建国記念の日。紀元節。天長節。
私は、紀元節の方が一番しっくりする。
もう四十何年も昔・・、そう言いながら窓から眺める雪に思いを重ねる。それよりも先に、その歩んで来た人生と言う言葉と場面が、瞬間的に消える。長くて短くて一瞬のそれを、重力に逆らわずに落ちてくる無数の雪片の悠久に、心を溶かしながら見つめる自分がいた。
東京で学生だった時、敢えて口に上せるその紀元節を挟んで、3日間雪が降った。偶然と言う人も沢山いる。私もそう思いかけたが、それは、今でも分からぬ何かの意思が働いていた不思議な時間だったように思う。そうして今日の、雪。
雪国では、全くそんなことには関係ないかのように降り積もり、雪害まで齎すと言うのに。
昨日の夜も霙が降り、三宮の夜更けは冷たかった。
6時30分開場。7時30分開始のライブ。その会場に私はいた。「小林エミBirthday Live」。30周年を記念するCHICKEN GEORGEは、東急ハンズの北、生田神社の西側にある。円形の、モダンな建物の地下にある。
小林エミは14才で歌手デビューをし、賞を総なめにして来た、R&Bやオールディ-ズなどを中心に歌う歌手である。
テーブルは30。椅子は120脚を並べる事が出来る。始まる直前には満員状態だったが、2、3人で座ったりしていたテーブルもあるので、80人位だろうか。それでも、ライブハウスなら上の口だと思う。
チキンジョージは初めてだったが、私はライブハウスに来たら、「ライブはジンライム」に決めている。また、ここもチケットの他に1000円の飲食券を買う事になっている。ジンライムは600円だ。
席に戻ってチビチビ勿体無い風に飲んでいると、知った人の集団が入って来た。その中の3人は、エミさんの親戚なのだ。暫く会っていなかったが、私もよく知っている3人だった。その一人が、
「それ、何?」
と聞いて来た。
「ジンライム」
と答えた。水だと思っていたのだろう。
「ビールはどう」
「ビールもいいですね」
と言うと、早速ビールと枝豆を買って来て、私にサービスしてくれた。もうじき始まる時間に近くなったので、残りの400円券で食べ物を購入しようと席を立った。残り400円では、カレーコロッケがあった。2個と野菜少々。
エミさんの息子とも、主人とも話した。もうお分かりだと思うが、エミさんと知り合いになってから10年近くが経とうとしている。年賀状に、このライブの事が書かれていて、この葉書を持参すれば当日でも、前売券と同じ値段になるそうだ。
暫くしてもう一人の女性がビールを持って来てくれた。嬉しい限りだ。後から私のテーブルに座った年配の夫婦とも、一言二言話した。
「エミさんのファンですか」
「ファンと言うのではなく、一度聴いた事があって。あなたは?」
「私は知り合いなんです」
7時30分はとうに過ぎていた。出演者が出て来たのは50分過ぎだった。
「みなさん、こんばんは。今日は私の誕生日で、Go go. Let’s go.です。もうすぐ赤いべべ着るようになります。55歳になりました」
「もう60歳じゃない」
「まだよ」
「四捨五入したらね」
曲名は記憶していない。エミさんの歌唱力は凄いので、圧倒される。先ず3人で演奏した。八木のぶおはハープとボーカル。岩田浩史はギターとボーカルだ。クロマチックハーモニカの音が、息を潰したように鳴り響く。ギターとの掛け合いの中、エミさんが歌う。「Don’t change hair for me・・」
岩田浩史は煙草を銜えて吸いながら爪弾いている。途端に煙がステージに霧を作って流れる。初めて見た、驚きの光景だった。ステ-ジがメインなのか客席がステージなのか分からなくなった。垣根を取り払おうと言う寸法だったのだろう。
ブルースハープが、こんなにも美しく響くものかと思った。すぐさま、私がオカリナで吹いている所を想像した。これは、ちょっとだけパクリでやれると感じた。そして、クロマチックハーモニカを40年近く前に買っていた事を思い出した。でも、どこにあるか分からない。無性に吹いてみたくなったし、オカリナ演奏の時、ハーモニカを吹いてもいいなと思えた。複音ハーモニカなら、引き出しに入っている。Aなんだけど。これで上の列だけ吹けば、ブルースの気分が出せる。
