「月刊 流通雑感」NO.228、2023年 9月号
《目次》
1、 社会・消費者動向
(1) 水不足
(2) 「愛」より「安定収入」か
2、 小売業・卸売業の動向
(1)西武百貨店池袋本店、ストで臨時休業、約60年ぶりのストによる休業
(3) 営業利益1,000億円を超えた6つ目の小売グループ誕生
(4) ドラッグストア業界とオアシス・マネジメント
(5) そごう・西武の社長解任、新社長は田口氏
(6) オーケーは銀座で成功するのか?
(7) オンワードの「クリック&トライ」
3、メーカーのチャネル戦略、
(1)キリンの「富士」、18カ国で販売へ
(2)サントリー、日本コカ・コーラが水資源保全に力
(3)HI-CHE、逆輸入
4、その他
(1)メーカー間の共同配送
(2)ワンプレート冷食
8月は本当に暑かったですね。8月上旬、避暑にと思って、白馬に5~6日行っていたのですが、白馬も暑くて驚きました。山の上の日陰は、流石に涼しいと思いましたが。
その暑い8月も終わりました。残暑は続くようですが、9月中旬くらいになると、過ごしやすくなるのではないかと期待しています。
9月22日からは秋学期が始まります。私にとっては、大学の教員としての最後の半年間となります。病気や怪我をせず、最後まで大学の教員をまっとうしたいと思っています。
1、 社会・消費者動向
(1)水不足
水不足で物流が滞ったり、食料品が不作になったりしています。
パナマ運河では、現在、130隻の船が通航待ちをしています。運河に水を供給する湖の水位が7月下旬に2016年6月以来の低水準になり、運河の水が不足しているからです。パナマ運河は通航のたびに水が海に流れ出る仕組みです。節水のため、一日に通航できる船の数を32隻と通常から1割減らしています。そのため、通航待ちの船が渋滞を起こしているのです。その上、運河の水位も低く、船が沈む深さの制限も実施しています。大型のコンテナ船などは重量を減らす必要があり、重量制限で積みきれない荷物も発生しています。そのため、貨物船の需要は高まっています。
ドイツの国内物流の大動脈であるライン川も水位低下による物流の目詰まりが懸念されています。ライン川の水位が135センチを下回ると大型コンテナ船は貨物量を半分まで、75センチを下回ると3割まで減らす必要があります。22年8月のドイツ国内の貨物輸送量は21年同月比27%減少でした。23年は7月に水位が100センチを切る場面もあったそうです。
一方では干ばつも深刻です。オリーブオイルの価格指数は今春以降、最高値を更新続けています。主産地のスペインで昨年以降、干ばつのため原材料のオリーブの収穫量が減少しているからです。アメリカでは干ばつのため米の収穫量が減少しています。
世界資源研究所によると、世界の約40億人が年に1か月、干ばつや洪水など水に関わる被害を受ける環境にあり、気候変動で影響を受ける人数は今後増えると言われています。
企業も「サントリー」や「コカ・コーラグループ」のように水資源保全に動く必要があると思います。
(2)「愛」より「安定収入」か
24年春に社会に出る女子学生に理想とする「将来の自分」像を聞いた結果、「一生食べていける安定した仕事を持つ」(26.9%)が、「愛する人と結婚して子供ができ幸せに暮らす」(25.1%)を初めて上回ったのです(マイナビが22年11月~12月に調査したもので、24年春に卒業予定の大学院生・大学生2058人の女子学生が対象)。これは大きな変化です。23年卒の場合は、「一生食べていける安定した仕事を持つ」は24.19%で、「愛する人と結婚して子供ができ幸せに暮らす」が29.9%でした。コロナ禍が価値観を変えたのでしょうか。
愛とか結婚とかよりも安定した収入があって、安定した生活ができれば、推し活もできるし、恋愛もできるし、趣味もできるという事なのでしょうか。少し驚いたのですが、冷静になるともっともと思えてきます。
2、小売業・卸売業の動向
(1)西武百貨店池袋本店、ストで臨時休業、約60年ぶりのストによる休業
セブン&アイは8月24日に臨時株主総会を開き、3人の取締役を増員しました。これで取締役は13人となり、過半の8人がセブン&アイとの兼務者となりました。そのため、いつでもそごう・西武として、売却を決議する事ができるようになったのです。
そして8月31日、臨時取締役会で、フォートレス・インベストメント・グループへのそごう・西武の売却を決議します。売却額は2200億円程度だそうです。
これに対して、そごう・西武の労働組合は雇用維持が不確実だとして、ストライキを実施する事を決議しました。井坂氏は「池袋店は大半の従業員を残す。他の店舗は最大限維持する」といい続けているようですが、規模(何人を残すのか)を明言しないため、労働組合としては不信感を持っているようです。
