萬年さんの御本を読んでいて,伊豆大島噴火の時の火山噴火予知連で中村一明先生が臨時委員として登場して”中村学”拝聴の場になったことが書いてあり,この本を読んでいないことに気付き,図書館で予約して読むことができた.非常に面白く,教訓的で古本でも購入し難いのが残念であった.

 

1986年11月の伊豆大島噴火について,実に丁寧に多角的に書かれている.

序章:その日, 第一章:予兆, 第二章:噴火, 第三章:大脱出, 第四章:”無人”の島, 第五章:避難生活, 第六章:帰島へのシナリオ, 第七章:苦悩する予知連, 終章:再生, 付録/資料編,参考文献,おわりに,執筆担当者から,写真提供一覧.

 

あれから35年になるから,若い人には歴史上の噴火になっている.夏に地震が起こり始めて11月に連続微動が見られるようになり警戒される中,11月15日に山頂三原山で噴火が始まる.最初は溶岩を噴き上げるストロンボリ式噴火で火口が溶岩で埋まり三原山の斜面に溶岩流として流れ出す.山頂のストロンボリ式噴火は徐々に弱くなっていった.11月21日午後に地震が強く生じるようになり夕方,三原山の外のカルデラ底に割れ目が走り溶岩噴泉の活動が始まる.割れ目は北に走り,カルデラを越えて外輪山の外側に達した.そこからも溶岩流が元町へ向かって流れた.噴煙は8000mに達しサブプリニー式噴火で、広範にスコリア降下堆積物を残した。結局翌日にはほぼ噴火は終息したが,その後,地震活動が南や北で見られるようになり,過去には海岸線近くで水蒸気爆発で大きな火口が開いたことがあり,その可能性のために,島民避難が行われ,帰島についても判断が難しかったことが記されている.

 

私にとっては噴火予知連の内情がある程度書かれており、知らない世界だったので面白かった.噴火に直面して予知連や行政の対応が変化していく様も良く書けていた.東大伊豆大島観測所の渡辺秀文先生や,予知連の下鶴大輔先生の裏話なども書かれている.全島1万人が東京都に避難して噴火予知が重要になり伊豆大島全体に観測装置が多数配置された.12月8日の予知連伊豆大島部会でのやり取り.

「噴火活動の見通しがはっきりしないなら,コメントにわからないと書けばいいでしょう」

「あなた,11億ももらっているのにそんなこと書けますか」

会場は一瞬しんとしたという.ちなみに平均的な火山噴火予知連の年間予算は4億程度とのこと.

 

当方は1985年に金沢から広島へ動いて,海の火山岩岩石学を止めて噴火の岩石学をはじめようと考えた最初の噴火で,1987年2月に一週間現地に滞在して噴出物の観察・採取をして,結局その試料で1気圧溶融実験をして論文を1本書くことができた.渡辺先生や,増谷さん,笹井さん、地調の曽屋さん等の皆様にお世話になった.声を掛けて頂いた荒牧先生に感謝致します。