元町へ行った。Tさんが出品している水彩画展を観て、大丸8階の鹿児島の物産と観光展を見て回るのが目的だった。
南京町の華やかさに誘われて、ふらっと吸い込まれるように入って行った。沢山の人が屯(たむろ)している。その横に行列が出来ていた。大正4年に創業した豚まんの老舗「老祥記(ろうしょうき)」だ。私も思わず並んでしまった。
中々だったが、列は長くなるばかり。3個以上から買う事が出来る。1個90円だ。安いと思うだろうが、普通の豚まんよりずっと小さく、2~3個程で1個の豚まんと同じ位の大きさになる。すると割高だ。けれど豚まんの元祖となれば、列が続くのも不思議はない。味は好みがあるから何とも言えないが、「一貫楼」「551の蓬莱」「老祥記」・・。これは好き好きで良い。
6個買う事にして、千円札と40円を用意して待っていた。500円硬貨が欲しいからだ。店の中まで入れる順番となった。紙の袋が欲しければ10円が要る。ビニール袋をぶら下げて歩く訳にも行くまい。財布からもう10円を出した。
前以って何個か聞かれ、支払いを済ます。私の前の女の人は10個と言った。外で並んでいる時に、3個位平気で食べられると言う人の話を聞いていた。咄嗟に私も10個を告げた。何と小さい豚まんだろう。これでは鼠まんだ。1,010円出して10個と袋を受け取った。後の男の人に注文を聞いていた。
「何個ですか」
「70個」
へっ? 耳を疑った。
「分けて包んでいいですか。30個と20個20個で」
間違いはなさそうである。すぐ計算してみた。6,300円。金額よりも先ず70個に痺れた。いつかこんな日が来るだろうか。
「何個ですか」
「100個」
豚まんとカバンを持って、ヤマハの2階に上がった。すると、クラシック名曲選が目に入った。何ヶ月も前から欲しいものだった。けれど31曲入っている中で、欲しいのは1曲だけだ。フルートとピアノのデュオだが、オカリナで吹く為には出だしの音が難しいものが多く、態々難しく演奏する必要もない。どうせなら、記号が少ないものがいいので、1曲だけになった。コピーさせてくれたら300円払うのに。
例えば、「ピアノ・ソナタ題8番『悲愴』より第2楽章」はフラットが4つもあるし、ラヴェル作曲の「ピアノ協奏曲ト長調より第2楽章」は反対にシャープが4つある。まあ、どうせ吹けないのだから、眺めるだけで終わりだ。
私が欲しかったのは、ラヴェルの「ボレロ」だった。この曲の終わる前までは同じ繰り返しが続き、そこまでなら何とか吹けるし、吹く為の伴奏MDもこしらえている。けど、どうしてもあのクライマックスを吹きたいと思っていたのだ。何と、何時だったか大沢さんのコンサートを聴きに行った時、「ボレロ」をその圧巻まで吹いて退けたのだった。やっぱりそこまで吹かないと、ラヴェルのレベルまで到底達し得ないと思った。
この6ページ程が欲しかっただけなのだが、その為だけの2,500円は余りにも負担が大きかった。何ヶ月も逡巡していたが、今日は思い切った行動に出た。さっと掴んで、考えもせずレジに持って行った。この本の底は傷付き、その間多くの人に立ち読みされたのだろう手垢の付いたその楽曲集は、私を待っていたのだろうか。
それからギャラリーに行った。ずらっと水彩画が並べられていた。54点あったと思う。水彩画がこんなに綺麗なものだとは思わなかった。風景、花、果物、人形・・。Tさんの絵は風景で、舟屋を描いたものだった。本人の体付きからは想像出来ない程繊細で緻密なものだった。横三層に分かれ、上部は木々。緑色を様々に使い分け、緑のコントラストとアラベスクが見事だ。静かさが漂っている。
中部には舟屋が並び、大雑把な言い方をすれば茶色が基調となっている。くっ付いた舟屋が何軒も隙間なく連なり、横の海に接している所には舟が浮かぶ。
下部は、勿論海だ。美しい青色が揺れている。舟屋の前には何艘もの舟が描かれ、とても小さく可愛らしく感じられた。白と赤が基本になっている舟が、青い波にたゆたう。
