日本人同士

(こいつ、なにをするんだろう)
 太刀川は、クイクイの神様が、指さきで、腕をこするので気味わるく思ったが、ふと、
(おや、なにか字を書いているようだぞ!)
 気がついた。よく見ると、それは日本の片仮名だった。
「アナタハ、ニッポンジンカ。ワタクシモ、ニッポンジンダ」
「ほほう、……」
 と、太刀川はおどろいて、クイクイの神を見なおした。
「僕は日本人で、太刀川時夫というんだ。君は誰だ」
「ああ、やっぱりあなたも日本人!」
 クイクイの神様は、いきなり太刀川にすがりついた。
「うれしい。こんなところで日本人に会うなんて、まったく夢のようです。ダン艇長が、あなたのことタツコウとよぶので、フィリピン人かと思っていたんです。よかった。わたしも日本人、三浦須美吉という者です」
「え、三浦須美吉」
 こんどは太刀川の方が、おどろいた。
「じゃ、君が三浦須美吉君か」
「そうです。あなたはどうしてわたしの名前を……」
「知っているとも、僕は、君が海中へ流した空缶の中の手紙によって、はるばる大海魔を探しに来たのだ。それにしても君はよく生きていたね」
 二人の日本人は、手に手をとって、うれしなきだ。さっきからいぶかしそうに見ていたダン艇長と酋長ロロも、それと気がついて、ふしぎなめぐり合いにおどろいた。
 太刀川は、今までのことを手みじかに話した上、このおそるべき海底要塞の日本攻略準備がなった以上、これを一刻も早く日本へ知らせなければならぬと語った。
「よく、おあかし下さいました。私も、死んだつもりで、祖国日本のために働きます」
 三浦須美吉は、体をふるわせて、太刀川の前にちかったが、足もとの鉄の鎖に気がつくと、ダン艇長、酋長ロロに、
「早く」
 というように目くばせして、鉄の鎖を、ぐいとひっぱった。鎖が、がちゃりとなった。