朝読むもよし。昼読むもよし。お茶ブレ-クタイムに読むもよし。晩に読むもよし。寝る前に読むもよし、です。専門誌に載っていたので、転載させて貰います。
「おはなし定期便」。
アライグマのぬくもり
きむら ゆういち
オオカミは疲れ果てていました。心も体もボロボロでした。
そんな自分を引きずって、ただ歩き続けることしかこのオオカミには残されていませんでした。もちろん行く当てなどありません。
本当なら、今頃は一番若いボスになって大笑いしていたはずでした。ボスになったら、他の群れのボスもどんどん倒し、世界一のボスになるのが夢でした。
でも、ボスとの一騎打ちに負けたのです。
オオカミは、小さい頃お母さんにすてられました。そしてアライグマのお母さんに拾われたのです。
アライグマのお母さんは、それはそれはこのオオカミを大切に育ててくれたのですが、そのことで友だちから何度もいじめられました。
いじめられるたびにこのオオカミは「絶対強くなってやる」と心に誓ってがんばってきたのです。
ひとりで旅に出てからも、強くなるためには何でもしてきました。
オオカミはどんどん強くなっていき、そんなオオカミについてくる子分のオオカミも一匹、二匹と増えていきました。
あとは、群れのボスに勝つことだけです。
初めは、このオオカミの方が勝っていました。
「ヘヘ、このままこのボスを倒せば、ついにこのオレが・・」
そう思った瞬間、ボスが頭突きをしました。
ほんの一瞬の油断で形勢逆転です。
さすが群れのボスです。ちょっとした隙も見逃しません。
そこからはもうボスの一方的な勝利でした。
オオカミはキズだらけの体を地面にたたきつけられたのです。
もう起き上がることなんて出来ません。
そんな姿を見た仲間たちは、黙って去っていきました。
あんなに慕っていてくれていたのに。もう誰も信じられません。
ズキズキする体をやっと起こしてヨロヨロと歩き出しました。
夢も破れ、仲間も失い、ひとりぼっち。
「オレにはもう何も残ってない」
そうつぶやいた時、「うぐっ」木の根っこに足を引っかけて坂道をゴロゴロゴロ。
転がりながらオオカミはもうすべてがどうでもよくなっていました。
ドスン。
茂みに隠れていた何者かの体にぶつかってやっと止まりました。
「ひゃっ」
何者かは悲鳴を上げると、茂みからとび出し近くの木陰に隠れました。
「なんだろう。今の?」
オオカミはぶつかった時のぬくもりに、懐かしさを感じたのです。
よく見ると、それはアライグマでした。
オオカミは、優しかったお母さんを思い出しました。
「待ってくれ」
オオカミは無性にアライグマのそばにいたくなりました。
「助けて」
アライグマはオオカミに追いかけられて、必死に逃げ出します。
「違うんだ」
そんなことを言っても待ってくれません。
でも少しだけオオカミの方が足が速かったのです。
アライグマは捕まえられる瞬間に、木のウロの中に飛び込みました。
穴の入り口は狭くて、オオカミの体は入れません。
「違うんだ。オレはただ・・」
オオカミはウロの中に呼びかけました。
「ただ何よ」
中から声が返ってきました。
「ただオレは、おまえのそばにいたいから」
「ふん、わかってるのよ。そう言われて出て行ったら、ガブッてやるのは」
「違う。信じてくれ」
「信じられるわけないじゃない。あんたオオカミなのよ」
「オオカミとアライグマが仲良くなったら悪いか」
「今までそうやって何匹の動物をだましてきたの?」
「実はオレ、アライグマに育てられたんだ」
「やめてよ。そんな作り話」
オオカミがいくら言っても、アライグマは出て来てくれそうにありません。
でも、オオカミが外にいる限りアライグマも他に逃げられないのです。
しばらくして、オオカミの声がしなくなりました。
でも、これはオオカミの罠かもしれないと、アライグマはなかなか穴から出られませんでした。
やがて、アライグマのお腹がグーッとなりました。
アライグマがそうっと穴の外をのぞいてみると、オオカミがヨロヨロとこっちに向かってくるところでした。
両手に何かぶらさげています。それは、アライグマの大好きな魚でした。
オオカミはそっと二匹の魚を木のウロに入れます。
「ふん、だまされるもんか」
