寒い。毛糸で編んだ黒いマフラーを、コートの下に首から巻いて垂らした。冬ソナのペ・ヨンジュン巻きにすると、首周りが強張る。だから、それは止めにした。鏡に姿を映すと、非常に格好悪い。今日は、マフラーは無しだ。
神戸シティーホールコンサートに行く為に、家を出た。首筋がスースーする。折角のシャツが覗かなければ、寒さなどの為にそれを隠してまで外出したくはない。
12月19日(水)は、12時10分から45分までが演奏時間だ。
「ヴァイオリン名曲の調べ」。谷本華子の演奏である。ピアノは姉の谷本美帆。この名前をインターネットで見た途端、釘付けになった。1年半前と2年前に、西宮のアミティーホールに聴きに行っている。初めて聴いた時、これは凄いと思った。それから、いつかまた聴きたいと思っていたのだ。
市役所1号館1階ホールは、音楽が出来るような構造になっている。勿論マイクから音を出す事はしない。
大きな花柄のワンピースの谷本華子。黒いシックなドレスの谷本美帆。姉妹の息の合った演奏が繰り広げられる。
「寒いですが、演奏で皆さんの心が暖かくなればいいと思います。でも私は寒いです」
と言って、震えて見せた。いや、本当に寒かったと思う。だが、その寒さで凄い演奏を遣って退けた。この辺がプロと言われる所以であろう。
私は、このヴァイオリンの上手さは知っていたが、他の誰が知っているだろうか。知っていれば、もっともっと立ち見が出来ていただろう。40のパイプ椅子は全部埋まったけれども、だ。
ヴァイオリンは凄い! 凄い! 凄い!
プログラムの順序を換えると言う。それがいいと、その場で変更したのだ。そこまでの思いが素晴らしい。
先ずピアソラの「オブリビオン」と「鮫」。「鮫」は、如何にもピアソラらしい曲想だった。
クライスラーの「ロンドンデリーの歌」と「プレリュードとアレグロ」。これが終わった時、「ブラボー」と叫んだ男がいた。拍手は大きく、長く続いた。もう皆、谷本華子の世界に引き入れられていた。しっかりした、美しい音色。優しさも力強さもあった。
最後は、タルティーニの「悪魔のトリル」だった。最後の無伴奏になった時のトリルの演奏が素晴らしい。この曲は、誰でも弾けるとは限らない。終わった後の拍手は途切れなかった。
アンコールは「ユーモレスク」だった。美しい旋律が、このヴァイオリンから紡がれる。姉妹の、何と気の合った演奏だろう。やっぱり、1時間半は聴きたいと思った。ただで聴けるのだから凄い。大きな舞台での活躍を願っているが、きっと名前を広げて、そんな日が近いと信じている。
時間の制限がありややオーバーしたが、終わっても半分位の人達は席を立たなかった。私もその1人である。が、パイプ椅子を畳む音が、後ろから聞こえ出した。皆、席を立つ破目になった。
暫くして、そこらにいる人と記念写真を撮る事になった。斜交いから眺めていると、私が演奏した時にお世話になったTさんが、来いとでも言うように、私を見て手招きをした。コートを着ていたが、咄嗟に脱いで放ると、ブレザーのボタンを留めて、美帆さんの横に並んで立った。コートを投げ捨てた早業が面白かったのか、姉妹2人は笑っていたようだった。
撮影の後、ちょっとだけ話した。2人は黒いコートを羽織っていた。余程寒かったのだと、この時確信した。私は、暑い8月で、脇と腹の汗でシャツが濡れ、そんな姿で演奏したのだった。どちらも辛いが、この寒さの中での演奏は、泣きそうになる程だった事だろう。
以前のコンサートで、華子さんはカナダのブランドン大学へ留学していた時の寒さを語っていたのを思い出していた。カナダは、マイナス30度もあったと言う事を。
「1年半前と2年前に、アミティーホールに聴きに行かせて貰いましたよ」
2人は、おー、と言うような動作をした。どちらともほんのちょっとの時間話したが、話すのと話さないのとでは、ライオンと猫以上の違いがある。心が、血が通う瞬間だ。
話して良かった。ぎりぎりまで躊躇していた。だが、話さなければ何事も伝わらないのである。
記念にステーキを食べて帰った。前から、行列が出来ていて気になっていたのだ。ランチだから格安で、美味い。兎に角美味い。こんなに美味いステーキを、その場で焼いて食べさせてくれる。コックは6~7人いたと思う。柔らかい、こんなステーキは初めてではないかな。そう思える程の特選肉だった。肉はまとめて買えるので、ここまで安く提供出来るのだろう。
もうちょっと食べたいと言う位で終わったが、後からお腹が膨れて来た。
「今日は、こうして話せて幸せです」
