数年前からの能登半島先端部の地震についてスラブからの水が上昇して影響しているという考えが専門家から話され,そんなものか,と思っていたら,筑波の知人からスラブから水が供給されたらマグマもできているはず,とのご指摘があった.こういう問題は長年実験をされ世界のトップにおられる先生方に解説して頂ければ良いのだが,世俗とは交わられないようなので,あれこれ文献を眺めている次第.

 

能登半島の下には太平洋プレートスラブが沈み込んでおり,その深発地震面の深さは約250km(圧力にして8GPa ;8万気圧).Nakamura Iwamori(2008)は第四紀火山岩の化学組成からフィリピンプレートに由来する流体と太平洋プレートに由来する流体を判別する方法を見出し,各火山の組成から各プレート由来の流体を判別している.

判定の結果がFigure 4にあるが,意外と東北地方南部の火山でもフィリピン海スラブ由来の流体の影響を受けていたりする.一方,戸室山のようにほぼ完全に太平洋スラブ由来の組成を持つものがあったりし,能登半島では基本的に太平洋スラブからの流体を考えれば良いのかと思われる.

 

マントル遷移層(410-650㎞深)が水の溜まり場になっているというのはあるが,それより浅い部分でのスラブやマントルウエッジの含水量はどうなっているのか.(この辺も勉強不足でかなり怪しい)

大谷先生達の相図.ちょうどマントル遷移層の辺り(14-25GPa)でWadsleyiteが水を含むのが良く分かる.一方,8GPa辺りは一番ドライな(固相に水を取り込めない)状態のようだ.それでも能登で流体上昇による地殻内地震や隆起がおこっているので,島弧火山活動を引き起こした浅部のスラブが脱水の後もある程度流体が保持され沈み込みスラブから少しずつ放出されたのだろう.

 

ところで高圧になると水流体とメルトが連続になって超臨界流体として存在することが一頃盛んに議論されていた.

Kawamoto et al.2012の図にあるように,だいたい4GPa以深では水流体とメルトは連続で超臨界流体として存在するらしい.つまり能登半島の下でスラブから流体が分離したら超臨界流体として上昇し途中(数GPa)でメルトと水流体に分離していくのだろう.結果として水流体は上昇して地殻に到達し地震を生じるが,メルトはある程度は上昇したとしても途中で止まってしまったのだろうか.超臨界流体の組成が水寄りかメルト寄りかにもよるけれど,この辺りになると専門でやっている先生方のお知恵が欲しい.

 

能登半島地震から3週間半.だいたいの被災状況は判ってきたようだが,被災された方々のかなり多くは風雪の中厳しい環境で過しておられるようだ.駅などでの街頭募金にはできるだけ協力しているが基本何もできない.

 

 

PS (2024.2.6)  能登半島の直下に太平洋スラブからの流体が上昇,というのがスッキリしないでいたが,少し文献を検索すると,別の考えもありそうだ.

 

割と最近の論文(Miyazaki et al., 2023 EPS)では能登の下にはフィリピン海スラブが存在するようで,北陸の富山付近の下にはなく,スラブ窓になっている.つまり太平洋スラブでフィリピン海スラブが引きちぎられてSlab windowが生じている.さてはて能登に上昇している流体はフィリピンスラブに由来するものか?200kmだと6GPa程度で,上のOhtani et al.(2007)の図を見ても特に脱水反応があるわけでもなさそうで悩ましい処.

 

PS(2024.2.7) Umeda et al.(2009)JGRの He3/4比の分布.RAは空気に対する湧水のHe3/4比.マントルはRAは8程度.

能登半島の北側で2点少し高い(マントル成分が少し混じっている).上図のSlab windowと低RA分布は少し位置がずれている.

 


 

PS-3  2月9日に発表された地震調査委員会の資料は各機関から詳細な報告がされています.次のリンクで見れるでしょうか?

令和6年能登半島地震の評価(令和6年2月9日公表) (jishin.go.jp)