大相撲秋場所の千秋楽は、娘を迎えに行く病院への途中、車の中で聴いた。TV画面は、信号で止まるたびに観た。ただ一つの取り組みの様子か結果が知りたくて。そうして、最後の一番は何度か観たり聴いたりした。

白鵬の事だ。

昨日(26日)の千秋楽に日馬富士に勝った時は、次の場所への希望に繋がった。それにしても、あのよく動く日馬富士を、危なげもなく寄り切った。何故喜んだかは、白鵬の人格と人間性に感服するからである。モンゴル出身の横綱だとは考えられなくなった。それだけ、この人の土俵でのインタビューの言葉に胸を打たれた。涙さえ滲みそうだった。

朝日新聞の記事に野村周平記者が書いている。全文載せるので、私が感動した所を指摘して欲しい。と言って、この記事を読めば百人が百人みんな同じ所を指すと思う。



横綱白鵬が万全の相撲で日馬富士を下し、14日目で決めた通算16度目の優勝に、4場所連続の全勝で花を添えた。4場所連続の全勝優勝は、1場所15日制が定着した1949年夏場所以降で初。全勝優勝は通算8度目で、双葉山、大鵬の両横綱に並んだ。昭和以降2位の連勝記録も「62」に伸ばした。

支度部屋に戻った白鵬の息の乱れはなかった。背中にうっすらと汗をにじませ、「最後まで自分の相撲をとれた」と事も無げに言った。

あっさりと4場所連続全勝優勝を達成した。立ち合いで日馬富士に多少押されたものの、右を差しているからすぐ形勢を逆転できる。5秒1の速攻で土俵外へ寄り切った。

優勝インタビューでは、はっきりした口調で言った。「私は決して、力強い人間ではありません。ただ、運があった。運は努力している人間にしかこない」と。

一人横綱になって4場所。この間、白鵬は勝ち続けることの難しさを知った。だから、己の甘さを排除した。さぼりがちだった朝げいこを15日間やりきり、大好きな酒もたしなむ程度に抑えた。「帰ってきて子どもと1、2時間遊んで、ちょっとビデオを見て、午前0時には寝ていた」と妻の紗代子さん。連勝への期待で重圧が増す中、生活リズムを一定に整えた。すべては結びの一番に全神経を集中させるためだった。

今欲しいのは、しのぎを削るライバルの存在だろう。部屋の兄弟子だった二子山親方(元幕内光法)は「白鵬にはまだ余力がある。張り合える力士が出てくれば、もう一皮むける」と話す。

横綱に全力を出させるのは本来、大関陣の責任だ。しかし、白鵬が「69」に挑む九州場所前半、4大関に記録阻止の土俵に上がる権利は回ってこない。この事実を、大関陣はどうかみしめているだろうか。



白鵬は、江戸時代の63連勝を遂げた横綱谷風にも及んでいる。九州場所の初日に勝てば、谷風と並ぶ。誰も江戸時代までは思ってもいなかった。それを引き出せる白鵬は、正に日本の横綱だと思う。素晴らしい、知と仁と勇を兼ね備えた人物だと思った。

九州場所では快進撃を続けて欲しいと思っている。上位陣に当たらない事は、記録更新の絶好のチャンスであるが、白鵬が油断しない限り、その夢は現実のものとなる。

ここで終わりたいが、天声人語が素晴らしいコラムを書いている。それを載せて、すっきり終わりたい。


天声人語 2010.9.27

歴代の強者を殿堂の個室から呼び出し、自分だけの夢のスタジアムで戦わせる。スポーツ好きの密かな楽しみだ。時を越えるのにチケットは要らない。そこそこの知識と想像力、あとは先人と比べうる現役がいればよい。

危機の大相撲で孤高を保ち、4場所続けて全勝優勝した白鵬も、比べるに値する一人である。殿堂のお歴々こそ、手合わせしたくて身もだえしていよう。連勝記録は62まできた。69代横綱は、いよいよ昭和の角聖、双葉山の69に挑む。

白鵬は近著『相撲よ!』(角川書店)で、どんな形にも対応できる理想の取り口に触れた。「流れに従って、体が自然に動くに任せる・・体勢十分なら寄り切る、だめなら投げる、自然に動いてとった相撲はあとで観ても美しい」

意識するのは、本や映像で研究した双葉山の姿だ。偉大な先輩は、勝ちに行く気負いを感じさせないという。ふわっと立ち、攻めさせた上で自分が十分になる。きのうの日馬富士戦には、一瞬そんな味があった。

双葉山は「一日に10分だけ精神を集中させることは誰にでもできる」と語っている。今の白鵬には、双葉山の集中力に加え、大鵬の安定感、北の湖の厳しさ、千代の富士の切れ、貴乃花の正々堂々がある。大横綱の持ち味を「ちゃんこ」にしたような強さである。

白鵬は昨秋の巡業中、全盛期の双葉山と一番とる夢を見たそうだ。「結果はしばらく、私の中の宝物として封印しておきたい。本当に夢のような勝負をさせてもらった」という。並ぶか、抜くか。夢の続きを一緒に楽しみたい。