短く書こう。今、真剣にそう思っている。

8月30日31日は、オカリナフェスティバルで明け暮れた。

30日。家を7時半過ぎに出て、出発したばかりのバスの後、やや暑い中を日陰を探して次のバスを待った。土曜日は少ない。

8時20分頃に文化ホールに着くと、多目的ホールにはもう7、8人の女性が来ていた。30分から初めの打ち合わせがある。直ぐにそれを済ますと、2日間の袋詰めだ。プログラムと記念品を、人数分ずつ入れる。1日が58組だから、116組分を大急ぎで分担するのだ。

係の女性は10人を超すが、皆ベテランか初めての人かである。上下黒い服を着るのが原則だ。黒子に徹する意味がある。

開場は10時30分。9時過ぎに中ホールに行くと、私の姿を見て開けてくれた。何をするでもないが、実行委員長の特典かも知れない。ブースが今年は6つもあって、それぞれがオカリナや楽譜やCDを並べるのに忙しい。私はテレマン楽器の若い2人と、オカリナの事を話し合った。これも至福の時と言っていいだろう。

入場者に先駆けて、オカリナの試奏が存分に出来る。でも、話はするが試奏は一切しなかった。

端っこに、見なれない男女の外国人がいて、オカリナと楽譜を売っていた。

10時半になると受付の部屋(多目的ホール)に戻り、パーテーションの内側のテーブルに着いて,何を話したらいいか考えてみた。去年は私を呼びに来たが、今年は40分になっても誰も来ない。パーテーションの前には、受付の女性が4人いる。

私は痺れを切らして、ステージ裏を通りアナウンスをしたり順番を待ったりする下手に行った。11時開演に5分前には、出場する3組が入っている。

「ワイヤレスマイクで話して下さい」

と誰かが言った。11時にアナウンス。私は緞帳の前に進み出た。挨拶の内容は割愛する。こんな事書いても仕様がない。

これで私の任務は終わりだ。係の女性達は、演奏を観る事が出来ない。そんな様子を見させて貰った。反省したり、来年の構想を練る仕事は私にしか出来ない。それを口実に、好きなだけ聴く事が出来る。しかし、ゲスト出演が終わるまで見っ放しだと、連続8時間は聴く事となる。流石にそれはしんどい。ロビーに出て、ブースを覗いたり、多目的室に行ったり、お茶を飲んだり、トイレにいったりした。

暫くは、シマさんと奥さんと一緒にオカリナを聴いた。私は落選しているので、気分的にもこんなに暇な事はない。

突然、リハーサルのタイムキーパーをしてと頼まれた。人より早く弁当を食べると、リハーサル室に行った。2人いるのだが、1人が写真を頼まれて、その時間だけ不在となるからだ。

特にどの演奏を観なければならないと言う事もなかったが、2、3ある事はあった。一番観なければならないのがひろこさんの演奏だ。34番の出番である。

「キサス・キサス・キサス」と「君の瞳に恋してる」の2曲だが、音感が抜群の為、とてもリズミカルに演奏されていた。最初がシングル、次がトリプルだが、表情も良く安心して聴けた。聴衆は正直で、終わった後の拍手が普通ではなかった。拍手が終わると、すぐにどよめきが起きた。

私の経験からだが、ステージの上では拍手が幾ら凄くても、そんな風には全く聞き取れないのだ。況してや、どよめきや溜息は聞こえない。それが、会場にいると即座に伝わって来る。だから、そんな状態は、会場で聴いた人が話さないと、全くと言っていい程分からないのだ。ひろこさんもそう思っているに違いない。凄い拍手だとは思っていなかったに違いない。

初日のゲストは女性4人のオカリナ室内合奏団「クオーレ」だ。佐藤益子さんはアンサンブルの楽譜集を出版していて、評判がいい。10月に第2集を出すと言っていた。

6時過ぎてから、4人のアンサンブルが始まった。優しい4重奏だが、息がぴったりだった。こんな風に演じられたら、出演者誰もが楽しいだろう。きっと、いい参考になったと思う。

アンコールの嵐が起きて、2曲追加する嵌めになった。曲名はすっかり忘れている。だが、傾向を知って貰う為に、演奏された曲名はこうだ。

「修道女モニカ」

「アダージョ」

「オーラ・リー・変奏曲」

「『黒い瞳』変奏曲」

「愛のオルゴール」

「口笛吹きと犬」

「学生街の喫茶店」

「百万本のバラ」

「ペルシャの市場にて」

「エル・クンバンチェロ」

皆主婦をしたり、他の仕事をしたりしているが、演奏はプロの領域である。音が安定しているし、よくハモっている。リズムとテンポがしっかりしていて、息継ぎや出だし、フレーズの終わりの長さがぴったり合わさって止まる。色んな演奏があっていい。優しい室内合奏団は、真に参考になった。