そう言ったもののハラペコにはかないません。アラオグマはしかたなく魚を口にしました。
しばらくして、オオカミはグミの実を持ってやってきました。今度はペロリとたいらげたアライグマは
「おいしい!」
と、声を上げました。
次の日は貝でした。
オオカミは信じてもらうために必死だったのです。でもオオカミの体も限界でした。
次の日は、雨が降っていました。なかなかオオカミが来ないので、アライグマがそっと外を見ると、オオカミがズブぬれになって草の上に倒れていました。
手にはリンゴやなしを握っています。
夕暮れ時になって、オオカミがぼんやりと目をあけると、いつの間にか木陰の中にねていました。
「あら、お目覚め?」
すぐ近くでアライグマの声がします。
「お、おまえ・・」
おどろいてオオカミが起き上がると
「まだねてなきゃだめ! ホントにバカなオオカミなんだから」
いきなりアライグマがオオカミをどなりつけました。
なんだかお母さんに怒られてるみたいです。みると、オオカミの体にふかふかの落ち葉がたくさんかぶせてありました。
「ひとのエサを心配するよりもっと自分の体を考えなさいね」
そう言いながら葉っぱのコップでオオカミに水を飲ませてくれます。
「あ、ありがとう」
アライグマのぬくもりを近くで感じると、オオカミの心もふんわりあたたまってきました。
その時からアライグマはいつもオオカミのそばにいます。
今ではオオカミもすっかり元気になって、すくっと立ち上がると、夜空に向かってこう叫びました。
「ようし、今度こそオレがボスになってやる!」
アライグマが優しく笑ってオオカミを見上げていました。
童話には大人の目からみると明らかに矛盾や飛躍があるものだが、子どもの目になって見ると何の不思議もなく、自然に受け入れられる所が不思議である。
そんな素直な気持ちになって読み進めると、いつしか話の世界に引きずり込まれていくのが分かる。おまけにぐっと胸が詰まる場面もある。人情の機微に触れた、さすがに作家の構成力だと感心させられる。
その世界の達人は、皆真似の出来ない凄腕を持っている。素直になって心を委ねることで、また感動の明かりが優しく点るのである。
「おはなし定期便」。
アライグマのぬくもり
きむら ゆういち
オオカミは疲れ果てていました。心も体もボロボロでした。
そんな自分を引きずって、ただ歩き続けることしかこのオオカミには残されていませんでした。もちろん行く当てなどありません。
本当なら、今頃は一番若いボスになって大笑いしていたはずでした。ボスになったら、他の群れのボスもどんどん倒し、世界一のボスになるのが夢でした。
でも、ボスとの一騎打ちに負けたのです。
オオカミは、小さい頃お母さんにすてられました。そしてアライグマのお母さんに拾われたのです。
アライグマのお母さんは、それはそれはこのオオカミを大切に育ててくれたのですが、そのことで友だちから何度もいじめられました。
いじめられるたびにこのオオカミは「絶対強くなってやる」と心に誓ってがんばってきたのです。
ひとりで旅に出てからも、強くなるためには何でもしてきました。
オオカミはどんどん強くなっていき、そんなオオカミについてくる子分のオオカミも一匹、二匹と増えていきました。
あとは、群れのボスに勝つことだけです。
初めは、このオオカミの方が勝っていました。
「ヘヘ、このままこのボスを倒せば、ついにこのオレが・・」
そう思った瞬間、ボスが頭突きをしました。
ほんの一瞬の油断で形勢逆転です。
さすが群れのボスです。ちょっとした隙も見逃しません。
そこからはもうボスの一方的な勝利でした。
オオカミはキズだらけの体を地面にたたきつけられたのです。
もう起き上がることなんて出来ません。
そんな姿を見た仲間たちは、黙って去っていきました。
あんなに慕っていてくれていたのに。もう誰も信じられません。
ズキズキする体をやっと起こしてヨロヨロと歩き出しました。
夢も破れ、仲間も失い、ひとりぼっち。
「オレにはもう何も残ってない」
そうつぶやいた時、「うぐっ」木の根っこに足を引っかけて坂道をゴロゴロゴロ。
転がりながらオオカミはもうすべてがどうでもよくなっていました。
ドスン。
