韓国人がその場で作っていたと言うマッコリを、以前娘がどこからか買って来ていた。買った日の次の日が旨いと言われていたそうだが、それから大分経った昨日の夜、飲んでしまおうと思った。

蓋を取るとプシュッと音がして、振っていたマッコリはすぐに瓶の口にまで達した。慌ててコップに注いだ。これは炭酸が入っているのではなく、明らかに醗酵したものだと想像が付いた。

酸っぱくなっていたマッコリを飲むと暫くしてうとうとしたみたいで、目が開いた時間が午前3時半頃だった。超スロージョギングが待っているのに、暫く寝ないとなあと思い、布団を敷いた。頭の中で、「5時半まで2時間」と強く唱え、眠りに就いた。

眠りに入るのには結構エネルギーを要するもので、暫くKBC放送を聴いた後、ラジオを腕が伸びる先まで押しやった。4時には眠っていたように思う。辛い目覚めだが、それは5時だった。呪文が効いたのだった。

ジュースを作って2杯飲むと、あの白装束の女に出会えるかを思いながら歩き出した。いや、走り出したのだが、歩くより遅くても、走っていると表現する方が良さそうだ。少し早く、5時45分に出発だ。

眠さも吹き飛ぶ程、歩道に植えられたシャリンバイの白い花は可憐だった。咲き方が桜のようではなく疎らで、或る所は満開、或る所は咲き始めみたいなところがあった。全体としてみると7部咲き位だと思う。

その時前方に女の姿が見えた。鼠色のパンツに黒のTシャツ。帽子も被っていなければマスクもしていない(何で分かるんや)。頭はおかっぱ風なので、あの白装束の女ではない。脚が結構長い。体型は中肉中背で、横にやや広い。殆ど二の腕が顕に覗いて、それが伸びたまま後ろに振られて来る。と思った瞬間、左の路地に消えたのか、姿を失った。またお化け? そう思えたが、朝っぱらからお化けが出る筈がない。それとも、お化けの世界も事情が変わったのだろうか。

腿の横が痛かったのは、少しだが改善された。すると前方に再び現われた。お化けではなかったと思った瞬間、また消えた。何だこれは? ジョギングの道は、そこからが左に大きなカーブを描いていたのだ。

ずっと前下手なゴルフをしていた事があるので、距離の目測は大体分かる。私と女の間は約30ヤード離れていた。けれども、走っても走っても姿が見えない。それだけ大きなカーブなのだが、直線に出た時にもし見えなかったらとの、不安と期待が交錯した。

いた! こんな時は、少し失礼な言葉になってしまう。20ヤードに迫っていた。ほっとした。お化けではなかったのだ。しかし、顔が見たいと思った。後10ヤード。すれ違いざまはドキドキした。顔を見られる瞬間が巡って来たのだ。だが、横を振り向いて見るには勇気が要った。そんな勇気はなかった。意気地なし!

Uターンする所にやって来ると、信号が赤になった。期待を込めて、ちらっと来し方を眺めた。だが、その姿はなかった。何処に消えたのか。やっぱり、お化けだったのか。手掛かりを失ってしまった。

この辺りに差し掛かると、もう汗が滲んでいる。横断歩道の信号待ちは、赤になった瞬間から青に変わるまで、1分掛かる事が分かった。こうして休めるのはとても助かる。脚がとても楽になるのだ。信号を渡って反対側を見ると、黒いシャツに赤い袋を提げた昨日の男が、同じように左手に犬の紐を掴んで歩いていた。

今日は何故だか脚が重く、おまけに帰路は上り坂だ。止めたい! やめたら? と誘惑の坂は優しく囁く。もう、シャリンバイが可愛いなどとはとても思えなかった。往路と復路のこの気分の差は大きい。お化けが出ても、もう何とも感じないだろう。追っかけられても走れない。

こんな時に限って小鳥が鳴く。鶯などはとても綺麗な声で。嘲笑っているのか励ましてくれているのか分からないが、私はそんな声を聞きたくはなかった。ホーホケキョ! 上手いでしょう? と言うように鳴く。畳み掛けるように追い討ちをかける。ケキョ、ケキョ、ホーホケキョ! 

分かっている。それは自分の感じ方、受け取り方だと言う事は。鶯は何の変わりもなく鳴いているだけだ。それを嘲っているとか励ましているとか思うのは自分だ。小鳥や自然に何の他意もないのである。これを、励ましてくれている、とどの極限まで感じられるか。これも修行の一つなのかと思う。どんな状況にあっても、綺麗な声だなあと思える自分と出会いたい。

相手が人間となるとややこしくなるが、それでも相手のいい所が見られる自分に昇華させたいと思わせられた。そうでないと、人生後戻りではないか。

超スロージョギングはウオーキングと違って、そんな事まで考えさせてくれる。朝っぱらからお化けまで見る事が出来る。時間帯は同じにする方がいいとは思うが、早くすればまた、別のお化けに出会えるかも知れない。何だかお化けが身近なものになりそうに思えた。だが今は、思い切ってその顔を見る事が出来ないでいる。お化けにも、面子と言うものがあるのだろう。

4回とも信号で止まる事が出来たので完走出来たと思う。正味2分程の停止だ。今日は37分掛かったが、この2分何がしかを、ロスタイムとして引いて貰えないものか。