7時半から、懇親会に移る。ゲストの4人も来た。31日のゲストはリハーサル中で、30分は遅れると言う話だった。

ここでまた簡単な挨拶と乾杯。後は自由にゲストと入り混じり歓談する事に。私はいち早くゲストの4人にビールを注ぎ、今日の特徴を捉えて話した。面白く聞いてくれたようだった。

小さなハンドベルを佐藤益子さんがやる場面があった。あの手捌きは圧巻で、その早業に目も口も丸くしていたと思う。私は、手品かショーを観ているようだった。そんな事も感想として伝えた。

その内大沢さん達が入って来た。私は前のテーブルに1人いたので、ここに4人が座った。それからは殆どこの4人と話した。特権乱用か。

大沢聡(オカリナ)。山本雅一(ピアノ)。林由恭(ベース)。林久悦(ドラムス)。林兄弟は双子で、とてもよく似ている。甥の悠介がベースをしているので、林由恭には興味があって特に話しかけた。

もう38歳になっていた。悠介を知らないと言うのもよく分かる気がする。ひょっとしてと思ったが、それは残念だった。悠介は知っているのだろうか。ただ、この兄弟2人は「イロハリズム・族音二重奏」のファーストアルバムを出している。因みにオーデイションでパスしたたと言う林由恭は、ゆずのバックをしたのだ。それで東京ドームや武道館でも演奏した経験を持つ。これも凄い事には違いない。

甥が「東京ジャズ」に出たと言うと、それは凄い事だと言ってくれた。またゲスト達と新しい体験をした。9時15分にお開きになり、私は文化ホールを後にした。

地下鉄があるのに態々JR神戸駅に歩いて下った。久し振りに新長田に寄って行こうと思い付いたのだ。そこのママさんとは長さでは彼是25年もの付き合いがある。中々行く事もないので、CDを渡す積もりだった。

慌てて飛び乗った電車のアナウンスが、「次は明石」だった。何と、何も見ずに新快速に飛び乗ってしまったのだ。明石までは速かったが、もう新長田に戻る気もなく垂水で降りた。余裕でバスで帰れて良かったと思う。また、どこかのベンチで寝なければならなくなっても大変だ。こう言う時、何かがそうしてくれたと思う事にしている。

この日はすぐに寝た。



31日の1日は、今から書こう。おや、何だか短くなっていないようだ。仕方がない。ああ、これが私の特徴かも知れない。

土曜はバスの本数が少ない。かてて加えて、日曜日は尚更だ。7時過ぎにバス停に時刻を見に行った。このまま帰ったらすぐに出なければならない時刻のバスがあり、それを逃すと30分はない。それでは、文化ホールの8時30分の集合には間に合わない。

少し早歩きをしたので、5分程の余裕が出来た。その前に自動販売機につぶつぶみかん100円のペットボトルを見付けた。100円がなかったので、1,000円札を投入した。ボタンを押した。ガチャンと言って出て来る筈だった。出て来ない。仕方なく釣り銭のレバーを押した。お釣りが出て来たが、900円。何でかは分からない。自動販売機に寄付をしたような、嫌な気分になった。それでもどう仕様もない。帰りに言いに行こう、そう胆に語った。

今日は2人位が後から来て、私が一番乗りをしたようだ。もう袋詰めはなく、昨日の仕事の延長を続行すればいい。大半のメンバーが変わった打ち合わせが済むと、私は受付に座っている係の人達と話した。私が出場しない事に就いて訊ねられたので、抽選に漏れた事を説明した。私が落選する事に、驚きを隠せない表情をした。

例の男2人の、準備真っ最中のブースに行った。タケリーナを知らなかったので持って行って見せた。それはそれは上手に吹いた。やっぱりオカリナとは違った渋い音がする。外国人のブースはオーストリア人で、どちらもオカリナを作っている。2人の内の1人が吹くと、オーストリアの女の1人がそれに合わせて吹いて来た。音楽っていいなあ。垣根のない面白いセッションとなった。

「ジス イズ ア バンブリーナ」

とオカリナでない事を投げかけると、直ぐに吹くのを止めた。竹のオカリナなど、考えてもいなかったからだろう。私は、今度はこのブースの気になるオカリナを吹き捲った。オーストリアのブースは「HANS」と言った。もうどんなオカリナでも、買う気は起らないようになっている。勿論生活に絡むからだ。だが、この「HANS」での、小さなオカリナが気になっていた。ソプラノCの上の、ソプラニーノFだった。このオーストリア女性はこれを首にかけていた。ちょっとしたアクセサリーだ。