八木のぶおは、音を長く続けた。よく考えなくても、ハーモニカは吹いたり吸ったりするから、音が途切れない。オカリナと大いに違う所だ。誰かに循環呼吸法を教わりたいと、頻りに思う。かつてモンゴルのリンベの音を、10分間、息を切らずに演奏で吹いた人を知っている。その時は、国宝的オルテンドーの歌手が歌っていた。
私は、ヤタック(モンゴルの琴)を弾いているその音に惹かれ、早速「モンゴルの少女」と言う曲を作った。その人と、出来る事ならデュオをしたいと思ったからだ。いつか会えて、楽譜を渡せるだろうか。頭の中では、ヤタックとオカリナが絶妙な音で交錯する。
話が飛んでしまった。沖縄で演奏した時に世話になったと言う女性が、一曲演奏する機会を貰った。「童神」を、ギター片手に方言で歌った。最後は我々に分かる言葉で。こんな曲でも挿入出来るのだったら、いつかオカリナを10分でいいから吹かせて貰えたらいいなと思った。思うだけで、私に実力があるかどうかは問題外で。
後はゲストが3人。後半はこれらの人達が入って盛り上がる。サイドの長テーブルに座ってお酒を飲んでいる。談笑している。煙草を吸っている。ギターを弾きながら、
「後ろから指示が飛んで来る。私語が多くて」
と、名前は忘れたが、ピンクのシャツを着た年寄りが、表情を変えずに言った。
若いギター弾きのゲストは、相手のボーカルが東北で足止めになって来られないと言った。エミさんが代わりに歌った。エミさんも周りの演奏者も、流石にプロだと、そんな場面で改めて思う。
「春場所が中止になったみたいだけど、それで皆さんここに来たんですか」
シャーシャーと言うゲストのMCにも、常に笑顔で受け答えをしたり見つめたりしている。顔色を変えない。聴衆に不安や嫌悪感、更にはマンネリズムを感じさせない。そして、いつしか乗せて行く。これがプロの鉄則の一つかも知れないと思った。
スペシャルゲストは有山じゅんじ。声はクリアーで個性的だ。今日はご機嫌だとか、蔭のプロデューサーだと言ったりしていた。こうして、演奏の輪が出来る。ベースの天野SHOもいた。ベースが入ると全体が引き締まる。これらゲストのファンも中にはいるだろう。黄色い? いや、橙色の声援が飛んだ。
プレゼントや数本の蝋燭に火を点けた誕生ケーキが渡された。その中のブーケとマイクを持って、エミさんは歌った。最後は、男のボーカルがMCをしながら、エミさんと歌った。会場は、拍手と熱気と音の渦に包まれた。
アンコールでは最初の3人が出て来て、振り出しに戻り、そして終わった。
エミさんも何枚かCDを出している。その中の「Do it! 二枚目」はDrums:小野秀夫 Bass&Kalimba:山田晴三 Vocal:小林エミ Guitar&Vocal:西野やすし Keyboard:中村建冶のメンバーだ。
LOVE IS GONE
SHOWが始まる
月の島
気にせえへんよ
YOU’LL GET YOUR WAY
NEVER THOUGHT ABOUT IT
FUNNY GUY
LOVE TO BE FOUND
エミさんの演奏に今日も出演した、天野翔の演奏の入った男3人組のCDもある。「With the Wind YANOMANS」と言う。メンバーは、矢野あきら、天野SHO、西口善之。
私は、小林エミ、天野SHO、西口善之の演奏を観た事がある。小林エミさんは、リハーサルでは盛んに会場で手を打ち、音を確かめていた。入念にエンジニアと調整をしていた。アマチュアの私だって、音響には気を遣う。いい音を聴いて貰いたいからだ。だから、エミさんのそのプロフェショナルな真剣な行為に、私は何目も置く事になる。
その時、オカリナを吹いたらと、エミさんがいとも易々と言った。今でもその驚きを忘れる事はない。ギター伴奏を西口善之さんがすると言う。早急にリハ。たった1度だけ。私は1曲で十分だった。エミさんは何曲でもいいと言ったが、そんな状況で! しかも、エミさんのステージなのに・・。
それを思い出していた。西口さんは、かつて「紙ふうせん」のギターを弾いていた人だ。私が吹いたのは、数少ない得意曲の一つ、「浜辺の歌」だった。美しい! 上手い! 凄い! そんな伴奏で演奏出来て、感動ものだった。
しかも、後で西口さんに、
「オカリナ、ギターと合いますね」
と言われた。エミさんは、実現しそうもない事を平気で言った。