そして、8月31日、西武池袋店は従業員のストライキのため全館臨時休業になりました。百貨店でのストライキは、1962年の阪神百貨店労働組合が最後とみられ、約60年ぶりの百貨店のストライキになります。
当初予定から半年ほどかかって売却にこぎ着けた格好ですが、なぜこれほどの混乱が続いたのか、セブン&アイはよく考え、反省すべきです。小売業には、社会的責任があります。地域社会との共生が必要ですし、従業員の会社の方針に対する理解・協力も欠かせません。そのようなことを考えずに、単に数字だけを見て意思決定していたのではないでしょうか。おそらく、売却が決まれば、1~2年後には、地方にあるそごう・西武百貨店は消えてしまうかもしれません。それぞれの県にしたらそれも大問題なのです。労働組合もどこで活動をやめるのか、継続していくのか?これも注文すべき点です。
(2)2022年度のコンビニ
2022年度のコンビニは次の表の通りでした。
この表の数値を使って計算すると、大手3社に一日で来店する客数は、約4200万人です。確かに、コンビニは媒体としての価値もあります。また、大手3社の一日の売上高の合計は約308億円になります。大手3社で店舗数は52,566店舗になります。コンビニ業界は約6万店舗あると言われていますので、その通りだとすると大手3社で87%のシェアを持っていることになります。
(3)営業利益1,000億円を超えた6つ目の小売グループ誕生
営業利益で1,000億円を超えた小売企業・グループは今まで5つありました。セブン&アイ、イオン、ファーストリティリング、ニトリHD、ヤマダHDでした。それに、パンパシフィックHDが付け加わりました。6つ目です。
今期の営業利益の見通しは、セブン&アイ(5130億円)、イオン(2200億円)、ファーストリティリング(3700億円)、ニトリHD(1450億円)、ヤマダHD(505億円)、パンパシフィックHD(1110億円)です。ヤマダHDは1000億円以下になっていますが、他の5社・グループは1000億円以上です。
(4)ドラッグストア業界とオアシス・マネジメント
香港の投資ファンドであるオアシス・マネジメントが、ドラッグストアの「ツルハ」と「クスリのアオキ」の株主総会で株主提案を行いました。どちらも否決されたわけですが、会社のガバナンスに問題があると主張して、会社が提案した役員の選任案に反対したわけです。なお、クスリのアオキの株式を、オアシスは5.5%を所有し、イオンは9.98%所有し、ツルハが5.13%を所有しています。
ツルハの場合、オアシス・マネジメントが約13%の株式を保有していますので、その大手株主が「創業家の不当な影響力がある」と問題にしたことは、今後のM&Aにも影響が残るのではないかと考えられます。その上、ツルハの株式の13%をイオンが所有しているのですから、もしもオアシス・マネジメントが所有している株式をイオンに売却したら、イオンは26%の株主になります。そうなるとウエルシアとの合併も考えられるかもしれません。もしもそのようなことが起きると、連鎖的にクスリのアオキも再編成に巻き込まれる可能性があります。
なにしろ、アメリカの大手ドラッグストアのCVSヘルスは売上高約3200億ドル(約46兆円)です。これぐらいの規模にならないと世界大手の製薬会社との価格交渉を有利に進めることはできないといわれています。日本のドラッグストアは,ようやく売上高1兆円になってきたわけですが、これが最終目標ではありせんから、これからもM&Aは進展すると思われます。その時に、このオアシス・マネジメントが裏で動くということが大いに考えられるわけです。オアシス・マネジメントの動向から目が離せません。
(5)そごう・西武の社長解任、新社長は田口氏
そごう・西武の林拓二社長が解任され、田口広人氏が社長に就任しました。これまでは、取締役8人でそごう・西武側が6人だったのですが、新体制では取締役10人中半数がセブン側になりました。
なんとしてもアメリカの投資ファンドであるフォートレス・インベストメント・グループへそごう・西武の売却手続きを完了させるために、そごう・西武の役員を入れ換え、セブン&アイの方針をそごう・西武で実行しやすくしたようです。
これでそごう・西武の売却は完了するのか?さらに迷走するのか?ますます注目度は高まっていくのではないでしょうか。この後の展開は、(1)に書いた通り、売却され、ストライキ突入となりました。
(6)オーケーは銀座で成功するのか?
