幸せは、点。一瞬の点が繋がると、幸福と言う名の人生の川になる。

その一瞬の点は4時間半に亘って繰り広げられたが、瞬く間に過ぎた。午後4時から8時半まで。京都のますえ邸での出来事だった。

ますえさんはプロの歌手だが、主にカンツォーネを歌う。その歌は、甘美な張りのある声となって口から放たれる。基本的な呼吸法ではない。腹式呼吸や胸式呼吸ではなく、本人が編み出したと言う、K式呼吸法とでも言っておこう。これを体得するのは至難の業だが、その前に、込み上げて来る笑いを噛み殺す事から始めなければならない。

京都駅でシマさん夫婦と待ち合わせて、3人でぶらり旅だ。

玄関には、この新年会を待ってくれていたかのように、ブログで見覚えのある注連縄が飾られていた。

「いらっしゃーい」。歌手の声は、返事も歌だ。声が綺麗だと言うのは、天与のものである。聞いただけで温もりを感じてしまう。

グランドピアノのある一室にテーブルが置かれ、器と料理の山。天井には優雅な扇風機が。壁にはお父様のものと言う、美しい書が表装されている。この日(13日)は味噌汁と玄米を振舞ってくれると言う。下戸のますえさんからは中古(上古では決してない私の事を、そう言う事にしている)の気持ちは分からないから、酒類は各自持参するように言われていた。

うわばみではないから、私はささやかに「にっこりマッコリ」を用意した。シマさんは勿論黒糖焼酎である。何と、初めてお会いする年上の妹さんが、赤ワインを持って来て下さっていた。先ずはグラスで乾杯だ。フルーティーな味が、喉を滑る。

男は、途中の道が分からず迎えに出て下さっていた2004さんと、シマさんと、私。女は、九州から来られたNさん、広島からのmomijiさん、年上の妹さん、シマさんの奥様、そして今日の大忙しの主人公ますえさんだった。言うなれば、ますえさんのブログに連なる者達の新年会。

1年前に初めてますえさんとブログで出会った私に、今日が有るなどどうして想像出来たであろうか。況して、プロの歌手が何処の誰かも分からぬこんな老体の馬の骨などを、相手にする訳がないのである。

天は五物を与え賜うた、としか言い様がない。美貌、美声、体力、温かい心、それにK発声法である。まだまだあるけれど。料理人。私はそれを「割烹ますゑ」と名付けている。

味噌汁と玄米のお持て成しと聞いてどう感じるだろうか。胸をときめかす美しい大きな器に、手前味噌で具沢山の味噌汁が入れられる。驚きの一品だ。それだけで十分なあてにもなるものだ。ここで感動していてはいけない。山口の白いむちむちした蒲鉾。山口の美しい緑鮮やかな葱。それから続々とますえさんの手料理。器に山盛りの五目豆。黒胡麻豆腐。高野豆腐。がんもどき。もずくと大和芋。ピーナッツ入りのおから。

momijiさんが持って来た広島菜。Tさんからの巻き寿司といなり寿司。数の子もある。一つひとつを少しずつ皿に乗せ賞味する。持ち寄りも嬉しい。

ますえさんの味は、芸術的な素敵な味だった。これからの手料理のブログが楽しみになる。写真を見ただけで、味が分かるからである。

日本料理は器で食べると言うが、目でも楽しみながら食べて飲んでいると、その至福さが広がってお腹は満ち溢れた。ちょっとだけ玄米ご飯も頂いたが、これが美味い。本当に、美味い。

シマさんは、三線を組み立てて調弦すると歌い出した。滑らかな喉が、優雅な裏声が部屋一杯に広がる。またお正月が来たみたいだった。こんな雰囲気は最高だ。話の内容は割愛するが、会は楽しく盛り上がって行くばかりだった。

私もオカリナを吹く機会を与えられ、音源がないのでアカペラで「春の海」の前半を吹いた。これは正月の雰囲気を齎すものだから、こんな機会でないとなかなか吹く事が出来ない。

また喋りながら、三線を聴き、オカリナを吹き・・。時は無常にも過ぎて行く・・。昔ならこんな表現をしただろう。何のそれは、楽しく喜びを伴って過ぎて行った。

ますえさんはどんな服装だろうかと、京都駅構内を歩きながらシマさんと話し合っていた。

「きっと洋服とジーンズ位だ」

とシマさんは言った。

「着物だと思うよ」

と私は返した。

が、ハイネックにピンクのセーター風の井出たちだった。シマさんが勝利した。それもそうだ。料理を作るのは大変だったろうますえさんが、着物では動き辛いだろう。でもまた、こんな普段の姿を見られて、楽しみも倍増した。

ブロブの訪問者が20,000人達成。またホームページの立ち上げを記念しての会でもある。こんな風に大義名分を掲げてさり気なく会を開くますえさんは、極めて人間的だ。何でも似合う人だが、これこそますえ七変化だと思った。現代風に言えば、ますえマジックか。

満腹なお腹を抱えヒーフー言いながらも、別腹だと言ってロールケーキや牛蒡の入ったお菓子を食べた。マッコリを飲み、ケーキを食べ。スイーツとお酒は、意外と合うのである。

こうして、帰る段になると、時計は8時半を告げていて、ここが京都だと知る有様だった。外は暗く、空気は冷たく張り詰めていた。2004さんも始めて会ったが、皆さんとても素敵な人達だった事を付記して置く。

今日は、ますえさん、皆さん、ありがとう。

シマさん達とは三宮で別れた。10時に5分前だった。豚まんの一貫楼は10時に閉まる。まだ食べるのかと言われそうだが、後悔するのは嫌だ。1個熱々を食べて帰ろうと考えていたが、もう熱いのはなかった。仕方なく、家のレンジでチンの冷たいのを2個買った。大事そうに抱えてバスに乗った。

家ですぐにチンして食べたのは言う迄もない。2個食べたのではない事だけは申し添えて置こう。だが、豚まんを買った事には確かに後悔しなかったものの、夜食べて寝た事には、やや後悔した。その夜、すっかり忘れたが、ますえさんの夢を見た。