
白い崖の国をたずねて
岩倉使節団の旅…木戸孝允の見たイギリス
宮永孝著
自分自身に起きたここ一週間の出来事を振り返るよりも、木戸のイギリスでの出来事を振り返る方が正確でしょう。
ほとんど一日も欠かさずに日記を書いて、天気、泊まった部屋の番号、来客、来た手紙…一々記録してたんだ木戸孝允は。
イギリス周遊の記録は、木戸日記を参考に、著者がわかりやすく書いたものだと思う。
それにしても、初めて見たものばかりだというのに木戸自身の「感想」があまりないのだ。あるのはどこへ行っただとか、誰と会っただのという「事実」ばかり。
最初は、作者が意図的に木戸の「感想」を省いたものかと思ったけれど、彼の日記自体、ほとんど事実のみで、彼の感情的な記述はないみたい。
奥さんとのトラブルなど、プライベートな記述も無かった事を考えると、書きはじめから公の目に触れることを想定して書いたのか?
それとも、あくまで客観的に、冷静に物事を捉える性格によるものか?
木戸孝允ならどっちもあるかもな。
そんな風に政治家としては醒めた目を持っている木戸ですが、個人的に面白かったのは、
・外国人がハンケチに香水を振って顔を拭くのを不思議そうに眺める木戸。
・「キッド」という名前の外国人に特別親しみを感じた木戸(著者曰く「名前が似ているから」)
・養子への父親らしい手紙。
・景色への礼賛と散歩がやけに多かった、意外と風流な人?
周遊中に工場や建造物を170件程回り、忙しい日々を送った岩倉使節団。
木戸は何度か、日本出国以前より悩まされていた病気を発症しているようですが、頻度から言えば日本で慌ただしい政治をしている時よりは少なかったのでは?
彼の脳痛はストレスからきてるんじゃないか…と何の根拠もなく思っているので。
この辺り知識不足なのでわかりませんが、岩倉使節団での旅は木戸孝允にとって、楽しいとまでは行かなくとも、少なくとも日本で政治している時よりは開放感もあり、忙しい中にも落ち着ける部分はあったのではないかと思った。帰国後も松子さんを連れてヨーロッパ行こうとしてたくらいだし。
とまあ自分にとってはテストでいい点を取るための記号に過ぎなかった「木戸孝允」という文字に、人間らしい血と骨と肉がついてきて面白かった。