あのEDLPで有名なオーケーが今年の秋、銀座に出店します。24年には日本橋にも出店予定だそうです。格安スーパーとも呼ばれているオーケーが銀座に高い賃料を支払って、出店し、成り立つのでしょうか?大いに疑問です。それだけに大きな関心を集めています。
それに対して二宮社長は「家賃に見合う売り上げは取れる」「都心や駅前店は、客単価は低いが客数が多い。5月にJR田町駅前で開業した店もオフィスの昼食需要を取り込み、周辺住民利用でもベースを稼いでいる。都心で人口密集地には今後も出店したい」と述べています。今のところは、強気で、都心への出店を強化したいようです。
果たして、2年後、3年後もこのような発言が続くのか?今までの常識(ディスカウント業態は、出店コスト、運営コストを低くするのが常識)が打ち破られるのか?とても関心があります。
(7)オンワードの「クリック&トライ」
オンワードが「クリックトライ」で収益を回復させています。「クリック&トライ」は、ECと店舗の融合とも表現されますし、「取り寄せ試着」とも表現されています。
「クリック&トライ」は、自社の通販サイト「オンワード・クローゼット」で扱う傘下のオンワード樫山のほぼ全商品が対象です。利用者は、パソコンやスマホから商品ページの「店舗試着」ボタンを押し、希望する店舗や日時を入力するだけです。最短2日で店に届いて通知メールが配信されます。1回に取り寄せられるのは5点まで、7日間取り置きます。購入は必須ではありません。取り寄せ商品が購入に至る比率は約50%です。
オンワードには「23区」「五大陸」など様々なブランドがあります。それだけに「地方在住で近所に好きな店がない」とか「店頭在庫が少ないサイズや色をみたい」などの意見が多くあり、ブランドの垣根を超えてまとめて最寄り店に取り寄せ、実物を確認できる点が好評だそうです。
この「クリック&トライ」は結果的に、「来店頻度の向上や客単価の押し上げにつながっている」そうです。2021年の開始から「クリック&トライ」の対応店は増え続け、23年5月にオンワード樫山の51%にあたる360店が対応しています。対応店は19年の3~5月の売上高に比べて13%上回っています。そのため、「クリック&トライ」対応店はコロナ禍で落ち込んだ業績の急回復に貢献しています。
「クリック&トライ」はオンワードだから有効なのか、あるいは全てのアパレルメーカーに有効なのか、今のところはわかりませんが、オンワードの「クリック&トライ」の成功は注目すべき事例だと思います。
3、メーカーのチャネル戦略
(1)キリンの「富士」、18カ国で販売へ
キリンの「富士」というウィスキーは、現在、国内以外では、フランス、アメリカ、オーストラリア、中国、シンガポールの5カ国で販売されていますが、フランスのペルノ・リカール(「シーバスリーガル」「バランタイン」といったブランドを持つ蒸留酒世界2位の会社)と提携したことによって、今後はペルノの販路を活用して、イタリア、スペインなど欧州13カ国でも販売します。海外は18カ国になります。「富士」の価格は、日本の2倍近い、1本1万円超を想定しています。現在の海外販売額年1億円程度から30年には20億円程度まで増やす計画です。サントリーの「山崎」やニッカウィスキーの「余市」などが海外で高く評価されていますので、その路線上で「富士」も売って行こうとしています。
(2)サントリー、日本コカ・コーラが水資源保全に力
日本コカ・コーラグループは、水源涵養率(製造に使用する水量に対して自然に還元した水量の比率)を高めるため、多摩工場周辺の2自治体(山梨県丹波山村と東京都八王子市)との間で、工場周辺の水源保全に関する連携協定を締結しました。
サントリーは、5月、小学生や工場見学者向けに水や森の大切さを伝える環境教育「水育」を英国とニュージーランドでも始めました。日本では2004年から始めています。現在は、ベトナム、ニュージーランド、英国など8カ国でも実施しています。サントリーグループでは、30年を見据えた環境目標の中で、全世界の自社工場の半数以上で、使用する水の100%以上で、使用する水の100%以上を水源に還元すると設定しています。国内では、19年時点で、工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水を自然に還元しているそうです。
