7月16日のザ・シンフォニーホールでは、千住真理子が丸山滋のピアノで12曲の演奏をした。2月26日に予約していたから、長い間待ったヴァイオリン・リサイタルではあった。

「私はずっとクラシックを弾いていたので、クラシックだけを弾くものだとばかり思っていました。それが、去年の3月11日のあの日から、私は日本を見直す事になったのです。こんなに美しい日本を、守って行きたいと思うようになりました。日本には素敵な曲が一杯あります。兄に相談すると、兄も同じような考えでした。それで、残して行きたい12曲を選んで6人の方に編曲をお願いし、素敵な曲が出来上がったのでした。私は、この日本の曲をこれからも弾いて行くし、よその国で演奏する時も、これら日本の曲を弾いて行きます」

そんなような事を語る千住真理子の衣装は、オレンジ色の斜めの幅が利かされていて、サリーのような感じがした。裾は金魚の尾びれのようでもあった。

3曲紹介しては続けて演奏し、そのパターンを4回繰り返した。

何か単調になりがちな曲群だが、私はチケットを購入して以来、何かを期待していた。何か参考になるものもあるだろうと思っていた。そして、それは期待以上のものだった事がはっきりした。CDは、リサイタルが始まる前に躊躇しないで買ったが、散財と知りながら、それは心の中にはしっかりと蓄財されて行くのだと思った。
   
短いブログにする為に、曲名等の羅列だけにしよう。


赤とんぼ       作曲:山田耕筰 編曲:渡辺俊幸

故郷         作曲:岡野貞一 編曲:朝川朋之

荒城の月       作曲:滝廉太郎 編曲:千住明

椰子の実       作曲:大中寅二 編曲:小六禮次郎

もみじ        作曲:岡野貞一 編曲:山下康介

浜辺の歌       作曲:成田為三 編曲:千住明

   *   *   *

宵待草        作曲:多忠亮 編曲:小六禮次郎

この道        作曲:山田耕筰 編曲:朝川朋之

早春賦        作曲:中田章 編曲:山下康介

月の沙漠       作曲:佐々木すぐる 編曲:服部隆之

初恋         作曲:越谷達之助 編曲:渡辺俊幸

夕焼け小焼け     作曲:草川信 編曲:千住明

アンコール曲   鳥の歌  アメージング・グレース


いい選曲だし、これからの私のオカリナにも、勇気と希望を与えてくれた。素晴らしい演奏だったし、圧巻だったし、千住真理子にしては前代未聞の出来事とも言えた。

CDを買っても、滅多にサインをして貰う為に長蛇の列に並ぶ事はないが、千住真理子のCDには以前1度だけサインをして貰った事があった。目の前で見る彼女に感動を覚えた記憶はあるが、残念な事に握手をして貰う事はなかった。

今回は、ホールの裏側に回ってサインを貰う事にした。サインより、あの時出来なかった握手をして貰う目的の方が上回った。幸いな事に、列の十何番目かの位置にいた。

いよいよ列が動き出した。あの時と同じようにCDに直にサインを貰った。あっと言う間にサインは終わった。手を出すと、すぐに応じてくれた。しっかり目を見て微笑んでくれた。

「素晴らしかったです」

ベルトコンベアーに乗っているようで、そう言うのが精一杯だった。だが、手が触れた事は間違いのない事実だった。こんな事で喜んでいる場合ではないが、何年か前の思いが叶った瞬間だったのである。感触などは覚えていないが、この素敵なヴァイオリニストからエネルギーを貰ったような気がした。

こうして、長年の夢が叶えられたのだった。手と手が握り合わされる事。それは、人間として生を受けた事による、不思議な、瞬間的な、温もりのある営みであった。



付記 千住真理子さんの思い

「夕焼け小焼け」や「赤とんぼ」を聴いて育った、遠い記憶がぼんやり浮かんでくる。音楽は、その記憶を一気にたぐりよせ、目の当たりに懐かしさを甦らせる。平和に時を刻んでいた私たちに、日本中を震撼させる大震災がおきた。巨大津波に続き原発事故が収束のつかない不安な事態を招いてしまい、大切な日本が今大きく傷付き立ち直れないでいる。誰もが悪夢であってくれと願い、2011年3月11日以前の日本を~取り戻すことの出来ない穏やかな誇らしい日本を~心から懐かしむ。「日本の歌」は今の私たちにとって日本の魂そのものだ。日本の歌にあるのは「かけがえのない日本そのもの」であり、失ってしまったものも、失ってない心も、歌には残されている。だから私は日本の歌を弾きたい、と思った。今いちど、日本を見つめ直し、誇りを持ってすばらしい日本を皆と共に思い出し、取り戻したい。日本のみならず世界中の人にこのすばらしい日本のメロディーを知って欲しい。そして大切な、愛する日本を、美しい日本を取り戻すために、様々な努力をしていきたい。今私は愛器ストラディバリウスで、日本の歌の魂をかなでたい。
                                                          千住 真理子