今回のメインテーマは、すでに20年以上も前から卵巣がんや肺がんに使われてきたカルボプラチンを用いた臨床試験です。カルボプラチンは乳がんでも有望な薬剤ですが、手術の後に用いて再発を防ぐには世界的にデータが少なすぎます。
これまで、トリプルネガティブ乳がんにカルボプラチンは用いられてきませんでした。英国のデータで、再発乳癌にはよく用いられるタキサン系薬剤の一つ、ドセタキセル単剤とカルボプラチンの単剤の、トリプルネガティブ乳がんの再発に対しての効果が同じだったことに驚きました。
その後、ドイツの臨床試験では、術前化学療法にカルボプラチンを加えるときと、加えない時を比較すると、手術時にがんが消失している率が高く、術後の再発も低いことが確認されました。しかし、米国の試験では、がん消失率は上がったものの、再発を抑える効果は認められませんでした。このように、カルボプラチンでは、まだトリプルネガティブ乳がんの術後の再発を抑えられるのかどうかが明らかではなく、ガイドラインでもその使用が示されていません。
こんなに再発乳がんでの効果の高い薬が、再発を抑えるために使われないのは、効果の高い人が分かっていないからです。今回の試験では、術前化学療法でがんが消失するほど効いた人は除いて、効果を確かめます。また、BRCAnessテストを行って、どんな人に治療効果が高いのかを検証します。
北里大学の時の昭和大学、熊本大学との共同研究では、術前化学療法で消失せず、BRCAnessテスト陽性の方の再発が非常に高く、理論的には遺伝子を修復するBRCAが異常(BRCAnessテスト陽性)であれば、カルボプラチンによる腫瘍内の遺伝子障害を修復出来ないため、腫瘍が死滅すると考えられるので、BRCAnessテスト陽性ではカルボプラチンによって再発が少なくなり、BRCAnessテスト陰性ではカルボプラチンで治療してもしなくても再発が変わらないのではないかと考えています。
術前化学療法後に手術を受け乳がんが残っているトリプルネガティブ乳がんの患者さん270人を2群に分け、一つの群の方は通常の経過観察、もう一方の群の方はカルボプラチンの点滴治療を外来で3週間毎に4回受けます。結果を見てみないと分かりませんが、あらかじめ行ったBRCAnessテストの結果と再発した率を見ることで、陽性患者さんでカルボプラチン治療群の方が再発が少なくなるのではないかと考えています。
この臨床試験でカルボプラチンの有効性が示され、使えるようになればトリプルネガティブ乳がんでなくなる方を毎年1000人救命出来ると考えています。40台50台の若い人に発生する乳がん、トリプルネガティブ乳がんは更に若い人に多いと言われています。このような女性を救うことで、家族を含めれば数千人の人が悲しまなくてすみます。10年間では数万人に達します。
この臨床試験の資金調達が成功し、研究が完遂出来れば、また同じようなパターンで、新しい治療法の開発が進められます。ドネーションで臨床試験を行うことは海外ではよく行われていることですが、日本ではこれまでほとんど行われてきませんでした。このプロジェクトの成功で臨床試験がより進みやすくなれば、がんやその他の難病の新しい治療が開発出来ると考えています。
みなさま、応援をお願いします。クラウドファンディングの開始予定日は10/12です。