水を扱う企業に責任ある姿勢が求められていますので、サントリーやコカ・コーラグループのような取り組みをする企業が増えていくものと考えられます。
(3)HI-CHE、逆輸入
アメリカでヒットしている森永のハイチュウのアメリカで販売されている3つの味である「レインボーシャーベット」「ブルーハワイ」「ブルーラズベリー」を入れた「ハイチュウソート〈ファンタジーミックス〉」が日本で販売されています。「過去に発売した同じ価格帯、容量の期間限定商品と比べて1.5倍の売れ行き」だそうです。「海外のハイチュウを食べてみたい」という消費者の声に応えて、逆輸入したわけです。
ハイチュウは、22年12月時点で全米のスーパーやコンビニの77.4%で販売されていて、22年の売上高は前年比38.9%増だそうです。また、ハイチュウのブランド認知率も23年3月時点で51%に上るそうです。
今では、アメリカでヒットしているハイチュウですが、当初は小売店にも商品を置いてもらえず、とても苦戦したようです。転機となったのは、ある日本人メジャーリーガーの行動でした。当時レッドソックスに所属していた田沢純一選手が、差し入れとしてハイチュウを同僚たちに配ったところ、「おいしい」と好評となり、試合中でもハイチュウを口に含む選手が増え、「あの選手が食べているのはなんだ」と話題になり、商品の認知率が一気に上がったようです。現在では、メジャーリーガー4球団とスポンサー契約を結び、看板広告や試合時のサンプリングなどで商品を宣伝しています。
お菓子の逆輸入というのは珍しいですね。ただ、オリンピックでも水泳の国際試合でも日本に来た海外の記者などが日本のお菓子は美味しいとSNS上で報告しているので、これからもお菓子類の海外での販売は伸びる可能性が大いにあるように感じています。
4、その他
(1)メーカー間の共同配送
物流の24年問題で、新潟県の菓子メーカー6社が共同配送の実証にはいりました。亀田製菓、ブルボン、岩塚製菓、三幸製菓、栗山米菓、越後製菓の県内の主要菓子メーカー6社です。6社で「新潟菓子メーカーパレット物流研究会」を2020年に発足し、22年1月と23年7月に共同配送の実証を実施しました。
輸送用のトラックが各社の工場を回って商品を混載し、直接卸売業者に商品を運びます。積載方法もバラ積みからパレット積みに変更し、積み下ろしの荷役作業を軽減します。この実証の評価・改善を進め、23年下期から本格的に始めます。パレットにした場合、特に
積み下ろし作業の時間が大幅に短縮したといいます。今後、さらに工夫されて実行されていくものと思います。
一方、味の素、ハウス食品グループ本社、カゴメ、日清オイリオグループなど6社は、北海道でF-LINE(食品メーカーの共同出資の物流会社)を通じて、共同配送してきているが、札幌市と北広島市にある配送拠点を札幌市に集約します。そうすることによって、トラック1台当たりの積載効率を高める予定です。
地域ごとに業界ごとに共同配送の機運は高まりそうです。
(2)ワンプレート冷食
冷凍食品の品質が向上しています。数年前から、冷凍食品が美味しいと思ったことが何度もありました。70歳以上になったら、老夫婦での生活で食事の用意は大変ですから、週に一度とか二度は冷凍食品の弁当のようなものにしたらどうかと思ったことがありました。
そんな時に、ワンプレート冷食が売れているという記事を読みました。主食とおかずを組み合わせたワンプレートの冷食です。例えば、「五穀梅ご飯と彩野菜とバジルチキン」といった具合です。
ニップンが「よくばりシリーズ」としてワンプレート冷食を出して、大成功しています。そのためニチレイも「三ツ星シリーズ」と名付けたワンプレート冷食を始めています。また、ニッスイもワンプレート冷食の「まんぞくプレート」を発売しています。
どうやら一人暮しの人や共稼ぎ夫婦や高齢夫婦などには便利な冷食のようです。一度、試してみたいと思っています。
以上