ガチャン
それからの二時間は何も起きなかった。そして看護師が美空の病室に・・・。
「美空さん・・寝てますね・・少しお熱だけはかりますね・・」
・・・・・・・・・・・
「38度7分!ちょっと高いわね。念のため、先生に連絡を入れておかないと・・・」
「・・・うっ、痛い・・・」
「美空さん?!すいません!美空さんの主治医の先生を呼んでください!」
「どうかしましたか?」
「あっ、先生!美空さん、熱が上がりまして、それは想定内なのですが、どこか痛みがあるようなのです」
「ちょっと診ますね・・・美空さん・・美空さん・・・」
「ん、ん、 うっ・・」
「わかりますか?」
「・・袴田?・・・遅いよ・・何やってたの?」
「美空さん・・袴田先生じゃないですよ!主治医の先生に来てもらいましたから」
「・・え?・・ん、あ、主治医の先生なんですか?・・すいません」
「気がついたんだね。今、ちょっと熱が高いんだけど、それは心配いらない。熱が高いと言うことは体が抵抗しているということだから、治ろうとしているということなんだ」
「わかりました」
「ですが、どこか痛みがあるような感じで、うなされてましたが、どこか痛みますか?」
「頭が痛みます」
「頭・・ですか・・」
「はい、今までに感じたことのない痛みなんです」
「わかりました。とりあえず、痛み止めを入れておきましょう。それから、この痛みはしばらく続きます」
「そうなんですか・・それは見えるためなんですか?」
「必ずしも見えるとは言い切れません。神経が働き始めたから、痛みに感じているのかもしれないのです。兆候としては悪くはない。しかし、絶対とは言い切れません」
「先生らしいですよね。袴田とは違いますね」
「そうでしょうね」
「わかりました。がんばります」
「看護師をそばにつけておきましょう」
「ありがとうございます」
「また、何か変化があったら呼んでください」
その後、二日間、美空は痛みに耐え抜いた。そしてある変化が見られた。
「・・看護師さん?・・います?」
「はい、いますよ。どうしましたか?」
「不思議なことがあるんです・・もう、慣れちゃったのかなあ、頭が痛くないんです」
「ちょっとお熱をはかってみましょうね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「お熱は下がったみたいですよ。だから、頭の痛みも取れたのだと思いますよ。よく頑張りましたね!本当に」
「あとね・・私、手術の前は食事の時間で朝とか夜の時間を判断してたの・・頭が痛くなってからは食事がとれなかったからまったくわからなくなったけれど・・・」
「そうだったね・・・え?美空さん・・?」
「看護師さん、今はお昼ですよね?」
「そう、そうよ!お昼ですよ!美空さん!わかるんですね!」
「はい、包帯の下からだけれど、今までと違って明るさを感じるの」
「ちょっと待ってね!先生を呼んでくるからね!」
「はい」
「美空さん、明るさがわかるんですか?」
「あっ、先生!はい、わかります。今までと違って、わかります」
「もう、痛みは感じないと思いますよ。よく頑張りましたね。ですが、明るさを感じるとはいえ、ものが見えることとは違います。もう少し我慢してくださいね。本当にここまでだけでもよく頑張っていますから・・」
「ありがとうございます。私なら、まだまだ大丈夫ですよ。これくらいなら、今までのことに比べたら」
「そうだったね・・・。ところで、袴田先生なんだけどね、実は今、病院の代表としてドイツに行っています・・だから・・」
「そうなんだ!良かったです。何かあったのかなあって思って、逆に心配してました。生きてさえすれば、いいんです・・会えますから・・」
「君は強い子だ、美空さん!では、また来ます」
そう言い残し、主治医は病室を後にした。そして看護師が美空に話しかけた。
「ごめんなさい、美空さん」
「何で看護師さんがあやまるんですか?」
「袴田先生のことずっと黙ってて・・」
「前にもいってたじゃありませんか。看護師さんは『私のことを一番に考えてくれているって』今回のことだってそうでしょ?だから、あやまることなんてないですよ」
「美空さん・・これじゃあ、どちらが大人かわからないわ。この前だって、美空さんの前で泣いてしまって・・本当なら患者さんの前で泣くなんて看護師失格なんですよ」
「・・・そんなこと・・ありましたっけ?私、目が見えてなかったからね・・看護師さんが泣いてたなんてわからなかったけど・・」
「ほらまた、助けられましたよ・・」
「もう、そんなこといいから、前向きなことを考えさせてくださいね!看護師さん!」
「わかりました・・では・・もし、美空さんの目が見えるようになったら、まず最初に見たいものは何ですか?」
「私の名前の『空』なのかな・・いつも、空から元気をもらってたの・・」
「そうでしたか・・」
「でも、違うかもしれない・・本当にはじめに見たいのはたぶん・・」
「たぶん?」
「笑わない?」
「ええ、笑いませんよ」
「じゃあ、言うね・・・袴田の顔。元気をもらってたから」
「・・・・」
「やっぱり、笑ってない?」
「逆ですよ・・感動してしまいました。言葉がありません」
「袴田には内緒ですよ」
「もちろんです・・・あっ、そういえば、これを渡すように言われてました」
「何?ケイタイ?あれ!?ひょっとしてこれ、おじさんの!」
「よくわかりましたね」
「はい・・じつは、おじさんにケイタイを勧めたのは私のようなものだし、触らせてもらったこともありますよ。確かおじさんブログやってたと思いますよ」
「実はね、美空さん。この携帯、美空さんが『デートの誘いでもあった?』とか言われた時の・・」
「ああ!!あの時になったケイタイがこれなんだ!・・?でも、おかしいですよね?あの時点でおじさん、亡くなってるし・・看護師さん、誰からか、見ましたか?」
「・・あの時に先生に注意されたので、すぐに電源を落としましたよ・・そのままですよ」
「そうなんですか・・」
「・・とにかく、袴田先生が『これは君たちがもっているべきだ』って言われていました。そして、『心の支えにしてほしい』とも」
「心の支え・・ですか」
「この携帯には彼の心がつまっているからって、だからこそ君たちが持つべきだって」
「・・・袴田らしいなあ」
「だから、美空さん。目がまだ見えないうちはこれをお守りのように握って、少しでも早く見えるように願いましょう。そして、見えるようになったら、自分の目でおじさんの心を見ましょうよ!」
「ふふふ・・・」
「どうしたの?」
「看護師さん、初めて自分から前向きなことを言ってくれましたね!私、頑張りますよ」
それから数日間、主治医と看護師とともに治療とリハビリに専念した。そして、
「まだ、思うようには瞳は動かせないし、いきなり明るいところでは無理だけど、明日、包帯を取って、まぶたを開いてみよう」と言われた。