「もう私、今年で終わりなんですよ」
「もうそんなになるんですか。私は何度来ましたかね」
「今年で7回目になりますよ」
所長さんは言葉を返した。もうそんなになるのか。驚きと感慨深さが交錯する。ならば、この保育所の前も、よその保育所に頼まれて行っているから、サンタ稼業は10年は超えている事になる。そう言えば、現役の時だって頼まれて行っていた。
「いつも『わちにんこ』と言っているから、今日はフィンランド語で挨拶してみようかと思っているんです。覚えるのが大変だけど」
私流に「こんにちわ」を反対に読み替えて「わちにんこ」と、今日が7回目なら6回そう言って部屋に入って行っていた。
10時過ぎ、髭を付けているので曇る眼鏡をどうすれば最小限に出来るかを考えながら、100人を超える子供達の前に入って行った。7人欠席だったが、熱のある子や吐いてしまった子もいた。そんな状態は日常茶飯事なのだが、瞬間向けられた目は、期待と驚きのエネルギーで満ちていた。
「ヒュバー ヨウルア」
両手を上げて応えると、抱っこされている子から来年小学校に入学する子まで、その反応は子供達のどよめきで返って来た。何とか言えた。これから何度もこの言葉を発する事になるが、その度に子供はどっと笑った。これは最後まで使えると思った。
「ヒュバー ヨウルア・・。みなさんは『クリスマスおめでとう』とか『メリー・クリスマス』とか言うでしょう。サンタの国フィンランドでは、こう言うんですよ。ヒュバー ヨウルア」
事前に子供の書いた、サンタさんへの手紙を見せて貰った。勿論書けない子はお母さんが書いた手紙だ。
主なものは、自転車。三輪車。仮面ライダードライブのベルト。アナと雪の女王のお月様。プリキュアのおもちゃ。プラレール。あったかいふわふわもこもこのぬいぐるみ。塗り絵。飛行機。ピアニカ。妖怪ウオッチのしんうちのカセット等々である。それぞれ、~を下さい、となっている。
お母さんが書いたものには、こんなのがあった。
「サンタクロースさんへ
ヨウカイウオッチ、タイプゼロしきがほしいで~す♪
おにいちゃんとケンカしないでなかよくあそびます。ちゃんとはもみがきます。おねがいします!!!
○○○ぐみ ○○」
司会の先生が、子供達に質問をさせる。
「どんな子供に、最初プレゼントをあげるのですか」
「クリスマスには、どうしてツリーをかざるのですか」
「プレゼントは作っているのですか、買っているのですか」
「どうやって空を飛んでいるのですか」
それぞれグループで考えたもので、一人ずつ代表が質問をした。1番目と2番目の質問は7回目の中でも初めてのものだった。3盤目の質問は、今までなら「プレゼントはどこで買っているんですか」と言うものであったが、「そごうデパートで買いました」なんて言えないから、「サンタの国で」と答えていた。今回は、私は「作っている」と答えた。
4番目は必ずある質問だ。もう何回もサンタクロースの私を見ている子もいる。これは毎回替える訳には行かない。「トナカイさんに運んで貰っています」が、定着した答えになっている。
さあ、みなさんなら何と答えますか。私の答えは書かないでおきましょう。○○をうならせたら50万。手帳大賞大募集じゃないんだけど。もし私が唸るようなのがあったら、私の敬愛を差し上げます。
すぐに、司会者にオカリナを吹いてと言われた。私はみんなに歌って貰いたかった。音が聞こえて何の曲か分かったら歌って、と言った。
「となりのトトロ」
「アナと雪の女王」
「きよしこの夜」
全部3連のオカリナ1本で吹いた。子供の生き生きとした声に合わせて吹いた。子供はテンポを左程問題にしていない。寧ろ速くなる。こちらも、そんなに正確に吹かなくてもいいのが救いだ。せめて子供の好きな曲をと思ったのだった。
年長組から順番に、代表に大きな包装されたプレゼントを渡す。2人で出て来たり、4人とか6人とかで出て来たりした。肝心のサンタは、中身を知らない。