茂みに隠れていた何者かの体にぶつかってやっと止まりました。
「ひゃっ」
何者かは悲鳴を上げると、茂みからとび出し近くの木陰に隠れました。
「なんだろう。今の?」
オオカミはぶつかった時のぬくもりに、懐かしさを感じたのです。
よく見ると、それはアライグマでした。
オオカミは、優しかったお母さんを思い出しました。
「待ってくれ」
オオカミは無性にアライグマのそばにいたくなりました。
「助けて」
アライグマはオオカミに追いかけられて、必死に逃げ出します。
「違うんだ」
そんなことを言っても待ってくれません。
でも少しだけオオカミの方が足が速かったのです。
アライグマは捕まえられる瞬間に、木のウロの中に飛び込みました。
穴の入り口は狭くて、オオカミの体は入れません。
「違うんだ。オレはただ・・」
オオカミはウロの中に呼びかけました。
「ただ何よ」
中から声が返ってきました。
「ただオレは、おまえのそばにいたいから」
「ふん、わかってるのよ。そう言われて出て行ったら、ガブッてやるのは」
「違う。信じてくれ」
「信じられるわけないじゃない。あんたオオカミなのよ」
「オオカミとアライグマが仲良くなったら悪いか」
「今までそうやって何匹の動物をだましてきたの?」
「実はオレ、アライグマに育てられたんだ」
「やめてよ。そんな作り話」
オオカミがいくら言っても、アライグマは出て来てくれそうにありません。
でも、オオカミが外にいる限りアライグマも他に逃げられないのです。
しばらくして、オオカミの声がしなくなりました。
でも、これはオオカミの罠かもしれないと、アライグマはなかなか穴から出られませんでした。
やがて、アライグマのお腹がグーッとなりました。
アライグマがそうっと穴の外をのぞいてみると、オオカミがヨロヨロとこっちに向かってくるところでした。
両手に何かぶらさげています。それは、アライグマの大好きな魚でした。
オオカミはそっと二匹の魚を木のウロに入れます。
「ふん、だまされるもんか」
そう言ったもののハラペコにはかないません。アラオグマはしかたなく魚を口にしました。
しばらくして、オオカミはグミの実を持ってやってきました。今度はペロリとたいらげたアライグマは
「おいしい!」
と、声を上げました。
次の日は貝でした。
オオカミは信じてもらうために必死だったのです。でもオオカミの体も限界でした。
次の日は、雨が降っていました。なかなかオオカミが来ないので、アライグマがそっと外を見ると、オオカミがズブぬれになって草の上に倒れていました。
手にはリンゴやなしを握っています。
夕暮れ時になって、オオカミがぼんやりと目をあけると、いつの間にか木陰の中にねていました。
「あら、お目覚め?」
すぐ近くでアライグマの声がします。
「お、おまえ・・」
おどろいてオオカミが起き上がると
「まだねてなきゃだめ! ホントにバカなオオカミなんだから」
いきなりアライグマがオオカミをどなりつけました。
なんだかお母さんに怒られてるみたいです。みると、オオカミの体にふかふかの落ち葉がたくさんかぶせてありました。
「ひとのエサを心配するよりもっと自分の体を考えなさいね」
そう言いながら葉っぱのコップでオオカミに水を飲ませてくれます。
「あ、ありがとう」
アライグマのぬくもりを近くで感じると、オオカミの心もふんわりあたたまってきました。
その時からアライグマはいつもオオカミのそばにいます。
今ではオオカミもすっかり元気になって、すくっと立ち上がると、夜空に向かってこう叫びました。
「ようし、今度こそオレがボスになってやる!」
アライグマが優しく笑ってオオカミを見上げていました。
童話には大人の目からみると明らかに矛盾や飛躍があるものだが、子どもの目になって見ると何の不思議もなく、自然に受け入れられる所が不思議である。
そんな素直な気持ちになって読み進めると、いつしか話の世界に引きずり込まれていくのが分かる。おまけにぐっと胸が詰まる場面もある。人情の機微に触れた、さすがに作家の構成力だと感心させられる。
その世界の達人は、皆真似の出来ない凄腕を持っている。素直になって心を委ねることで、また感動の明かりが優しく点るのである。