小山さんが今年度の火山学会賞を受賞というニュースで10年前に出された岩波新書を知った*。早速入手して最初の辺りを読み、他の人には誰にも書けない内容を持つと思った。結局、1日一章のペースてようやく読み終えた。私は現役時代、修論生3人、卒論生2人と広島・神戸から10数回、富士山地域に通ったが、この本に書かれている内容の1/10も見れていない、という感想。書かれた内容は現地で見て考えられたものの何十分の一だろうから凄い蓄積。また、文章が読みやすくやすく練られている。


最初の「コース案内」にあるように本書は富士山の火山としての自然を訪ねるツアーガイドブック。

序章 富士山の基礎知識

第1章 江戸幕府をゆるがした噴火ー宝永噴火コース

第2章 変わる麓のすがたー貞観噴火コース

第3章 土砂に埋もれた原野ー東麓コース

第4章 火の道、水の道ー南東麓コース

第5章 崩れゆく富士山ー西麓〜南西麓コース

第6章 相模国をおびやかした噴火ー北麓コース

第7章 富士山頂ー山頂登山コース

あとがき

口絵24、図表多数で臨場感。


幾つか面白かった処、

序章の、2.火山の自然を探った人々、は短いながらバランス良く過去の研究を取り上げてあり勉強になった。


第2章や第4章で書かれているが、富士五湖とはいいながら、長い時間の中で見るとかなり変転があった。貞観噴火でのせのうみが埋められた話は有名だが、長い噴火史の中では、消えた湖がボーリングで見つかったりしており、現在の状況は将来的に変化しうる、という事がよく分かる。


第4章等で書かれている、麓に達した溶岩流があるとその両側が侵食されて川が発達している。言われてみれば当然だけどこれまで気付かずにいた。


宝永火口の解釈は、馬場他(2022)火山によって新しい観方が出され修正が必要なようだ。ただ気になったのは、この本でも馬場他でも、砂沢噴火が宝永火口付近で生じたことに触れていない。宮地(1988)を見ると、砂沢噴火と宝永噴火のアイソパックは規模も類似しており、両方とも最下位に白色軽石が出ており、宝永噴火の前に砂沢噴火の火口ができていたと思われるのだが。


兎も角、素晴らしい御本、ありがとうございました。また、学会賞受賞おめでとうございます。


* それにしても、10年も気付かなかったのはお恥ずかしい。現役時代は富士山には学生さんの卒論、修論で出掛けていたが、2010年に退職してからは富士関係の論文は気に掛けていたのだが。2011年1月に新燃岳噴火があってそちらに気持ちが行ってしまっていたものか。