10月17日の日曜日午後3時に、私は兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールの4階の席にいた。

仲道郁代ショパン鍵盤のミステリー全4回シリーズのうちの最終回「祖国への遺言」(1845-1849)を聴く為だ。私はシリーズ全部を聴いた訳ではない。前にこのシリーズは1度程聴いている。

一人の人間として見た時のショパンには、苦悩も一杯ある。それでも39年の生涯でこれ程の類を見ないピアノ曲を残した人も稀である。今尚、数々のピアニスト達に受け継がれているのだ。

今年が生誕200年。没後161年である。作家ジョルジュ・サンドとの別離は、決定的に死期を早めたと思う。最後の年は、哀れさえ誘う。けれど、ショパンは永遠だ。

淡々とした仲道郁代の口ぶりは自然体である。気持ち良く聞こえる。優しい語り口なのだ。演奏体勢に入ると、すぐに弾き出すのが特長とも言える。座ったかと思うと両手が鍵盤に置かれ、すぐに鳴り出す。

37歳で9年の間一緒に暮らしたサンドとの別離は耐え難いものだっただろう。そんな中で4つのマズルカ作品68より「第49番へ短調作品68-4(絶筆)」は涙を誘う。ピアノの寵児として生を受けたとも思われるショパンを、しみじみと味わう2時間半(20分の休憩を含む)だった。

今日10月17日は、ショパンの命日だ。1849年に逝った。パリのペールラシェーズの墓地に眠っているが、彼の心臓は姉のルドヴィカが、祖国ポーランドに持ち帰った。ショパンは、祖国ポ-ランドを愛し続けていたのだ。

それにも況して、仲道郁代のピアノが素晴らしかった。彼女は彼女の境地を作り出しているように思えた。「ピアノ・ソナタ第3番ロ短調作品58」には圧倒された。こんな素晴らしい曲があったのだと。あるものがあれば、CDが欲しい。ユンディ・リか仲道郁代。


2つのノクターン 作品62より
  第17番 ロ短調 作品62-1
3つのワルツ 作品64より
  第6番 変ニ長調 作品64-1《小犬のワルツ》
  第7番 嬰ハ短調 作品64-2
3つのマズルカ 作品59
  第36番 イ短調 作品59-1
  第37番 変イ長調 作品59-2
  第38番 嬰ヘ短調 作品59-3
幻想ポロネーズ 変イ長調 作品61

休憩

ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 作品58
  第1楽章 アレグロ・マエストーソ
  第2楽章 スケルツォ:モルト・ヴィヴァーチェ
  第3楽章 ラルゴ
  第4楽章 フィナーレ:プレスト・ノン・タント
4つのマズルカ 作品68よりより
  第49番 ヘ短調 作品68-4(絶筆)

2度の衣装替えで、2度目はシックな装いだった。アンコール曲は、以前からの聴衆のアンケートで選ばれた。断トツで「英雄ポロネーズ」だった。私も、それだと思っていた。左手のあの独特な弾き回しが印象に残る。やっぱりこれは名曲中の名曲だろう。

袖に引っ込んでも、勿体ぶった所など微塵もなく、すぐに出て来た。最後のアンコールはショパンではなかった。

「私がいつも最後に感謝の気持ちで演奏させて貰う、エルガーの愛の挨拶を弾きます」

そう言って、それを弾いた。染み込んでくる音だった。最後は、段々上って行く音ではなかった。この曲は、私も好きで、いつかオカリナで吹こうと思っている曲の内の1つだ。

いい曲を聴かせてもらった。後でサイン会付きのCD販売があったが、財布を開けてもそうそう3,000円の鳩が飛び回ってくれる訳ではなかった。それは、今度じっくりと考える事にしよう。ただ、近くで顔を見て、握手できなかったのは寂しい。