静かな舟屋を中心とした、穏やかな絵であった。また、こう言う場所を選んだTさんの心の穏やかさも見て取れる。クローズアップして描かれる絵も多い中で、かなり広い範囲で周りの様子を描こうとした審美眼にも喝采を送るが、その為に細かい作業の絵にならざるを得なかったと思う。心の落ち着く絵であったと共に、Tさんのお人柄がしのばれる佳作(素晴らしいと言う意味)であった。
何の見識もない私が出しゃばった事を申したが、感じる心は持っている積もりだ。いい趣味をまた一つ持っているTさんの芸術性が羨ましい。
昼ご飯を食べていなかったので、風月堂でカレーを食べた。ビーフカレーは味と肉の加減が良かった。楽譜を見たりしてがさごそしていたが、バスの時間に間に合うように、元町から三宮まで歩いた。大した距離ではなく、電車に乗ると1分位で着いてしまうのだ。
何とか間に合って、待っていたバスに乗る事が出来た。バスは発車した。少し行った所で、何か忘れているような気がした。そうだ、今日の目的の一つが、鹿児島の物産展にあったのだ。元町にいて、元町の大丸に何故気が付かなかったのだろう。もうそろそろ・・と思いかけたが、いやいやと否定した。そうなれば豪(えら)い事だ。こんな時叫ぶ言葉があるのを思い出した。「桑原桑原!」。
晩ご飯は豚まんだ。開けて吃驚、本当に小さい。1つ食べた。2つ食べた。3つ食べた。大正4年の創業豚まんは、いくらでも入りそうだった。皿を出して、からしをくっ付けると醤油を注いだ。温めるのももどかしい。4つ目を食べた。5つ目を食べた。旨い。醤油がまだ残っている。6つ目を食べた。
4つ残ったが、これは残した。自分一人で食べる為に買ったからではない。数時間して帰って来た娘がぱくっと食べてなくなった。10個位、シュウマイ並みに食べられそうだ。
もう、今日の楽しみは「ボレロ」だ。「ボレロ」しかない。3連のオカリナが、「鹿児島の豚まん恋しや、恋しや豚まん!」と叫んで、「ボレロ」所ではないかも知れないが、鳴らしてみよう。
南京町の華やかさに誘われて、ふらっと吸い込まれるように入って行った。沢山の人が屯(たむろ)している。その横に行列が出来ていた。大正4年に創業した豚まんの老舗「老祥記(ろうしょうき)」だ。私も思わず並んでしまった。
中々だったが、列は長くなるばかり。3個以上から買う事が出来る。1個90円だ。安いと思うだろうが、普通の豚まんよりずっと小さく、2~3個程で1個の豚まんと同じ位の大きさになる。すると割高だ。けれど豚まんの元祖となれば、列が続くのも不思議はない。味は好みがあるから何とも言えないが、「一貫楼」「551の蓬莱」「老祥記」・・。これは好き好きで良い。
6個買う事にして、千円札と40円を用意して待っていた。500円硬貨が欲しいからだ。店の中まで入れる順番となった。紙の袋が欲しければ10円が要る。ビニール袋をぶら下げて歩く訳にも行くまい。財布からもう10円を出した。
前以って何個か聞かれ、支払いを済ます。私の前の女の人は10個と言った。外で並んでいる時に、3個位平気で食べられると言う人の話を聞いていた。咄嗟に私も10個を告げた。何と小さい豚まんだろう。これでは鼠まんだ。1,010円出して10個と袋を受け取った。後の男の人に注文を聞いていた。
「何個ですか」
「70個」
へっ? 耳を疑った。
「分けて包んでいいですか。30個と20個20個で」
間違いはなさそうである。すぐ計算してみた。6,300円。金額よりも先ず70個に痺れた。いつかこんな日が来るだろうか。
「何個ですか」
「100個」
豚まんとカバンを持って、ヤマハの2階に上がった。すると、クラシック名曲選が目に入った。何ヶ月も前から欲しいものだった。けれど31曲入っている中で、欲しいのは1曲だけだ。フルートとピアノのデュオだが、オカリナで吹く為には出だしの音が難しいものが多く、態々難しく演奏する必要もない。どうせなら、記号が少ないものがいいので、1曲だけになった。コピーさせてくれたら300円払うのに。
