阪急御影駅で待ち合わせをして、5人でデイケアセンターへ足を運んだ。と言っても、バスに乗ったのだが。

私だけ初めてで、まだ時間ではなかった為地下に下りて行った。コートを脱ぐと、4人は練習を始めた。私はしなかった。今日は、ソロで例の3曲を吹くだけなので。

景色は抜群の場所だったが、鉄格子があるのが非常にに残念である。大阪湾の向こうに、大阪や和歌山の街が見えるのだ。3人の老人が、ジムにあるようなマシーンを使って運動をしていた。お茶を飲んでいると、お呼びが掛かった。

1階に上がると、所狭しと21人のお年寄り(若く見える人もいる)と見習いも含めた8人の職員がいた。4人は、唱歌や童謡を演奏し、利用者さんに歌って貰っていた。何も歌って貰わなくても、自然と声が出ている。私は、後ろにある備え付けの細長い椅子に、後ろ向きに座っていた。

4人のうちの一人が司会をしていたが、私を呼んだ。自己紹介をしたが、時間の事も気になり、長々とは喋らなかった。

スロヴェニアはイタリアの東にあり、オーストリアの南にあり、ユーゴスラビア連邦から独立した国である事を話した。人口は200万人位。生活水準はかなり高く、リュブリャーナはそのスロヴェニア共和国の首都だと言った。宗次郎さんが、その首都を思って作った曲だと宣伝してから、「リュブリャーナの青い空」を吹いた。軽快な曲、強い息、響く音に、注目が集まったと思った。ちょっと名刺代わりには持って来いの曲だ。

そして「コンドルは飛んで行く」を、これも青い空を思いながら聴いて欲しいと言って吹いた。前半が終わると、アルトGからソプラノGに持ち替え速いメロディーを吹く。持ち替えの間少し空白が出来る。終わったと思ったのか拍手が来たけれど、続けた。ここからがいい所なのだ。気持ち良く聴いてくれているのがよく分かった。

最後は「川の流れのように」を吹く事にしていた。

「知らず知らず 歩いて来た 細く長いこの道 振り返れば 遥か遠く 故郷が見える でこぼこ道や 曲がりくねった道 地図さえない それもまた人生 ああ 川の流れのように ゆるやかに いくつも時代は過ぎて ああ 川の流れのように とめどなく 空が黄昏に染まるだけ」

時間がないと思ったので最後までではなく、ここまで楽譜の下に書いてある歌詞を読んだ。その方が、聴く方も意味が分かっていいだろうと思ったのだ。案の定、知っている人もいて、そんな人はオカリナを吹いている間、ずっと口ずさんでいた。これがいいのだと思う。きっと音楽療法になっているのではないだろうか。

折角暗譜していたのに、そんな事で歌詞を読んだものだから、譜面台に楽譜を置いたら、それを見てしまった。私は楽譜を見ると上手く吹けなくなってしまう。2箇所、「ああ」の所は「あ」と「あ」の間に素早く4音を挟むことにしているが、最初にそれを入れ忘れた。何も失敗ではないにしても、自分の気分が十分に発揮されない事でやや消化不良となった。10点満点だと6、7点位になったように感じた。もう、楽譜は持参しない事に決めた。

楽譜を見て吹くのも悪い事ではない。その方が安心出来るだろう。しかし、それも人によるのだから見ようが見まいが、そんな事は勝手だ。私の場合、何処かでとちったら頭の中は真っ白になる事位分かっていて、それでも見ないのである。

まあ、驚いて貰えて良かった。この3曲は、今後2箇所では必ず演奏したいと思っているので、初めての度胸試しともなった。ここで気弱になっていたらどうしようもない。400人、1000人の前で演奏しなければならないのだ。

Mさんは、全く動じる様子がない。人前で吹いても何ともないと言う。もし何が欲しいかと聞かれたら、私はお金ではなく(お金は本当は喉から手が出る程欲しいのだが)、Mさんの心臓が欲しいと言うだろう。私は、「自分の心臓を目の前に引っ張り出して、それを見ながら演奏している」と言って笑われた。

オカリナ紹介があって、私はソプラノGで、ちょっとだけある曲を吹いた。咄嗟ではあったが、「芸者ワルツ」である。きっと殆どが知っていて、懐かしく思うだろうと考えて。

また暫く後ろに行って、入り口のガラス扉を見るように座った。たまに体を捻って、演奏している4人の顔を見た。皆真剣な顔付きだった。

最後に「故郷」を歌おうと言う事で、私も前に出てただ一人、下のパートを吹いた。そうして、3、40分の時間も、あっと言う間に過ぎてしまった。4人は、「春が来た」とか「みかんの花咲く丘」とか「朧月夜」とか、そんな曲を吹いて皆に歌って貰っていた。

これで退場して、また地下に下り、紅茶をよばれてバスに乗った。


後は「七夕」と「オナラ」を見て欲しいと言う事で、とある練習場へ行った。ちょっと言わせて貰っただけで、俄然良くなるのだ。それだけキャリアもあり吸収力があると言う事になる。「七夕」は後は家での個人練習をどれだけするかに懸かっている。

「オナラ」の中間の間奏をリコーダーで吹くのだが、これも練習したのだろうか、うんと良くなっていて驚いた。これらの2曲は、どこで演奏するか知らないが、楽しい演奏になる事だろう。又、名谷の練習場に来てくれと言われた。完成させたいようだ。意気込みが素晴らしいと思った。

後3パートに分かれて演奏する曲を聴かせて貰ったが、これは素晴らしい響きをするので、吹き込んだら聴衆の心を掴む事は間違いない。


4人と別れると摂津本山からJRに乗って、元町で途中下車した。ヤマハに行く為だ。目的は一つ。どうしてもCDが買いたかったからである。寺井尚子さんのジャズヴァイオリンが聴きたかったのだった。今から、それを聴く。ヴァイオリンでジャズ。まだ音を鳴らしたくないような、どきどきした気持ちでCDケースの蓋を開いた。


NAOKO TERAI 「My Song」 2,800円