14日に話を戻そう。その日の午後、孫達は福山へ向かい、私は大阪のザ・シンホニーホールにいた。

凄いタイトルイのコンサートだった。「女神たちの“愛のうた”バレンタイン・ガラ~夢の饗宴~」。

J.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲第1番プレリュード」を長谷川陽子が弾く。椅子に座ると大股を開く(電車の中で見かける男の座り方とよく似てはいるが、彼女は何もやりたくてやっている訳ではないのだ)。そこにチェロが据えられ、弓が動き出す。黄色と言うより、少しくすんだ芥子色のようなドレスが落ち着きを与えていた。

長谷川の呼び声で中道郁代と千住真理子が現れた。

中道「娘が中学生なんだけど、バレンタインチョコレートを作っていたの。本命とその他大勢のをね。壊れたのは私にくれるんです。私の誕生日が昨日だったから、私は一人寂しくホテルにいたわ。ホテルが小さなチョコレートをくれたんだけど、やっぱり寂しいわね」

長谷川陽子は2人より若くやや静かだったが、2人とも饒舌だった。今回は、中道郁代が仕切っていた感がある。

中道「300年も前のそのヴァイオリンの音、リハーサルの時に聴いて引き込まれて行ったわ。普段の手入れも大変なんでしょうね」

千住「デュランティーと言うんだけど、ストラディバリの。その貴族の家の倉庫にずっとしまってあったから、特にプロは弾いていないみたい。湿度に敏感で、このデュランティーは40パーセントが一番いいので、私はボロボロ。メークさんに肌がかさかさですよと言われたけど、私はどうなってもいいの」

と言った。

中道「最適な湿度が、バイオリンによって違うのね」

千住「そうなんですよ。水の入ったチューブを入れて調節したり」

中道「ヴァイオリンのあのS字の切れ目から入れるんでしょ」


その後、中道のピアノ伴奏で、長谷川はサン=サーンスの「白鳥」を弾き出した。美しい旋律だし、オカリナで吹くので特に関心があった。弾く者にも吹く者にも、気持ちのいい旋律だと思う。

このまま2人でカサドの「親愛なる言葉」が続いた。

中道郁代のピアノが始まった。きらきら光るワインレッドがスタインウエイの黒に特に合った。ショパンの「ワルツ第2番 華麗なる円舞曲」、リストの「愛の夢 第3番」が終わり、千住真理子の登場となった。

山吹色とオレンジ色を縦半分ずつにしたドレスを着ていた。

中道の伴奏でクライスラーの「愛の悲しみ」と「愛の喜び」を弾いて、第1部が終わった。


第2部は2曲が千住真理子の無伴奏の曲だった。

J.S.バッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番よりガヴォット」。そして千住明の「「アニメ劇場『雪の女王』よりスノーダイヤモンド」と続く。

最後はメンデルスゾーンの「ピアノ三重奏曲第1番」を3人で演奏した。聴き応えがあった。38才で早世した天才の名曲である。

パンフレットには、こう書かれている。

第1楽章:モルト・アレグロ・エダジタート
チェロが弾き出す雄渾なテーマはほの暗い情熱を感じさせ、聴き手を一気に曲の世界に引き込みます。そして3つの楽器が絡み合い、大きなうねりを作って行きます。

第2楽章:アンダンテ・コン・モート・トランクィロ
情熱的な第1楽章とは対照的な、心休まる穏やかな音楽。メンデルスゾーンの小品にもよく見られる、流れるような抒情が聴かれます。

第3楽章:ピアノの軽妙な主題に導かれ、歌い踊る楽しい楽章。丁々発止とした各楽器のやりとりと名技も聴きものです。

第4楽章:フィナーレ アレグロ・アッサイ・アパッショナート
健康的な推進力に溢れ、次々と新たな楽想が湧き出て耳を楽しませてくれるフィナーレ。最後は3つの楽器が一体となって盛り上がり、結ばれます。

アンコールは3人によるエルガー「愛のあいさつ」で閉められた。

確かにチョコレートを殆ど貰えなくなった者に取っては贅沢なコンサートだったとは思う。だが、この3人が一堂に会した初めてと言う「夢の饗宴」も、私に取ったら物足りないものだった。内容がではなく、日本の頂点に君臨すると思われる3人では、主役が3人と言う構成なので勿体無いのである。一人ひとりの演奏を、別々の日に聴きたいと思ったのだった。

そうは言うものの、トークも面白く、楽しいコンサートだったとは言える。

ブログの日にち稼ぎではなく、素敵な3人のコラボレーションを留めて置きたいと思って書いてみた。

2010年にデビュー35周年を迎えるデュランティーと共にいよいよ円熟した千住真理子。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲演奏と録音を果たした中道郁代。素晴らしい技術と集中力を備えた長谷川陽子の3人が一度に見られ聴けた事は、矢張り素晴らしい事には違いなかった。敢えて敬称を省略したが、記憶にも留めて置きたいと思うバレンタイン・コンサートだった。