その後小さい組の子達から一人ひとりに、係の先生が私に渡す袋詰めのお菓子を子供に渡して行った。「クリスマスおめでとう」と言ったり「メリー クリスマス」と言ったりした。たまに「ヒュバー ヨウルア」と言うと、周りも華やいだ。発音も知らないのだが、これだけは確かにフィンランド語で「メリー クリスマス」の事だった。こんな時、嘘は教えられない。
組毎に渡し終えると、記念写真。私を横からじっと見つめている子もいる。小さな手が、握手を求めて来たりする。本当に紅葉のような手だった。出来るだけみんなとしたかったが時間がない。私が手のひらを広げると心得たもので、何人もの子がタッチして来た。老体がエネルギーを貰って帰るなんてと、子供達の中にいるといつもそんな気になる。だから、サンタ稼業は止められない。
最後に小さい子はもう自分の組に帰っていたが、大きい組の子がみんなで立ち上がって「あわてんぼうのサンタクロース」を歌ってくれた。
「ありがとう。みんな、いい子だね。元気でね」
そして、
「ヒュバー ヨウルア」
と言って両手を挙げた。
「バイバイをフィンランドの言葉言いますね」
そうして私は、
「モイモイ」
と言いながら消えて行った。
「サンタさんは次もあって忙しいから」
先生の子供達に言っている声が聞こえた。ちっとも忙しくなんてないのに。この年金暮らしのサンタクロースは、全部の子と握手したかったなと思いながら、サンタの衣装を脱いで、この保育所を辞した。1時間程の1年に1度のこのサンタ物語は、こうしてクランクアップした。
オカリナは、どのようにして吹いたかですって? そう、髭がじゃまで吹けっこないもんね。
「オカリナ吹けないから、魔法で髭をずらします」
そう言ってずらして吹いた。それでも私の苦労を知ってか、茶化したりする子はいなかった。ひょっとして、私がサンタクロースだって信じてる? どっちが1枚上手なんだろう。
「もうそんなになるんですか。私は何度来ましたかね」
「今年で7回目になりますよ」
所長さんは言葉を返した。もうそんなになるのか。驚きと感慨深さが交錯する。ならば、この保育所の前も、よその保育所に頼まれて行っているから、サンタ稼業は10年は超えている事になる。そう言えば、現役の時だって頼まれて行っていた。
「いつも『わちにんこ』と言っているから、今日はフィンランド語で挨拶してみようかと思っているんです。覚えるのが大変だけど」
私流に「こんにちわ」を反対に読み替えて「わちにんこ」と、今日が7回目なら6回そう言って部屋に入って行っていた。
10時過ぎ、髭を付けているので曇る眼鏡をどうすれば最小限に出来るかを考えながら、100人を超える子供達の前に入って行った。7人欠席だったが、熱のある子や吐いてしまった子もいた。そんな状態は日常茶飯事なのだが、瞬間向けられた目は、期待と驚きのエネルギーで満ちていた。
「ヒュバー ヨウルア」
両手を上げて応えると、抱っこされている子から来年小学校に入学する子まで、その反応は子供達のどよめきで返って来た。何とか言えた。これから何度もこの言葉を発する事になるが、その度に子供はどっと笑った。これは最後まで使えると思った。
「ヒュバー ヨウルア・・。みなさんは『クリスマスおめでとう』とか『メリー・クリスマス』とか言うでしょう。サンタの国フィンランドでは、こう言うんですよ。ヒュバー ヨウルア」
事前に子供の書いた、サンタさんへの手紙を見せて貰った。勿論書けない子はお母さんが書いた手紙だ。
主なものは、自転車。三輪車。仮面ライダードライブのベルト。アナと雪の女王のお月様。プリキュアのおもちゃ。プラレール。あったかいふわふわもこもこのぬいぐるみ。塗り絵。飛行機。ピアニカ。妖怪ウオッチのしんうちのカセット等々である。それぞれ、~を下さい、となっている。
お母さんが書いたものには、こんなのがあった。
「サンタクロースさんへ
ヨウカイウオッチ、タイプゼロしきがほしいで~す♪
おにいちゃんとケンカしないでなかよくあそびます。ちゃんとはもみがきます。おねがいします!!!