「いつでも言ってくれたら、善之ちゃんに伝えるよ」
と。もう、その言葉だけで十分だった。そんな事を思い出しながら、ライブが終わったのは10時50分頃だった。ビールをご馳走になった人達に挨拶をしてすぐに外に出たが、雨のような霙が降っていた。駅の傍の「七兵衛」でカツ丼が食べたかった。店の中は暗く、「完売しました」と看板が掛けられていた。仕方なく、隣りの海鮮丼屋さんに入った。
ちょい炙り海鮮丼とか鰻丼とか色々あったが、雲丹の乗った海鮮丼特上に目が行った。それが960円だ。躊躇大なり。考えたが、ここは海鮮丼屋さんだし、飲んでるし、まっええかと思って戸を開けた。営業しているだけましだ。
「海鮮丼を」
「150円で赤だしが出来ますが」
「じゃ、それ」
算盤を弾いた。弾かなくても1110円だ。
やがて出来てきたが、雲丹が乗っていなかった。ははーん、480円の海鮮丼だなと思った。結構美味いし、特上と言わなかったし、これで良かったと安堵した。後赤だしだが、若い従業員は味噌汁の入った鍋を覗いただけで、中々出してくれなかった。
ご飯も終わりに近づいたが、それでも出る気配はなかった。遂に終わってしまった。まあ、飲むだけでもいいかと思ったが、出てこない。聞くのも嫌味みたいで、
「いくらですか」
と聞くと、
「480円です」
と返って来た。500円玉を置いて20円貰うと外に出た。ここも美味いと思ったが、何で赤だしが出なったかが不思議である。
垂水駅まで娘が来るのを待ちながら、ハートインでピノを買った。悩んだ末、日清焼そばも一つ買った。車の中で、食べない方がいいと何度も言われた。でも食べたいと思った。初志貫徹である。お蔭で、朝、胃が凭れていた。
そして久し振りに見た雪。雪の害に苦しむ人達には申し訳ないが、本当にこの牡丹雪の降る様は美しい。カーテンを全部開けて眺めた。外に出て、椿の木に降り積んだ雪をデジカメに収めた。車のリヤウインドの雪を、箒で撫で落とした。
娘と孫を迎えに行き、こうしてブロブを書いていると周りが急に明るくなって、向こうの家の屋根が白くなっている他は、もう木々にも庭にも雪の姿はなく、朝から今までの出来事が幻のように過ぎた事を知った。
私は、紀元節の方が一番しっくりする。
もう四十何年も昔・・、そう言いながら窓から眺める雪に思いを重ねる。それよりも先に、その歩んで来た人生と言う言葉と場面が、瞬間的に消える。長くて短くて一瞬のそれを、重力に逆らわずに落ちてくる無数の雪片の悠久に、心を溶かしながら見つめる自分がいた。
東京で学生だった時、敢えて口に上せるその紀元節を挟んで、3日間雪が降った。偶然と言う人も沢山いる。私もそう思いかけたが、それは、今でも分からぬ何かの意思が働いていた不思議な時間だったように思う。そうして今日の、雪。
雪国では、全くそんなことには関係ないかのように降り積もり、雪害まで齎すと言うのに。
昨日の夜も霙が降り、三宮の夜更けは冷たかった。
6時30分開場。7時30分開始のライブ。その会場に私はいた。「小林エミBirthday Live」。30周年を記念するCHICKEN GEORGEは、東急ハンズの北、生田神社の西側にある。円形の、モダンな建物の地下にある。
小林エミは14才で歌手デビューをし、賞を総なめにして来た、R&Bやオールディ-ズなどを中心に歌う歌手である。
テーブルは30。椅子は120脚を並べる事が出来る。始まる直前には満員状態だったが、2、3人で座ったりしていたテーブルもあるので、80人位だろうか。それでも、ライブハウスなら上の口だと思う。
チキンジョージは初めてだったが、私はライブハウスに来たら、「ライブはジンライム」に決めている。また、ここもチケットの他に1000円の飲食券を買う事になっている。ジンライムは600円だ。
席に戻ってチビチビ勿体無い風に飲んでいると、知った人の集団が入って来た。その中の3人は、エミさんの親戚なのだ。暫く会っていなかったが、私もよく知っている3人だった。その一人が、
「それ、何?」
と聞いて来た。
「ジンライム」
と答えた。水だと思っていたのだろう。
「ビールはどう」
「ビールもいいですね」
と言うと、早速ビールと枝豆を買って来て、私にサービスしてくれた。もうじき始まる時間に近くなったので、残りの400円券で食べ物を購入しようと席を立った。残り400円では、カレーコロッケがあった。2個と野菜少々。
