※コンサートの終了後、運営資金の一部として、お一人様1,000円ほどのカンパを、ぜひお願いいたします。もう少し、このコンサートを継続させるため、皆様の温かいお力添えを心からお願い申し上げます。

西宮市民会館アミティホールでの12月26日のコンサートは、午後1時30分の開演だった。往復はがきで申し込んでいた案内状と引き換えに、チケットを受け取った。既に交換して開場を待っている人もいたし、私は20人位の列に並んだ。

チケットの席は1階2列29番となっていた。これは、ラッキーな事に一番前の右端辺りの席だった。た立って手を伸ばせば、ステージの前を触る事の出来る席なのだ。

「谷本華子 ヴァイオリン名曲の極み」と言うタイトルのコンサートだ。是非聴きたいと思っていて、谷本華子さんの演奏は今回が2度目である。お姉さんがピアノの伴奏をする。

「私、カナダに住んでいた事があるんですよ」

小柄な華子さんは、水色の衣装を纏っていた。この前は白いパンツルックでボーイッシュだったけれど、今回は女性的な感じだ。けれど、はきはきしていて、どんな服装でも、おしとやかな女性とは言いがたい美人だ。この前だって、「よく、男前だって言われる」と言って笑っていた。

「カナダに初めて着いた時、気温がマイナス20度だと言っていて、とても駄目、帰りたいと言ったら、『これからだよ』と言われちゃって」

「マイナス50度の時もあったけど、でも風は引きませんでしたね。みんな目だけ出して歩いているんで」

「このプログラム、1番がチャイコフスキーになっていますが、順番変えさせて下さい。クライスラーを3つ繰り上げて、チャイコフスキーを4番目にして下さい。特に理由はないけど、この曲暗いでしょ。何で初めに持って来たかと思って・・」


二人の紹介を、転記しておこう。

谷本華子

兵庫県立西宮高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学音楽学部ソリスト・ディプロマコース入学。その後、ローム・ミュージック・ファンデーションの奨学金を得て、カナダのブランドン大学留学。日本とカナダ各地でリサイタルを行い、好評を得る。

全日本学生音楽コンクール「中学校の部」「高校の部」でそれぞれ全国大会1位。カナダ・ナショナル・ヴァイオリンコンクール第2位、シェーン・ヴァイオリンコンクール第1位ほか、多数受賞。

ソリストとして国内のオーケストラはもとより、サンクトペテルブルクシティ・フィルハーモニック、国立ブルガリア室内オーケストラ、エドモントン・シンフォニーオーケストラなどと共演を重ねる。

神戸ユース賞、ゆずりは賞、神戸灘ライオンズクラブ音楽賞、大阪府より「21世紀協会賞」、大阪府知事賞、クリティッククラブ音楽賞ほか、数々の受賞を重ねる。

確かな演奏技術と高い音楽性が認められ、サントリー株式会社から1752年製作のヴァイオリン、トーマソ・カルカッシを無償貸与される。

現在、ソロ演奏や室内楽を中心に長岡京室内アンサンブルのメンバーとしても活躍するほか、兵庫県立西宮高等学校音楽科の非常勤講師として後進の指導にあたる。

※公式サイト http://blog.livedoor.jp/violinisthana/


谷本美帆

兵庫県立西宮高等学校音楽科を経て、京都市立芸術大学器楽科を卒業。第40回全国日本学生音楽コンクール高等学校の部・西日本大会第3位、第12回大学新卒推薦音楽会フレッシュコンサート優秀賞、第7回リトルカメリアコンクール伴奏賞などを受賞。

大和銀行東京合唱団創立35周年記念演奏会ピアノ協奏曲を共演。1992年より「アンサンブル・ディマンシュ管弦楽団」の専属ピアニストとしてベートーヴェン、ラフマニノフなどのピアノ協奏曲や同楽団香港公演で共演。同年、第3回アミティ新人演奏会でザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団と共演する。

ピアノを片岡みどり、服部久美子、クラウディオ・ソアレス、田中修二、神西敦子の各氏に師事。神戸音楽家協会会員。


華子さんのヴァイオリンは、正確で素敵な音色だった。美帆さんのピアノは、優しい、思いやりのある音がした。


演奏曲目

(1) クライスラー:愛の喜び
(2) クライスラー:愛の悲しみ
(3) クライスラー:中国の大鼓
(4) チャイコフスキー:なつかしい土地の思い出 作品42
(5) クライスラー:ベートーヴェンの主題によるロンディーノ
(6) クライスラー:レシタティーヴォとスケルツォ・カプリス
(7) クライスラー:プニャーニのスタイルによるプレリュードとアレグロ

休憩20分

(8) タルティーニ:悪魔のトリル
(9) ヴィエニャフスキ:モスクワの思い出 作品6
(10) バルトーク:ルーマニア民族舞踊
(11) モンティ:チャールダシュ

全部素晴らしい演奏だったが、7番は面白く聴けた。華子さんは性格がはっきりしていて、それに庶民的で楽しい人だと思った。薄いオレンジ色のドレスを纏った姉の美帆さんとの共演は、息がピッタリと合っていた。妹の動作を見ながら確実に音を合わせる所など、流石に姉妹と言える所以だ。

このホールでの演奏の後は、演奏者が先にロビーに出て観客を見送るシステムになっている。ちょっとなら話も出来るし握手も出来る。そんな演奏会は、私は他には知らない。

アンコールは、2曲用意していると言った。

「ユーモレスク」。今までどんなコンサートでも凄いと思いこそすれ、感動して涙が出そうになった事はなかったが、この演奏で、心が揺らいだ。「ユーモレスク」だったからではない。華子さんの心と共鳴したのだと思う。私には生まれて間もなく栄養失調で亡くなってしまった長女と二女の妹がいる。この二人が、それに被ってしまったのだろう。今、墓は一つになり出雲にあるが、松江にあった時は普通の墓の横に2人の名前を刻んだ小さな墓が1つあった。子供の頃から松江に墓参りに行く度、その墓石を見ていたのだから、今でも脳裏から離れる事はない。

この会場で、似たような事を重ね合わせて思った人もいないとは言えないが、この美帆さんと華子さんが、長女と二女の妹達が生きていたら、こんな成長した姿の時もあったのだろうと、そんな事を思ってしまった。何だか、田舎にある涎掛けをした時の写真の顔と、似ている気がしないでもなかった。今は、三女と四女が元気でいる。

ピアノもヴァイオリンも丁度私を見ている格好になるから、ここは特等席だったし、どう考えても指定される筈のない場所だった。美帆さんとは、何度か目が合ったようだった。湿っぽくなったが、久し振りに涙ぐんでいた。

最後は、エルガーの「愛のあいさつ」だった。


華子さんとも美帆さんとも挨拶もせず、握手もしないで表に出た。昨日よりも寒い風が、頬を叩いていた。