先日,まな板の削り出しをする時に鉋の刃を砥石(人造)で研いだりした.
そのことを知人にメールでのやり取りの時に書いたら,人造砥石だとイマイチで
天然砥石がよく研げるとのこと.で,天然砥石の高価なものは数100万円もする
ものもあると聞いてビックリ.
岩石を扱ってきたものとしては,普通のチャートや珪質頁岩だとそこらへんに
あってなんぼでも拾ってこれそうに思うのだが,そんなものでもないらしい.
少し検索してみると,佐藤興平(2005)砥沢の砥石:地質と歴史.群馬県立自然史
博物館研究報告,9,1-9 が出てきて,主に群馬県南牧村の砥沢の砥石のことが
書いてあるが,それを広い視野で位置付ける考察もされている.日本の砥石の産地,
岩石等がまとめられているが,群馬県砥沢の原岩は熱水変質を受けた鮮新世の
ひん岩とのこと.安山岩,凝灰岩,粘板岩,等,原岩は多様で,有名な京都市梅ケ畑の
ものは丹波帯の珪質頁岩.砥沢と京都の天然砥石の顕微鏡写真も出ているが,
石英の粒径は砥沢のものでは20ミクロン位で,京都のものは2-3ミクロンとのこと.
成因も風成塵,熱水変質,化石の変成等,いろいろ考えられるようだ.
京都亀山には天然砥石館という施設が3年前に作られており,伝統もあるようだ.
この付近は丹波帯の中・古生層.5万分の1の地質図福「京都西北部」(井本伸広他,
1989)の説明書を見ると応用地質の3項目で10行ほどの記述がある.この地域の
砥石は室町時代から採掘されているとのことで,丹波帯I型地層群の最下位の
砥石型珪質頁岩及びその上位の層状チャートに漸移する部分が採掘の対象と
されてきた,とある.
さらに検索してみると,三上禎次・向井健一・戸倉則正・井本伸廣(2002)丹波帯
層状チャートの石英結晶度,石英粒径およびコノドントカラーインデックスの関係に
ついて.地質雑,108,806-812というのがあり,粉末X線による結晶度,電顕で
エッチングした研磨表面の粒径測定,コノドントの色からその生成温度の推定,
をおこなっている.
この仕事は砥石を対象としたものではないけれど,その産地を含んでいる.
珪質頁岩の石英は元々Amorphousなシリカが低温変成で再結晶したものと捉え
られるようで,最高温度は5ミクロン径の石英を含み,コノドントの色から300℃
程度の見積もりがされている.ただ,有名な梅ケ畑等の砥石の産地は丹波帯Iで
石英の粒径は1ミクロン以下でより低温での再結晶であるようだ.
結局,目の玉が飛び出るような高価な砥石の記載岩石学的な必要条件というのは良く判らない.
Tさんによると水を吸わず懸濁液が適当な濃度で出る必要があるとのこと.まあ,素人がちょっと調べただけなので赤恥ものですが,記録として残しておきます.
ps 図書館で、井本・山嵜「京都府 謎解き散歩」を借りて見ると、第6章に、「京都の誇る合せ砥は水と火のはからい?」(井本)という項目があった。それによると、荒い砂粒が一粒でもあるとダメで、細粒、均質な石英で構成される必要があるとの事。新鮮な粘板岩はふつう灰色で硬すぎ砥石には向かない。良質の合わせ砥は黄褐色で水を含みやすい。砥粒が適度な大きさになるためには、粘板岩が熱によって焼かれることが欠かせない。水と火のはからいが、合わせ砥をはぐくんだものといえよう。石英以外の構成についての必要条件が少し気になるところ。