姫路の510さんから,扇ノ山の屏風岩溶岩のような末端でメチャ厚い溶岩流はどのように流れ下ったのかイメージできない,というメールを貰った.この溶岩流は長さ約10㎞,幅2㎞,厚さ最大400m?体積2㎞^3位ある大きいもので,噴出年代は1.14±0.04Ma (Furuyama et al., 1993 Earth Sci.)とされている.下の図の右上から左下に延びる尾根の部分の上部が屏風岩溶岩.尾根の下部は基盤岩.先端が二股に分かれている.SiO2=61wt% で斑晶に乏しい.(古山1984地質論)
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昔,鈴木隆介(1968)火山で,日本の溶岩等の火山地形原面の半減期は30万年程度であるということを書かれていたのを覚えているのだが,114万年ともなるとさすがに骨だけが残っていると考えたら良いのだろう.谷地形を溶岩流が埋めて両側に川が入って時間をかけて浸食して大半は削り取られて平坦面は上流部以外は残っていない.

ひと頃,溶岩流シミュレーションの論文を調べたことがあった( http://www.edu.kobe-u.ac.jp/fsci-volcano/hsato/LFS-comparison.pdf ).基本は末端崖の高さは溶岩の降伏強度(応力)Yiによって決まる.つまり,末端崖の高さをH,勾配をθ,溶岩の密度ρとすると Yi = ρgH sinθで決まる.屏風岩溶岩の末端は200m以上あり傾斜は45度程度,溶岩密度を2500㎏/m^3として求めると,3.5*10^6 Paとなり結構大きい.(厚さは残っているけど,傾斜は浸食されているので意味ないですね)

降伏強度は,例えば,Hulme (1974)はSiO2量との相関を示している.
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また,Ishihara et al. (1989)Proc.Volcan.では溶岩流のシミュレーションをするのに,降伏強度は温度の関数で与えている.粘性と同じ形の式.降伏強度は所謂ビンガム流体を仮定しているのだが,実際には降伏が始まる辺りの物質の挙動は十分に調べられていないように思う(知らないだけ).

イメージとしてはゆっくりマグマが大きな火道から上昇して流れ始め,時間をかけて(1~数年)10㎞を流れ下った.その間に雨や雪が降ったりして表面から冷えるだろうが,単純な熱伝導を考えると,平均熱拡散距離は1年で5m程度なので内部の流動性は保たれる.

この屏風岩溶岩流の西の末端南面に昔の採石場(段差なしの垂直50mで現在の法規ではマズイ)があり,そこでは水平の成層構造が認められるが,その具体的な岩石学は判らないものの,中心部が層流として流れた証拠にはなっている.
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厚い溶岩流で割と形が単純できれいに残っている例として男体山の御沢溶岩流があげられる.
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こちらは,約1.4万年前の噴出で地形は良く残っている(石崎他,2014,火山).体積は0.1㎞^3程度だろうか.組成は安山岩からデイサイト(SiO2=55-66wt%)と広い組成範囲を示す.先端で2つのローブに分かれているが,全体としては比較的単純な地形を呈しており,一回の比較的短時間(数か月?)の流出で生じたものだろう.末端崖の比高も50-80m程度であり,降伏強度も数10^5Pa程度.こちらは,珪長質なものは斑晶が55%に達しているので,全体の溶岩組成の分布が判らないとこの地形のシミュレーションによる理解は容易でない.溶岩流シミュレーションについては,安田他(2013)火山に手法やプログラムの紹介があるのだが,その後それを使った仕事が見られないのは残念ではある.御沢溶岩流の薄片写真⇒ https://blogs.yahoo.co.jp/hsato47/66796595.html

そういえば,こないだ水蒸気噴火があった,本白根山の殺生溶岩流も地形がきれいだった.残念ながら行った事がない.

厚い溶岩流といえば,九重山の黒岳溶岩は800m位の厚さがあるが,実際に行ってみたら,地形が複雑で一気に噴出したのではなく沢山のローブが時間をかけて出てきたような印象だった.その辺についてはFink and Griffiths(1998)JGRのΨによる分類というのが知られている.Ψというのは進行速度の時間スケールと冷却の時間スケールの比をとった無次元数で,Ψが大きな値をとる場合は単純な地形の溶岩流を生じ,Ψが小さな値をとる場合は複雑な多ローブの地形の溶岩流になる[下図).この論文は2005年頃Kobe大で卒論をやった立尾君が見つけて来てくれたもので,彼は樽前の溶岩ドームが大きなΨを持ったという議論をした.下の図で屏風岩溶岩を考えると,降伏強度は大きくて,Ψが大きいとすると,噴出率がかなり大きいということになる.

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例えば,屏風岩溶岩流の2㎞^3が,1年で噴出したとしたら,噴出率は約60m^3/sとなる.火山噴火様式を決めている要因として噴出率があるが,Kozono et al.(2013)BVの下図で見れば,一応爆発的噴火にならずに溶岩流出の様式の範疇に入ることが判る.
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今更ですが,カシミール3Dを今日初めて使ってみて,日本の火山を見ると,至る所,溶岩流の地形だらけでありました.