エミさんの息子とも、主人とも話した。もうお分かりだと思うが、エミさんと知り合いになってから10年近くが経とうとしている。年賀状に、このライブの事が書かれていて、この葉書を持参すれば当日でも、前売券と同じ値段になるそうだ。
暫くしてもう一人の女性がビールを持って来てくれた。嬉しい限りだ。後から私のテーブルに座った年配の夫婦とも、一言二言話した。
「エミさんのファンですか」
「ファンと言うのではなく、一度聴いた事があって。あなたは?」
「私は知り合いなんです」
7時30分はとうに過ぎていた。出演者が出て来たのは50分過ぎだった。
「みなさん、こんばんは。今日は私の誕生日で、Go go. Let’s go.です。もうすぐ赤いべべ着るようになります。55歳になりました」
「もう60歳じゃない」
「まだよ」
「四捨五入したらね」
曲名は記憶していない。エミさんの歌唱力は凄いので、圧倒される。先ず3人で演奏した。八木のぶおはハープとボーカル。岩田浩史はギターとボーカルだ。クロマチックハーモニカの音が、息を潰したように鳴り響く。ギターとの掛け合いの中、エミさんが歌う。「Don’t change hair for me・・」
岩田浩史は煙草を銜えて吸いながら爪弾いている。途端に煙がステージに霧を作って流れる。初めて見た、驚きの光景だった。ステ-ジがメインなのか客席がステージなのか分からなくなった。垣根を取り払おうと言う寸法だったのだろう。
ブルースハープが、こんなにも美しく響くものかと思った。すぐさま、私がオカリナで吹いている所を想像した。これは、ちょっとだけパクリでやれると感じた。そして、クロマチックハーモニカを40年近く前に買っていた事を思い出した。でも、どこにあるか分からない。無性に吹いてみたくなったし、オカリナ演奏の時、ハーモニカを吹いてもいいなと思えた。複音ハーモニカなら、引き出しに入っている。Aなんだけど。これで上の列だけ吹けば、ブルースの気分が出せる。
八木のぶおは、音を長く続けた。よく考えなくても、ハーモニカは吹いたり吸ったりするから、音が途切れない。オカリナと大いに違う所だ。誰かに循環呼吸法を教わりたいと、頻りに思う。かつてモンゴルのリンベの音を、10分間、息を切らずに演奏で吹いた人を知っている。その時は、国宝的オルテンドーの歌手が歌っていた。
私は、ヤタック(モンゴルの琴)を弾いているその音に惹かれ、早速「モンゴルの少女」と言う曲を作った。その人と、出来る事ならデュオをしたいと思ったからだ。いつか会えて、楽譜を渡せるだろうか。頭の中では、ヤタックとオカリナが絶妙な音で交錯する。
話が飛んでしまった。沖縄で演奏した時に世話になったと言う女性が、一曲演奏する機会を貰った。「童神」を、ギター片手に方言で歌った。最後は我々に分かる言葉で。こんな曲でも挿入出来るのだったら、いつかオカリナを10分でいいから吹かせて貰えたらいいなと思った。思うだけで、私に実力があるかどうかは問題外で。
後はゲストが3人。後半はこれらの人達が入って盛り上がる。サイドの長テーブルに座ってお酒を飲んでいる。談笑している。煙草を吸っている。ギターを弾きながら、
「後ろから指示が飛んで来る。私語が多くて」
と、名前は忘れたが、ピンクのシャツを着た年寄りが、表情を変えずに言った。
若いギター弾きのゲストは、相手のボーカルが東北で足止めになって来られないと言った。エミさんが代わりに歌った。エミさんも周りの演奏者も、流石にプロだと、そんな場面で改めて思う。
「春場所が中止になったみたいだけど、それで皆さんここに来たんですか」
シャーシャーと言うゲストのMCにも、常に笑顔で受け答えをしたり見つめたりしている。顔色を変えない。聴衆に不安や嫌悪感、更にはマンネリズムを感じさせない。そして、いつしか乗せて行く。これがプロの鉄則の一つかも知れないと思った。
スペシャルゲストは有山じゅんじ。声はクリアーで個性的だ。今日はご機嫌だとか、蔭のプロデューサーだと言ったりしていた。こうして、演奏の輪が出来る。ベースの天野SHOもいた。ベースが入ると全体が引き締まる。これらゲストのファンも中にはいるだろう。黄色い? いや、橙色の声援が飛んだ。
