初老の私の日々と同化しているのだろうか。ここ1週間近くPCがサーバーに繋がらなく、宙を舞っていた。体も、機械も、知らぬ内に消耗して行くのだ。

昨日(20日)、大阪から夜遅く帰ったら、諦めていたPCが繋がっていた。

西梅田から3分位の所に、ライブハウス「Mister Kelly’s」はある。

1’st stageは7時30分からだが、席の事も考えて7時に着いた。吉野家と洋服の青山のどちらの道を入っても一つ奥の筋の通りに、この店はある。

悠介が知らせて来ていた。来れたら聴きに来て、と。

「ai kuwabara trio project」はジャズのメンバーだ。桑原あい(ピアノ)、森田悠介(ベースギター)、今井義頼(ドラムス)。ついこの前は琵琶湖の畔で演奏したが、これには行けなかった。

1階の受付でチャージを払って入ろうとすると、「お名前は?」と来た。面前にある名簿に私の名前はない。当然だが、予約してはいなかった。行けば入れるものだと信じ込んでいたのだ。

「完売していて、席はありません」

「私の甥に誘われて、神戸から来たんですが」

「甥?」

おいおい・・。

「ベースの森田ですが」

「ああ・・。ソウルドアウトしてしまっているので・・」

「なら、いいです。帰ります」

他意はなく、入れないのなら仕方がない。本当にそう思って言った。

「ま、そう言わずに。ぎりぎりに控え室から降りて来ますので、そこの椅子に座っていて下さい」

顔だけ見たら帰るしかないか、と思って半分がっかりしていた。

「お客さん」

そう呼ばれて立ち上がった。

「キャンセルがありましたので、お入り下さい」

「ああ、良かった!」

そう言って、立ち上がった。

入場料を渡そうとして、また言われた。

「帰る時に、払って下さい」

後ろの方の合席となった。四角のテーブルに、5人座る事になった。

「飲み物とお食事を両方お願いします」

と言うと、従業員はメニューとおしぼりを置いて去って行った。これが店の収入になるのだから仕方がない。ライブハウスによっても違うが、概して高い。

ビールが800円。一口カツが1,500円。ひえ~と言いたいが、向かいの女性に暴走老人と叫ばれると困るので、静粛老人でいた。

ビールも2、3杯飲もうと思っていたが、これは諦めて、1杯をゆっくりゆっくり亀の歩みのように飲む事に決めた。ビールは早く来た。カツは遅く、それに合わせないと勿体無いので、啜るように飲んだ。やがてカツは来たが、サラダの横に4枚乗っていた。1枚370円位になる。そう考えると一口では食べられずに、二口か三口で食べた。

7時半過ぎに3人が入場して、自然に始まった。おお、あいちゃんと悠介。私は背を向けた格好なので、時々は体を前に向けて聴いた。とっても纏まって聴こえる。前とは違って、落ち着いた雰囲気だった。演奏は元より上手かったが、雰囲気が醸し出せるようになっている。成長したな、と思った。

予約していた客が入って来る。後ろには数人が立ち見をしていた。60人ばかりの客の椅子とテブルは、溢れ返っていた。

「私は喋るのが苦手で、話すのが厭なんです」

と、あいちゃんが言う。

「この前も、凄い演奏するのに話し出したらギャップが大きいので驚いた、と言われていました」

from here to there、3=log2(8)、BET UP・・どんどん続く。楽しい気分になった。ジャズの強みである。あいちゃんの手は、上下が繋がっているかのように、鍵盤を凄まじい速度で叩く。体も揺れている。

ベースがまるで生き物のような音を出す。ドラムも余裕だ。素晴らしい。応援したくなるのはこんな時だろうと思った。

初めて聴く人達が多かったが、きっとファンになって行く事だろう。素敵なCDを出している。10曲で2,000円。「from here to there」と言う。21歳のあいちゃんが一人、とても綺麗に写っている。

8時半頃、1st stageが終わった。2nd stageは9時半からと言うので、残念だが帰る事にした。バスに遅れると、電車で垂水まで行き、そこから1時間歩いて帰らなければならない。

帰ろうとしている人が、2、3人いた。

「もうお帰りですか」

と会計をしている従業員に言われた。

そこに悠介が来た。

「やあ」

と言ったが、ちらっと私を見るだけだった。ものの数秒して、

「あ、おっちゃん!」

驚いたような顔をして、そう言った。ライブハウスの外のロビーに出た。簡単な会話を交わした。CDを買ってサインを求めている客も結構いて忙しそうだったから、私は早々に引き上げる事にした。

気が付いたのか、あいちゃんも、

「おっちゃん」

と、彼と同じように言って微笑んだ。

「赤いストロー・・」

「うん、あれからまた行って、家には3本あるよ」

と言うと、笑っていた。ポートタワーに3人で登った時、回転する喫茶で赤いストローの話をしていたのだ。

「素晴らしい演奏だった。落ち着いていたし、もっと上手になっていたし、このライブハウスはいい音を集めているようで、とても良かった」

「ここは、大阪でも一番いいライブハウスだと言われているよ」

「後、今年はもうないの」

「明日が名古屋で、帰ってから東京で」

「ここまで出来たら楽しいなあ」

「来年はもっと忙しくなるよ。オファーもあって、凄い事になりそう」

そこには、渡辺貞夫のマネージャーだとか言う人も来ていた。

壁には、日野皓正の写真も貼られていた。

今、一番楽しみな、充実している時ではないかと思いながら、その成長振りに目を細めながらそこを去った。

「来年、出雲に行くよ」

悠介はそう言った。私の楽しみでもある。