王子公園駅を降りると、コンビニで烏龍妃茶を買った。青谷公園からすぐに坂になる。左手に公園を見下ろしながら、フェンスに接近して、大きな木が幾本も立っている。一つには、ピラカンサのようなオレンジ色の小さな葡萄生りの房になった実が、沢山垂れ下がっている。だが、その隣にある桜の木以外の名前を知らない。
フェンスの隙間の外に、楓のようなしかし薄い葉が、手を差し出している。突然不純物を含んだ塩水が毛穴から噴出し、額からぼうぼうと流れ落ちる。朝ジョギングで汗を搾り出したばかりだったのに。
この暑さは、普段クーラーの部屋に篭城している私には、流石に堪える。坂道が険しいからではない。運動がきついからでもない。流れ落ちる汗が、皮膚の弛みに溜まるのが堪えるのだ。目の中に入ると海水のように痛く沁みる。しかし、ここに本当の夏を感じたのは皮肉な事だった。
見上げる空は何処までも青く、その青さは私を吸い込み、思考を停止させた。宇宙はこんな私位、屁とも思っていないのだろう。ただ、私がその雄大さと深さに項垂れるのである。ピンクの夾竹桃が更に熱気を誘う。
夏の暑さを感じたのは、ここで2度目だった。出来るだけ日陰を探しながら歩く。信号の赤など在って無いのに等しい。左右を見て、自分の責任で渡る。Sさんの家に着くと、殆ど10時だった。額の汗を拭うと、あの暑さは嘘だったかのように忘れ去られていった。
実は一昨日の飯盒炊爨の前の日に、音合わせに来ていたのだ。ピアノのプロと音楽の専門家夫婦に指摘を受け、オカリナも音楽らしい形になり出した所だった。
明日のシティーホールコンサートでのリハーサルが、都合で殆ど出来ないとの連絡で、Sさんが10時からの1時間の練習を提案してくれたのだ。私には、これを逃す手はなかった。
これが明日の本番だったらと思える程の、ピアノとオカリナの音が響き渡った。こう言う時に言う言葉が、マーガレット・ミッチェルの口から既に紡ぎ出されている。「Tomorrow is another day.」。でも、やっぱり日本語の方が分かり易いし、ぴったり胸に染む。「明日は明日の風が吹く」。そうだ、明日の事を心配するのは止そう。平常心で演奏出来る事が一番で、リラックスしてやるのが一番だ。結局は自分の問題だけなのだから。
こうして前日に練習が出来た事に感謝したい。Sさんの好意に、改めてその優しさを思う。
明日リハーサルが10分も出来ないにしても、少なくともピアノとオカリナの音のバランスだけは満足出来るようにしたい。
私の演奏は、聴衆に聴かせるなどと言う思い上がりでは決してなく、聴いて良かったと思われるような演奏をする事だ。だから、平常心で、普段の演奏をしなければならない。あがるだとかどきどきするだとか、そんな事では聴いて貰えないだろう。私にとってオカリナを人前で吹く事は、自分の精神を鍛える事に他ならないし、自分との闘いなのである。
帰りのバスの中から少し青色の薄まった空に、南極大陸のような雲が左右に厚く延びていた。先端は、氷の先のように尖っている。右のほうに目を転じると、大きな白鳥が飛んでいる。
明日の最初の曲が、この「白鳥」なのだ。
フェンスの隙間の外に、楓のようなしかし薄い葉が、手を差し出している。突然不純物を含んだ塩水が毛穴から噴出し、額からぼうぼうと流れ落ちる。朝ジョギングで汗を搾り出したばかりだったのに。
この暑さは、普段クーラーの部屋に篭城している私には、流石に堪える。坂道が険しいからではない。運動がきついからでもない。流れ落ちる汗が、皮膚の弛みに溜まるのが堪えるのだ。目の中に入ると海水のように痛く沁みる。しかし、ここに本当の夏を感じたのは皮肉な事だった。
見上げる空は何処までも青く、その青さは私を吸い込み、思考を停止させた。宇宙はこんな私位、屁とも思っていないのだろう。ただ、私がその雄大さと深さに項垂れるのである。ピンクの夾竹桃が更に熱気を誘う。
夏の暑さを感じたのは、ここで2度目だった。出来るだけ日陰を探しながら歩く。信号の赤など在って無いのに等しい。左右を見て、自分の責任で渡る。Sさんの家に着くと、殆ど10時だった。額の汗を拭うと、あの暑さは嘘だったかのように忘れ去られていった。
実は一昨日の飯盒炊爨の前の日に、音合わせに来ていたのだ。ピアノのプロと音楽の専門家夫婦に指摘を受け、オカリナも音楽らしい形になり出した所だった。
明日のシティーホールコンサートでのリハーサルが、都合で殆ど出来ないとの連絡で、Sさんが10時からの1時間の練習を提案してくれたのだ。私には、これを逃す手はなかった。
これが明日の本番だったらと思える程の、ピアノとオカリナの音が響き渡った。こう言う時に言う言葉が、マーガレット・ミッチェルの口から既に紡ぎ出されている。「Tomorrow is another day.」。でも、やっぱり日本語の方が分かり易いし、ぴったり胸に染む。「明日は明日の風が吹く」。そうだ、明日の事を心配するのは止そう。平常心で演奏出来る事が一番で、リラックスしてやるのが一番だ。結局は自分の問題だけなのだから。
こうして前日に練習が出来た事に感謝したい。Sさんの好意に、改めてその優しさを思う。
明日リハーサルが10分も出来ないにしても、少なくともピアノとオカリナの音のバランスだけは満足出来るようにしたい。
私の演奏は、聴衆に聴かせるなどと言う思い上がりでは決してなく、聴いて良かったと思われるような演奏をする事だ。だから、平常心で、普段の演奏をしなければならない。あがるだとかどきどきするだとか、そんな事では聴いて貰えないだろう。私にとってオカリナを人前で吹く事は、自分の精神を鍛える事に他ならないし、自分との闘いなのである。
帰りのバスの中から少し青色の薄まった空に、南極大陸のような雲が左右に厚く延びていた。先端は、氷の先のように尖っている。右のほうに目を転じると、大きな白鳥が飛んでいる。
明日の最初の曲が、この「白鳥」なのだ。