プレゼントや数本の蝋燭に火を点けた誕生ケーキが渡された。その中のブーケとマイクを持って、エミさんは歌った。最後は、男のボーカルがMCをしながら、エミさんと歌った。会場は、拍手と熱気と音の渦に包まれた。
アンコールでは最初の3人が出て来て、振り出しに戻り、そして終わった。
エミさんも何枚かCDを出している。その中の「Do it! 二枚目」はDrums:小野秀夫 Bass&Kalimba:山田晴三 Vocal:小林エミ Guitar&Vocal:西野やすし Keyboard:中村建冶のメンバーだ。
LOVE IS GONE
SHOWが始まる
月の島
気にせえへんよ
YOU’LL GET YOUR WAY
NEVER THOUGHT ABOUT IT
FUNNY GUY
LOVE TO BE FOUND
エミさんの演奏に今日も出演した、天野翔の演奏の入った男3人組のCDもある。「With the Wind YANOMANS」と言う。メンバーは、矢野あきら、天野SHO、西口善之。
私は、小林エミ、天野SHO、西口善之の演奏を観た事がある。小林エミさんは、リハーサルでは盛んに会場で手を打ち、音を確かめていた。入念にエンジニアと調整をしていた。アマチュアの私だって、音響には気を遣う。いい音を聴いて貰いたいからだ。だから、エミさんのそのプロフェショナルな真剣な行為に、私は何目も置く事になる。
その時、オカリナを吹いたらと、エミさんがいとも易々と言った。今でもその驚きを忘れる事はない。ギター伴奏を西口善之さんがすると言う。早急にリハ。たった1度だけ。私は1曲で十分だった。エミさんは何曲でもいいと言ったが、そんな状況で! しかも、エミさんのステージなのに・・。
それを思い出していた。西口さんは、かつて「紙ふうせん」のギターを弾いていた人だ。私が吹いたのは、数少ない得意曲の一つ、「浜辺の歌」だった。美しい! 上手い! 凄い! そんな伴奏で演奏出来て、感動ものだった。
しかも、後で西口さんに、
「オカリナ、ギターと合いますね」
と言われた。エミさんは、実現しそうもない事を平気で言った。
「いつでも言ってくれたら、善之ちゃんに伝えるよ」
と。もう、その言葉だけで十分だった。そんな事を思い出しながら、ライブが終わったのは10時50分頃だった。ビールをご馳走になった人達に挨拶をしてすぐに外に出たが、雨のような霙が降っていた。駅の傍の「七兵衛」でカツ丼が食べたかった。店の中は暗く、「完売しました」と看板が掛けられていた。仕方なく、隣りの海鮮丼屋さんに入った。
ちょい炙り海鮮丼とか鰻丼とか色々あったが、雲丹の乗った海鮮丼特上に目が行った。それが960円だ。躊躇大なり。考えたが、ここは海鮮丼屋さんだし、飲んでるし、まっええかと思って戸を開けた。営業しているだけましだ。
「海鮮丼を」
「150円で赤だしが出来ますが」
「じゃ、それ」
算盤を弾いた。弾かなくても1110円だ。
やがて出来てきたが、雲丹が乗っていなかった。ははーん、480円の海鮮丼だなと思った。結構美味いし、特上と言わなかったし、これで良かったと安堵した。後赤だしだが、若い従業員は味噌汁の入った鍋を覗いただけで、中々出してくれなかった。
ご飯も終わりに近づいたが、それでも出る気配はなかった。遂に終わってしまった。まあ、飲むだけでもいいかと思ったが、出てこない。聞くのも嫌味みたいで、
「いくらですか」
と聞くと、
「480円です」
と返って来た。500円玉を置いて20円貰うと外に出た。ここも美味いと思ったが、何で赤だしが出なったかが不思議である。
垂水駅まで娘が来るのを待ちながら、ハートインでピノを買った。悩んだ末、日清焼そばも一つ買った。車の中で、食べない方がいいと何度も言われた。でも食べたいと思った。初志貫徹である。お蔭で、朝、胃が凭れていた。
そして久し振りに見た雪。雪の害に苦しむ人達には申し訳ないが、本当にこの牡丹雪の降る様は美しい。カーテンを全部開けて眺めた。外に出て、椿の木に降り積んだ雪をデジカメに収めた。車のリヤウインドの雪を、箒で撫で落とした。
娘と孫を迎えに行き、こうしてブロブを書いていると周りが急に明るくなって、向こうの家の屋根が白くなっている他は、もう木々にも庭にも雪の姿はなく、朝から今までの出来事が幻のように過ぎた事を知った。