秘密のぬけ穴
うごきだした樽は、ひょいと横にのいた。すると、そのあとにあいた穴から思いがけない人の顔があらわれた。まっくろな顔だった。原地人だ!
原地人は、穴から出て来ると音をしのばせて、こっちへはいだした。と思うと後をふりかえって、手まねきをするようであった。すると、また一人、その後からあらわれた。長いひげをはやした東洋人の顔。
つづいて、第三の顔があらわれた。これは白人だ。
その時であった。太刀川時夫が気がついて、がばとはねおきたのは。
彼は、とつぜん身近に、人の気はいがしたので、はねおきて、その方をじーっと見つめた。すると、天からふったか地からわいたか、部屋のすみっこに三つの思いがけない顔が、こちらを見ている。
「あ、ダン艇長」
と、太刀川はひくくさけんで、ベッドから立ちあがった。
ダン艇長! そうだ、その白人は、ダン艇長にちがいない。他の二人はいうまでもなくロップ島の酋長ロロと、あの手品のうまいクイクイの神様こと、実は日本人漁夫の三浦須美吉であった。
ダン艇長も、鉄鎖でつながれている太刀川を見て、
「おお、……」
と、いって、かけだそうとした。それを、酋長ロロと三浦須美吉が、無言でぐいとおしもどした。
この部屋の外には、衛兵がいるのだ。もしこれが知れたら、非常警笛が鳴りひびき、同時に衛兵たちがどやどやとなだれこんで来て、四人をうむをいわさず、銃殺してしまうだろう。
ダン艇長は、気がつくと、そーっと太刀川のそばに近づいて、
「太刀川さん。これは一たいどうしたのですか」
といって、時夫の手を握った。
「ありがとう。これにはわけがあるが、僕は、捕虜になってしまったんです。しかしあなたがたは、どうしてこんなところへ?」
するとダン艇長は、
「太刀川さん。これは、すばらしい探検記ですよ。だが、僕たちは、このまえ一度、あなたをみかけましたね」
「そうそう、海底の汽船が沈没していたところでしょう」
「そうです、あの時、僕はあなたを見つけたのですが、あまりのことにびっくりしたのです。実は、太刀川さん。僕はこの酋長ロロのすんでいるロップ島へながれついて、一命を助ったのです。酋長ロロは、なかなかりっぱなそして勇敢な人間です。そのロップ島からすこしはなれたところにカンナ島という石油が出る島がありますが、そのカンナ島の古井戸から、この海底城(ダン艇長は海底城という言葉をつかった)へ、秘密の通路があることを知って、僕たちをつれてきてくれたのです」
聞けば聞くほど、奇々怪々な話であった。
「その秘密通路というのは、一たい誰がつくったものですか」
太刀川は、そう問いかえさずにはいられなかった。
「いうまでもなくこの海底城をつくった人間がつくったのです。カンナ島に、かくれた石油坑があればこそ、この海底城に、電灯がついたり、ポンプがまわったりしているのです」
「なるほど」
太刀川は、その大がかりなのに、今さらのように感嘆した。
その時、クイクイの神様こと、三浦須美吉が、前へのりだしてきて、太刀川の腕をとった。