例えば、「ピアノ・ソナタ題8番『悲愴』より第2楽章」はフラットが4つもあるし、ラヴェル作曲の「ピアノ協奏曲ト長調より第2楽章」は反対にシャープが4つある。まあ、どうせ吹けないのだから、眺めるだけで終わりだ。
私が欲しかったのは、ラヴェルの「ボレロ」だった。この曲の終わる前までは同じ繰り返しが続き、そこまでなら何とか吹けるし、吹く為の伴奏MDもこしらえている。けど、どうしてもあのクライマックスを吹きたいと思っていたのだ。何と、何時だったか大沢さんのコンサートを聴きに行った時、「ボレロ」をその圧巻まで吹いて退けたのだった。やっぱりそこまで吹かないと、ラヴェルのレベルまで到底達し得ないと思った。
この6ページ程が欲しかっただけなのだが、その為だけの2,500円は余りにも負担が大きかった。何ヶ月も逡巡していたが、今日は思い切った行動に出た。さっと掴んで、考えもせずレジに持って行った。この本の底は傷付き、その間多くの人に立ち読みされたのだろう手垢の付いたその楽曲集は、私を待っていたのだろうか。
それからギャラリーに行った。ずらっと水彩画が並べられていた。54点あったと思う。水彩画がこんなに綺麗なものだとは思わなかった。風景、花、果物、人形・・。Tさんの絵は風景で、舟屋を描いたものだった。本人の体付きからは想像出来ない程繊細で緻密なものだった。横三層に分かれ、上部は木々。緑色を様々に使い分け、緑のコントラストとアラベスクが見事だ。静かさが漂っている。
中部には舟屋が並び、大雑把な言い方をすれば茶色が基調となっている。くっ付いた舟屋が何軒も隙間なく連なり、横の海に接している所には舟が浮かぶ。
下部は、勿論海だ。美しい青色が揺れている。舟屋の前には何艘もの舟が描かれ、とても小さく可愛らしく感じられた。白と赤が基本になっている舟が、青い波にたゆたう。
静かな舟屋を中心とした、穏やかな絵であった。また、こう言う場所を選んだTさんの心の穏やかさも見て取れる。クローズアップして描かれる絵も多い中で、かなり広い範囲で周りの様子を描こうとした審美眼にも喝采を送るが、その為に細かい作業の絵にならざるを得なかったと思う。心の落ち着く絵であったと共に、Tさんのお人柄がしのばれる佳作(素晴らしいと言う意味)であった。
何の見識もない私が出しゃばった事を申したが、感じる心は持っている積もりだ。いい趣味をまた一つ持っているTさんの芸術性が羨ましい。
昼ご飯を食べていなかったので、風月堂でカレーを食べた。ビーフカレーは味と肉の加減が良かった。楽譜を見たりしてがさごそしていたが、バスの時間に間に合うように、元町から三宮まで歩いた。大した距離ではなく、電車に乗ると1分位で着いてしまうのだ。
何とか間に合って、待っていたバスに乗る事が出来た。バスは発車した。少し行った所で、何か忘れているような気がした。そうだ、今日の目的の一つが、鹿児島の物産展にあったのだ。元町にいて、元町の大丸に何故気が付かなかったのだろう。もうそろそろ・・と思いかけたが、いやいやと否定した。そうなれば豪(えら)い事だ。こんな時叫ぶ言葉があるのを思い出した。「桑原桑原!」。
晩ご飯は豚まんだ。開けて吃驚、本当に小さい。1つ食べた。2つ食べた。3つ食べた。大正4年の創業豚まんは、いくらでも入りそうだった。皿を出して、からしをくっ付けると醤油を注いだ。温めるのももどかしい。4つ目を食べた。5つ目を食べた。旨い。醤油がまだ残っている。6つ目を食べた。
4つ残ったが、これは残した。自分一人で食べる為に買ったからではない。数時間して帰って来た娘がぱくっと食べてなくなった。10個位、シュウマイ並みに食べられそうだ。
もう、今日の楽しみは「ボレロ」だ。「ボレロ」しかない。3連のオカリナが、「鹿児島の豚まん恋しや、恋しや豚まん!」と叫んで、「ボレロ」所ではないかも知れないが、鳴らしてみよう。