「?はい・・・」
私は看護師さんに言われた通り、坂道を歩き始めた。不安を感じるかと思った・・・違った・・・不思議・・・なぜだか、何回も通った気がする。見たことのある風景が広がっている・・・そしていつの間にか、坂道を登りきる。
左を向くとそこには、看護師さんの言う通り、大きな白い家が・・・私の家も大きかったけど・・・それ以上。早歩きで、ついにインターホンまで・・・。なぜだか、無意識に二度、早押しをしてしまった・・・。
インターホン越しの声を待っている私の予想に反して、勢いよく玄関の扉が開いた。
女性だった。
私の顔を見るなり、顔を下げてしまった・・・。私はその女性がおじさんの奥さんだとすぐにわかった・・・。
「はじめまして。私、美空っていいます」
「美空さん?」
「はい。これ、なんだか、わかりますか?」
「ひょっとして、それはあの人の携帯ですか!?」
「そうです・・・遅くなってすいませんでした。おじさんの奥さん?ですね・・・それとも『珍さん』とお呼びしたほうがいいですか?」
「・・・とにかく、そこではなんですから、中に入ってください、美空さん」
「え?いいんですか?」
「見たところ、お目が不自由と感じました。そんなご様子でこんなところまでお一人できていただいて・・・それに、お聞きしたいこともありますし」
「(どうして、私の目が不自由って・・・あっ!ついくせで杖まで持ってきてしまった・・)ありがとうございます」
私は玄関に通された。その時に、奥さんは私の腰に手をまわしてくださった。玄関にはちょっとした応接室があった。そこに座らせてもらった。
何から話したらいいか・・・ここまで来ると頭の中がごちゃごちゃになってしまった・・・そう思っていると、
「こんなところまで、大変だったでしょう。美空さん」
とても優しい声だった。そして、私の気持ちを察するかのように話し始めた。
「いきなり玄関の扉が開いて、驚かれたでしょ?実は死んだって分かっていても『あの人』が帰ってきたかと思ったの。美空さん、二度早押ししたでしょ?あの人のくせなの。だから・・・。そして玄関を開けてみたら・・・女の子が立っているから。ごめんなさい・・・一瞬、期待してしまったから、下を向いてしまったの」
「おばさま・・・それは・・間違ってません!おじさんは・・確かに亡くなってしまいました。けど、小さくなってしまったけど、この中に確かにおじさんはいるんです!」
「美空さん・・・。美空さん、どうして私が『珍』だと?」
「珍さんの最後のコメントです。『だから早く、戻ってきてください』これを見たからです。そして、これを、このコメントを見たのは、残念ですが、私だけなんです・・・」
「・・・美空さん?見たって・・・あなたは目がはっきり見えるんですか?」
「・・・そのことを話すには、少し前から話をしないといけませんね・・・。実は、見えるようになったのはつい最近、昨日って言ってもいいかもしれないですね・・・。
私は中学二年の時に両親と目をなくしたんです。最初から見えなかったわけではないんです」
「ごめんなさい。つらいことを思い出させてしまいましたね・・・」
「いえ、今はもう・・・。最初はつらかったですけど。リハビリして、杖をついて歩けるようになってしばらくたった時におじさんに会ったんです。『何でそんな危ないことさせるんだ!』って、リハビリなのに怒って。でも、私は、それが妙にうれしくて。今まで周りの人は関わろうとしない人ばかりだったから」
「あの人、強引なところあるから・・・」
「それから、おじさんとは病院内のビオトープでよく会って、私の話をよく聞いてもらいました。甘えさせてもらったと言った方がいいのかもしれませんね・・・」