バリトンと言おうかバスと言おうか、黒漆塗りのまるでサキソフォンのようなオカリナが届いた。アルトサックスのようで、右手もそのような位置に穴が開いていた。朱色も金色も混じり、見たこともないオカリナだった。低い音で、心地よく響く。注文したのとはかなり形が違うが、それでもこれでいいと思った。
意識がはっきりすると、声が聞こえて来た。「オカリナが届いてるよ」。
ああ、さっきのは夢だったのか。道理で、サキソフォンみたいなオカリナなんてある訳ないもの。
お菓子を買った時に入れて貰う紙の手提げ袋に、ガムテープが無造作に巻かれている。中からちゃんとした箱に入った、2連の10Fオカリナが現れた。白い綿にくるまれていた。それは漆のように塗られ、黒光りしていた。柔らかいねずみ色の袋が付けられ、黒色の細い縁取りがしてある。ツーンと、ウレタンの匂いがした。
1連の上部ド・レ(実音はファ・ソ)は吹くのにかなり抵抗がある。音もしっかり出ない。ショックを隠せなかった。しかしだ。吹いている内に気持ちのよい音に変わった。少し強めの息でオカリナの抵抗を撥ね退けた時、陶酔するような掠れた音が出現した。これは自在に音を操れると言う事に他ならない。つまり、素晴らしい楽器と出会ったのだった。
何でもそうだが、オカリナを例に取ると、最初は失望する位のものが、暫くすると喜びを伴ったものに変わる。何でも初めの印象などで決め付けてはいけないと言う事である。ただ、もし私が初心者だったらずっと後悔していたか、このオカリナは駄目だ、と言っていたに違いない。良さが分かるのには、ある程度の経験は必要だと思った。この宝物を、オモチャ箱に入れてしまう所だったかも知れないのだ。
プロの息の入れ方も分かったし、指の位置の違いも分かった。結構大きくて、長さが23cm、幅が14cmもある2連のオカリナである。まだ名前はない。「くろちゃん」と呼ぼうかな。
もう手放せない。製作者の加々美治さんも、「ソロには欠かせなく、自分も重宝している」と言っていた。優しそうな人だった。お兄さんも優しくて気さくだし・・。お兄さんは誰かって? オカリナ奏者の大沢聡さん。
何べんもつまみ食いのように「くろちゃん」を吹きながら、ブログを書いている。
正午を過ぎてから、近くの銀行に振込みに行った。結構な雨に、傘の下は超ミニホール。傘はマイクの役目をして、リズミカルな音を拾う。
送金項目に振込み先銀行名や口座番号、金額を入れてはっとした。相手の電話番号を忘れて来たのだ。取り消しにして、家に帰った。今度はしっかりと電話番号の書いた紙をポケットにしまい、また歩き出した。自信があった。もう大丈夫だと。
1,000円余分に持っていると思っていた。だが500円が余分でしかなかった。手数料が630円だった。再び家に帰った。でも、選挙の投票に行く時の重い足取りとは明らかに違う。何度でも帰ろうと思ったし、ダイエットにもなるし、傘を持つ手も軽かった。
130円足らない。1、000円をポケットに捻じ込んだ。二通りの用意をしておけばいいだろうと思い、200円硬貨もポケットに。もう完璧だ。自信に満ちて銀行に急いだ。
銀行の傘立てに傘を置こうとすると、いちいちガラスの戸が開く。最後はお尻を引き気味に、腕を伸ばして置こうとしたのだが、開いてしまった。受付嬢や行員のいる所に入らないのに開くと言うのはどうも・・。何とか雨の日は、傘立ての位置を少しずらしておいては貰えないものか。
結局1,000円札を入れないで200円硬貨を読み取り機に入れた。金属同士の当たる音が3度したかと思ったら、お釣りの70円が開いた窪みに並んでいた。帰る時、傘を精一杯離れて取ったけれど、ガラス扉は無常にも又開いた。
2連の10Fと言っても6F管と混同しても困るので、こう言う名称にしたのだろう。決してうんと低い超低音ではない。丁度真ん中のオカリナ4C管の音が全部出て、その一番下の音はラであるが、そのラから下のソ・ファ・ミ・レが出せる仕組みだ。2オクターブ弱出るので、演奏の幅が広がる。シングルのオカリナでは、もう1音あったら、と言う事がよくあるのだ。
加々美さんは、口座への振り込み依頼のA4判の紙にこう書いている。
「音域が広いので『ソプラノリコーダー』『フルート』『ヴァイオリン』等の楽譜を使用して頂くとダブレットオカリナの特性が生かされると思います。挑戦してみてください」。
2度ある事は3度あると言うが、これは本当だ。財布を持って行けば2度で済んだが、こんな事なら何度でも往復しようと思う。「くろちゃん」「イカロスちゃん」「トルコちゃん」・・。あっ、「トルコちゃん」と言うのは、「トルコ行進曲」の練習に使う吉塚オカリナの「1C管」だ。