○○○ぐみ ○○」
司会の先生が、子供達に質問をさせる。
「どんな子供に、最初プレゼントをあげるのですか」
「クリスマスには、どうしてツリーをかざるのですか」
「プレゼントは作っているのですか、買っているのですか」
「どうやって空を飛んでいるのですか」
それぞれグループで考えたもので、一人ずつ代表が質問をした。1番目と2番目の質問は7回目の中でも初めてのものだった。3盤目の質問は、今までなら「プレゼントはどこで買っているんですか」と言うものであったが、「そごうデパートで買いました」なんて言えないから、「サンタの国で」と答えていた。今回は、私は「作っている」と答えた。
4番目は必ずある質問だ。もう何回もサンタクロースの私を見ている子もいる。これは毎回替える訳には行かない。「トナカイさんに運んで貰っています」が、定着した答えになっている。
さあ、みなさんなら何と答えますか。私の答えは書かないでおきましょう。○○をうならせたら50万。手帳大賞大募集じゃないんだけど。もし私が唸るようなのがあったら、私の敬愛を差し上げます。
すぐに、司会者にオカリナを吹いてと言われた。私はみんなに歌って貰いたかった。音が聞こえて何の曲か分かったら歌って、と言った。
「となりのトトロ」
「アナと雪の女王」
「きよしこの夜」
全部3連のオカリナ1本で吹いた。子供の生き生きとした声に合わせて吹いた。子供はテンポを左程問題にしていない。寧ろ速くなる。こちらも、そんなに正確に吹かなくてもいいのが救いだ。せめて子供の好きな曲をと思ったのだった。
年長組から順番に、代表に大きな包装されたプレゼントを渡す。2人で出て来たり、4人とか6人とかで出て来たりした。肝心のサンタは、中身を知らない。
その後小さい組の子達から一人ひとりに、係の先生が私に渡す袋詰めのお菓子を子供に渡して行った。「クリスマスおめでとう」と言ったり「メリー クリスマス」と言ったりした。たまに「ヒュバー ヨウルア」と言うと、周りも華やいだ。発音も知らないのだが、これだけは確かにフィンランド語で「メリー クリスマス」の事だった。こんな時、嘘は教えられない。
組毎に渡し終えると、記念写真。私を横からじっと見つめている子もいる。小さな手が、握手を求めて来たりする。本当に紅葉のような手だった。出来るだけみんなとしたかったが時間がない。私が手のひらを広げると心得たもので、何人もの子がタッチして来た。老体がエネルギーを貰って帰るなんてと、子供達の中にいるといつもそんな気になる。だから、サンタ稼業は止められない。
最後に小さい子はもう自分の組に帰っていたが、大きい組の子がみんなで立ち上がって「あわてんぼうのサンタクロース」を歌ってくれた。
「ありがとう。みんな、いい子だね。元気でね」
そして、
「ヒュバー ヨウルア」
と言って両手を挙げた。
「バイバイをフィンランドの言葉言いますね」
そうして私は、
「モイモイ」
と言いながら消えて行った。
「サンタさんは次もあって忙しいから」
先生の子供達に言っている声が聞こえた。ちっとも忙しくなんてないのに。この年金暮らしのサンタクロースは、全部の子と握手したかったなと思いながら、サンタの衣装を脱いで、この保育所を辞した。1時間程の1年に1度のこのサンタ物語は、こうしてクランクアップした。
オカリナは、どのようにして吹いたかですって? そう、髭がじゃまで吹けっこないもんね。
「オカリナ吹けないから、魔法で髭をずらします」
そう言ってずらして吹いた。それでも私の苦労を知ってか、茶化したりする子はいなかった。ひょっとして、私がサンタクロースだって信じてる? どっちが1枚上手なんだろう。