と、華子さんと美帆さんに言った。素直な気持ちだった。
上手くて、美味い、幸せな午後だった。
神戸シティーホールコンサートに行く為に、家を出た。首筋がスースーする。折角のシャツが覗かなければ、寒さなどの為にそれを隠してまで外出したくはない。
12月19日(水)は、12時10分から45分までが演奏時間だ。
「ヴァイオリン名曲の調べ」。谷本華子の演奏である。ピアノは姉の谷本美帆。この名前をインターネットで見た途端、釘付けになった。1年半前と2年前に、西宮のアミティーホールに聴きに行っている。初めて聴いた時、これは凄いと思った。それから、いつかまた聴きたいと思っていたのだ。
市役所1号館1階ホールは、音楽が出来るような構造になっている。勿論マイクから音を出す事はしない。
大きな花柄のワンピースの谷本華子。黒いシックなドレスの谷本美帆。姉妹の息の合った演奏が繰り広げられる。
「寒いですが、演奏で皆さんの心が暖かくなればいいと思います。でも私は寒いです」
と言って、震えて見せた。いや、本当に寒かったと思う。だが、その寒さで凄い演奏を遣って退けた。この辺がプロと言われる所以であろう。
私は、このヴァイオリンの上手さは知っていたが、他の誰が知っているだろうか。知っていれば、もっともっと立ち見が出来ていただろう。40のパイプ椅子は全部埋まったけれども、だ。
ヴァイオリンは凄い! 凄い! 凄い!
プログラムの順序を換えると言う。それがいいと、その場で変更したのだ。そこまでの思いが素晴らしい。
先ずピアソラの「オブリビオン」と「鮫」。「鮫」は、如何にもピアソラらしい曲想だった。
クライスラーの「ロンドンデリーの歌」と「プレリュードとアレグロ」。これが終わった時、「ブラボー」と叫んだ男がいた。拍手は大きく、長く続いた。もう皆、谷本華子の世界に引き入れられていた。しっかりした、美しい音色。優しさも力強さもあった。
最後は、タルティーニの「悪魔のトリル」だった。最後の無伴奏になった時のトリルの演奏が素晴らしい。この曲は、誰でも弾けるとは限らない。終わった後の拍手は途切れなかった。
アンコールは「ユーモレスク」だった。美しい旋律が、このヴァイオリンから紡がれる。姉妹の、何と気の合った演奏だろう。やっぱり、1時間半は聴きたいと思った。ただで聴けるのだから凄い。大きな舞台での活躍を願っているが、きっと名前を広げて、そんな日が近いと信じている。
時間の制限がありややオーバーしたが、終わっても半分位の人達は席を立たなかった。私もその1人である。が、パイプ椅子を畳む音が、後ろから聞こえ出した。皆、席を立つ破目になった。
暫くして、そこらにいる人と記念写真を撮る事になった。斜交いから眺めていると、私が演奏した時にお世話になったTさんが、来いとでも言うように、私を見て手招きをした。コートを着ていたが、咄嗟に脱いで放ると、ブレザーのボタンを留めて、美帆さんの横に並んで立った。コートを投げ捨てた早業が面白かったのか、姉妹2人は笑っていたようだった。
撮影の後、ちょっとだけ話した。2人は黒いコートを羽織っていた。余程寒かったのだと、この時確信した。私は、暑い8月で、脇と腹の汗でシャツが濡れ、そんな姿で演奏したのだった。どちらも辛いが、この寒さの中での演奏は、泣きそうになる程だった事だろう。
以前のコンサートで、華子さんはカナダのブランドン大学へ留学していた時の寒さを語っていたのを思い出していた。カナダは、マイナス30度もあったと言う事を。
「1年半前と2年前に、アミティーホールに聴きに行かせて貰いましたよ」
2人は、おー、と言うような動作をした。どちらともほんのちょっとの時間話したが、話すのと話さないのとでは、ライオンと猫以上の違いがある。心が、血が通う瞬間だ。
話して良かった。ぎりぎりまで躊躇していた。だが、話さなければ何事も伝わらないのである。
記念にステーキを食べて帰った。前から、行列が出来ていて気になっていたのだ。ランチだから格安で、美味い。兎に角美味い。こんなに美味いステーキを、その場で焼いて食べさせてくれる。コックは6~7人いたと思う。柔らかい、こんなステーキは初めてではないかな。そう思える程の特選肉だった。肉はまとめて買えるので、ここまで安く提供出来るのだろう。
もうちょっと食べたいと言う位で終わったが、後からお腹が膨れて来た。
「今日は、こうして話せて幸せです」
と、華子さんと美帆さんに言った。素直な気持ちだった。
上手くて、美味い、幸せな午後だった。