オカリナは、命ですね。家族なんですね。
意識がはっきりすると、声が聞こえて来た。「オカリナが届いてるよ」。
ああ、さっきのは夢だったのか。道理で、サキソフォンみたいなオカリナなんてある訳ないもの。
お菓子を買った時に入れて貰う紙の手提げ袋に、ガムテープが無造作に巻かれている。中からちゃんとした箱に入った、2連の10Fオカリナが現れた。白い綿にくるまれていた。それは漆のように塗られ、黒光りしていた。柔らかいねずみ色の袋が付けられ、黒色の細い縁取りがしてある。ツーンと、ウレタンの匂いがした。
1連の上部ド・レ(実音はファ・ソ)は吹くのにかなり抵抗がある。音もしっかり出ない。ショックを隠せなかった。しかしだ。吹いている内に気持ちのよい音に変わった。少し強めの息でオカリナの抵抗を撥ね退けた時、陶酔するような掠れた音が出現した。これは自在に音を操れると言う事に他ならない。つまり、素晴らしい楽器と出会ったのだった。
何でもそうだが、オカリナを例に取ると、最初は失望する位のものが、暫くすると喜びを伴ったものに変わる。何でも初めの印象などで決め付けてはいけないと言う事である。ただ、もし私が初心者だったらずっと後悔していたか、このオカリナは駄目だ、と言っていたに違いない。良さが分かるのには、ある程度の経験は必要だと思った。この宝物を、オモチャ箱に入れてしまう所だったかも知れないのだ。
プロの息の入れ方も分かったし、指の位置の違いも分かった。結構大きくて、長さが23cm、幅が14cmもある2連のオカリナである。まだ名前はない。「くろちゃん」と呼ぼうかな。
もう手放せない。製作者の加々美治さんも、「ソロには欠かせなく、自分も重宝している」と言っていた。優しそうな人だった。お兄さんも優しくて気さくだし・・。お兄さんは誰かって? オカリナ奏者の大沢聡さん。
何べんもつまみ食いのように「くろちゃん」を吹きながら、ブログを書いている。
正午を過ぎてから、近くの銀行に振込みに行った。結構な雨に、傘の下は超ミニホール。傘はマイクの役目をして、リズミカルな音を拾う。
送金項目に振込み先銀行名や口座番号、金額を入れてはっとした。相手の電話番号を忘れて来たのだ。取り消しにして、家に帰った。今度はしっかりと電話番号の書いた紙をポケットにしまい、また歩き出した。自信があった。もう大丈夫だと。
1,000円余分に持っていると思っていた。だが500円が余分でしかなかった。手数料が630円だった。再び家に帰った。でも、選挙の投票に行く時の重い足取りとは明らかに違う。何度でも帰ろうと思ったし、ダイエットにもなるし、傘を持つ手も軽かった。
130円足らない。1、000円をポケットに捻じ込んだ。二通りの用意をしておけばいいだろうと思い、200円硬貨もポケットに。もう完璧だ。自信に満ちて銀行に急いだ。
銀行の傘立てに傘を置こうとすると、いちいちガラスの戸が開く。最後はお尻を引き気味に、腕を伸ばして置こうとしたのだが、開いてしまった。受付嬢や行員のいる所に入らないのに開くと言うのはどうも・・。何とか雨の日は、傘立ての位置を少しずらしておいては貰えないものか。
結局1,000円札を入れないで200円硬貨を読み取り機に入れた。金属同士の当たる音が3度したかと思ったら、お釣りの70円が開いた窪みに並んでいた。帰る時、傘を精一杯離れて取ったけれど、ガラス扉は無常にも又開いた。
2連の10Fと言っても6F管と混同しても困るので、こう言う名称にしたのだろう。決してうんと低い超低音ではない。丁度真ん中のオカリナ4C管の音が全部出て、その一番下の音はラであるが、そのラから下のソ・ファ・ミ・レが出せる仕組みだ。2オクターブ弱出るので、演奏の幅が広がる。シングルのオカリナでは、もう1音あったら、と言う事がよくあるのだ。
加々美さんは、口座への振り込み依頼のA4判の紙にこう書いている。
「音域が広いので『ソプラノリコーダー』『フルート』『ヴァイオリン』等の楽譜を使用して頂くとダブレットオカリナの特性が生かされると思います。挑戦してみてください」。
2度ある事は3度あると言うが、これは本当だ。財布を持って行けば2度で済んだが、こんな事なら何度でも往復しようと思う。「くろちゃん」「イカロスちゃん」「トルコちゃん」・・。あっ、「トルコちゃん」と言うのは、「トルコ行進曲」の練習に使う吉塚オカリナの「1C管」だ。
オカリナは、命ですね。家族なんですね。