英語しか通じないので、下手な片言で言った。

「これが欲しい。でもお金がない」

と。

彼女は苦笑していた。無駄使いはしたくなかった。しかし、音が何とも言えず、高音なのだが頗る澄んでいる。

今日は挨拶もないので、半袖シャツで来た。昨日の背広にネクタイと言ういでたちに比べ、大いに気が楽だ。

受付のある部屋に戻ろうとすると、Mさん夫婦に会った。暫く立ち話をしたが、出番が2番なのでリハーサルをするようだ。とっても素敵な、品のある夫婦である。いつか仲間にも紹介したいと思っている。

聴きたい、或いは聴かなければならない演奏はこの2番と、9番の新潟から来てくれているNさん、38番のツッキーさん、45番の南幸さんだ。

また頼まれてリハーサル室に行った。ロビーを通ると知った誰かに出会う。リハーサル室に足早に歩いて行き、それが済むと交代して受付の部屋に入った。それから弁当を食べた。弁当屋さんは同じだが、入っているものが違っていて、美味しく食べられた。

ブースではあのソプラニーノが忘れられない。10本あるもの全部手早く吹いたが、一番先に吹いたものが私は好みだった。10本は微妙に音は変わった。

男2人のブースには社長も来た。私は男2人の1人に言った。

「やっぱり『ヒロミチ』オカリナは音が抜群に安定していて、しかも綺麗な音だね。それから、『ピエタ』オカリナは、豊かな音がするし、表現力がいいし、この2つが好みです」

と伝えた。余裕のある生活が出来た時には、と淡い期待を寄せているが、それは夢物語である。

ホール内は段々に多くなり、最後ら辺では、略満員に近くなっていた。ツッキーさんは3連で美しい響きを出していた。「ヴォカリーズ」の音が、美しく編み込まれては消えて行く。演奏の上手さは流石だ。

南幸さんは最近3ヶ月で10キロ位落とし、痩せたすっきりした体になっていた。見習わなければならない。初めは帽子、サングラス、上着で「見上げてごらん夜の星を」を吹き、次に帽子とサングラスを取り上着を脱ぐと、ムキムキの体の線が現れた。見せたかったのかも知れない。このスリーブレスの姿で「シューベルトのセレナーデ」を吹いた。やっぱり誰かが言っていたように、上手くなっていた。

最後58番目ではさとしくんと言う子供が、事もなげにピアノの伴奏で「猫の恩返しより『風になる』」を吹き、会場中を驚かせた。終わった後の拍手はまるで嵐であり唸りだった。ステージが暗くなり、2人は上手に消えたが、拍手がアンコールの時のようになった。会場が沸いた。

だが、無情にも緞帳が降りた。10分後には、大沢聡のコンサートがある。

緞帳が開くと、ドラムが大きな音を叩いた。ピアノが鳴り、ベースが響き、オカリナが吠えた。本格的なセッションだ。聴き慣れたとは言え、大沢聡のオカリナは聴く度に趣向を違える。今回はロックが中心だ。例えは悪いが、彼は化け物である。

諸外国から彼の知人が集まる。世界が彼の手中にあると思った。何でも演奏してしまうのが凄い。

7時前に終わったが、そこからアンコール。「アナと雪の女王」と「情熱大陸」。ジャズ風のアレンジで吹いた。ドラムとベースとピアノを見ていて、悠介のプロジェクトを思った。まるで同じではないか。そこにオカリナがあるだけだ。私に能力があれば、実現していたかも知れない世界だったかもと、想像だけは逞しくした。

今日も色んな事があった。私に会いたいと言って2人の人が探していた所に、ロビーで私の方から呼びかけたものだから、吃驚していた。

最後の最後でひろこさん夫婦と出会った。ゲスト演奏を聴いて、満足だっただろう。

「来年も来てね」

と言うと、

「10月に来るわ」

と言う言葉が即座に返って来た。


ベースとドラムだけのCDも珍しいし、身内にベースをやる男がいる事にも拍車をかけ、CDを買ってしまった。2日間の買い上げは、考えた末のオカリナとCDの2つだった。もう9月1日になってしまっている。

こうして、私の夏は終わり、短いブログも終わり、第14回のオカリナフェスティバルも、多くの人の支えによって盛会裏に終焉を告げた。朝のジュースの代金100円は、無事に取り返した。