。行きは補助椅子は使わないまでも、両側の席には必ず1人は座っていた。私は自ずと誰かの隣に座る事になるので、1番前の席に座っていた。東遊園地を過ぎる頃、隣の人は財布を出して回数券を手にした。
私はシートベルトもしているし、財布も出す仕草をしない。隣りの人はきっと何かを思っていた事だろう。「もうすぐ着くのに、この人はシートベルトも外さない。運賃を手にする素振りも見せない」と。他人事ながら、気が急かされていただろう。
青では直進車が途切れないので右折が出来ない。青の矢印が出て初めてバスは右折する。そのタイミングでシートベルトを外し、上着のポケットから410円を取り出して握った。バスは止まった。鞄と濡れた折り畳み傘を持つと、素早く運賃箱に410円を入れ、元町へと歩き始めた。
私が行ったのは、元町駅西口から10分の所にある神戸センター(警察本部別館)だった。更新手数料が2,500円だが、財布には小銭は別にして1万円札があるだけだった。何だかお釣りを貰うのもなあと思い、コンビニで午後の紅茶を買った。まだ午前中だったのに・・。
「1万円で済みません」と言ったが、別に厭な顔もしなくてほっとした。気をよくして、「1円はあります」と言った。151円払う事になって。午後の紅茶はレモン味だし甘いので、私は甘いものが欲しい時は午後の紅茶である。
会場の6階に上がると、更新者はそんなにいなかった。警察の職員がてきぱきと動き、次々に行く場所を言ってくれる。
先ず行けと言われたのが「①申請書の受付」だった。2枚の書類に氏名など。運転に支障のある部分の「はい、いいえ」にチェックするものの2通だった。
「②証紙の販売」の窓口で2,500円を払った。「③申請書の点検」を受け、「④適性検査」Bに行き、視力検査を受けた。大きい輪っかから小さい輪っかまでの切れた方向を3つ言えば良かった。
「右です。上です。左です」
とても良く見えていると思った瞬間、
「はい、お仕舞です」
と言った。呆気ないとはこの事だ。
「⑤更新の登録・再交付・国外免許受付」で高齢者講習修了証明書と免許証をコピーされた用紙をここで受け取られた。
「6番の写真撮影に行って下さい」
そう言って指示されるが、すぐ隣りだ。今までのいろんな証明写真の経験から、下を向かないように、極力姿勢を良くして、顎を少し上げた。私は笑っても普通に写るので少し笑って見たが、顔が強張ってしまった。
「8番に行って座って待っていて下さい」
これで終わりだった。余りの速さに、呆気に取られていた。7番に行っていない。それは「⑦更新時講習(階段で7Fへ)の人の為のものだった。私は受講済みで必要がなかった。ああこのベルトコンベアーに乗っているような爽やかさ。すぐに私の名前が呼ばれ、新しい免許証を受け取った。兎に角速かった。これで平成32年まで煩わしくなくていい。
「お疲れ様でした」
そんな事、警察の人から言われた事などなかった。狼狽えてしまう。
「ああ、どうも」
エレベーターは3つあるが、端の1つは6階で止まっていた。それに乗って降りたが、免許証更新専用と書いてあった。お爺さんのような人にも言われた。
「お疲れ様でした」
面食らうが、疲れてもいない。
「あ、どうも」
何だか、「千と千尋の神隠し」の顔なしになって答えたような気がした。
「あ~、あ~」
と言わなくてほっとした。
兎に角そこを出た時刻が10時25分である事は、しっかり時計で確かめている。もう終わったのだ。
昼は食べるものは朝から決まっていた。カツ丼が食べたかった。三ノ宮で食べたいカツ丼屋は、阪急西口の狭い食べ物屋の通りにある「七兵衛」か三宮センタープラザの地下にある「吉兵衛(よしべえ)」だ。今回は、元町から歩いて「吉兵衛」に行く事にした。ここは先ず先ず美味い。だが、まだ11時になっていない。ゆっくり歩きながら10分前に着いた。並ぶ積もりだった。
だが、もうしっかり食べている人がいた。気を良くして、普通のカツ丼680円にもう1個卵を追加の730円を奮発した。沢庵は自由に食べる事が出来る。韓国はキムチだが、日本は沢庵だ。それが文化と言うものだろう。カツ丼によく合うのだ。
ラーメンも食べたくなった。今ではないが、大倉山の文化ホールの近くの、もっこすのラーメンである。たまに食べるとこんな美味いラーメンがあるのかと思う程だ。私も、そろそろそのラーメンの食べ頃となっている。勿論チャーシューラーメン。下の麺が見えない程チャーシューが覆い被さっている。15枚は乗っているのではないかと思う。最近値段も上がって、確か950円だ。
バス停に向かう。1番に並ぶ事が出来た。こんな昼の時間に、帰る人などそういないと思う。11時10分過ぎに停留所に着いて、11時30分発に乗った。家には12時には着く。午前中で何か凄い事をした気分になった。
バスに乗っていると無線がよく入って来る。道路状況の確認や返答などだが、受けている運転手は大抵「ありがとうございます」と言う。無線の向こうが言っている時もある。気持ちが籠っているかは、声の調子で判断出来る事が多い。語尾が少し退屈そうな気がした。
私は頭の中で、「ありがとうございねずみ」と言って見た。1人で笑った。誰も聞いてくれる人もいず、ニヤッとしても気持ち悪いので、笑いは簡単に押し殺した。「ありがとうございまうす」。
そんなアホな事を考えながら、バスに揺られていた。また文化ホールで挨拶しなければいけないが、まさかこれは言えないだろう。「皆さん、ありがとうございねずみ」とは。
有明海苔10枚入りを買って帰りたかったが、またにした。
そうして、冒頭に書いた事を言われてしまった。
「何か用事があって元町に更新に行ったと思ったけど、明石に行けば良かったのに。交通費は要らないし、駐車場も只だし、ガソリン代だけで良かったのに」
そうか・・。確かにそうだ。今日の経費を計算すると、バス代往復で820円。カツ丼730円。午後の紅茶151円。1,701円だ。手数料は仕方がないが、その2,500円も入れると4,201円か。ステージ衣装が買えたなあ。
まあ、1,701円は勿体なかったと思う。私の悪い癖は、こうしてつい気が緩む事だ。箍が緩んで抜けてしまったらお仕舞だ。叱られて、ノックアウトだ。
おっ、そうそう。今朝の朝日新聞の連載小説「春に散る」が394回となった。毎回朝が待ち遠しい位に読んでいる。こんなに面白い小説も、新聞では読んだ事がない。いらいらしながら明日を待つ日々を送っている。
今日の小説で、この題名「春に散る」の意味がほんの少し導入されたのではないかと思った。