生きていた石福海

 さすがの太刀川も、これには、おどろいた。
「おう、石福海。お前、よくまあ、無事に生きていたねえ」
 石福海は、用心ぶかく、扉をしめると、太刀川をみてにっこり笑ったが、そのまますりよってきて、
「先生、今日という今日は、じつに、うまくいきました」
「なにがさ」
「この外にいる衛兵たちを、みんな眠らせてしまったのです。酒の中に、眠薬を入れておいて出しましたから、衛兵たちは、それをたらふくのんで、今しがたみんな、だらしなくころがって、眠ってしまいました。逃げるなら、今のうちですよ」
「ふーむ、そうか。石、よくやってくれた」
 太刀川は、石少年の手をつよくにぎった。
「先生、わたくしは、先生がこの要塞の中にいられることを前から知っていました。わたくしもあの日、渦にまきこまれて気をうしないましたが、気がついてみると、魔城の一室にとらえられていたのです。それから、ずっと大食堂の給仕につかわれていたのです。おしらせしたいと思ったですが、なかなか見張がきびしくて、とても近づけませんでした」
「おお、そうかそうか」
 ダン艇長たちも、この話をきいて、おどろいたり、感心したりだった。
「では、太刀川さん。今のうちに逃げだそうじゃないですか」
 ダン艇長がいった。
「いや、待ってください。どうやら今夜は、われわれにとって、このうえない好機会のようです。わが祖国のために、又世界の平和のために彼等をうちのめしてやるのには……」
「それは危険だ。一まず、カンナ島へひきあげて、それからにしては……」
「僕は、今宵ソ連兵たちが大盤ぶるまいをうけたのは、おそらく明日、瀬戸内海へ乗りだすための前祝だと思うのです。もしそうだとすると、ぐずぐずしていたのでは、間にあいません。今夜のうちに、彼等をやっつけてしまわないと、おそいかもしれません」
「でも、このきびしい海底城を、どうすることもできないではないですか」
 ダン艇長は、太刀川のやろうとする魔城爆破を、一まず思いとどまらせようとしたが、太刀川の決心はつよかった。太刀川は、ケレンコが恐竜型潜水艦をつかって、たくさんのアメリカの艦艇を撃沈したことなど話してダン艇長をうごかした。
 彼はついに決心して、太刀川の手をにぎり、この大計画に力をあわせることをちかった。
「日本人が二人、アメリカ人が一人、中国人が一人、原地人が一人。同志はみんなで五人だ」
 と、太刀川は、いった。
 一同はまず監禁室の中をつくろうため、酔いつぶれて、寝ころがっているソ連兵をひっぱりこんで、自分等の身がわりにした。中にふらふらと抵抗して来た奴があったが、ダン艇長は、たちまちやっつけてしまった。
 太刀川等は、それからさっそく作戦を相談した。
 その結果、石福海は、監禁室につづく通路を、はり番していることになった。
 のこった四人は、二手に分かれることになった。
 クイクイの神様の三浦と、ロップ島の酋長ロロとは、太刀川からあるすばらしい秘策をさずけられると、いそいで例の秘密通路から、カンナ島へかえっていった。
 太刀川とダン艇長とは、たがいの受持をきめると、ケレンコたちが会議をしている司令官室へ向かった。
 太刀川は、司令官室の前を、行きつもどりつしている一人の衛兵に、不意にうしろからとびついて首をしめた。衛兵は、声もたてずに、ぐにゃりとなった。
 その体を、ダン艇長が横だきにして、片隅につれて行くと、その武装をそっくり頂戴して、衛兵になりすまし、なにくわぬ顔をして、司令官室の前を、行きつもどりつ、警備をしているのである。白人が白人にばけることは、やさしい。
 太刀川は、その間に、司令官室へもぐりこんだのであった。
 だが、二人は、この時、別働隊の三浦と酋長ロロがとりかかったはずの仕事の進行を、しきりと気にしていたのである。
 太刀川は、カンナ島へかえっていった三浦と酋長ロロとに、どんな秘策を、さずけたのであろうか。