平成30年司法試験再現答案 刑事訴訟法 | 司法試験受験記録

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平成31年司法試験受験予定(3回目)。ロー卒。

設問1 捜査①について

1 捜査①は「強制の処分」(刑事訴訟法(以下略)197条1項但書)に当たらないか。

(1)現に法定された強制処分との対比から、強制処分は一定の重要な権利利益を実質的に制約する処分に限られるべきである。

   また、処分の相手方の承諾があるときは制約が観念できないから、相手方の明示又は黙示の意思に反することを前提とすべきである。

   そこで、「強制の処分」とは、処分の相手方の明示又は黙示の意思に反し、一定の重要な権利利益を実質的に制約する処分をいう。

(2)本件についてみると、撮影は甲に無断で行われているため、捜査①は甲の黙示の意思に反するといえる。

   しかし、甲の制約される利益は、公道上からみだりに容ぼうを撮影されない自由であるところ、公道上から見える範囲にいる者は常に他者からその容ぼうを観察されうるのであるから、要保護性は低い。また、撮影は20秒と短時間であり、制約の程度は弱い。

   したがって、重要な権利利益を実質的に制約するものではないため、捜査①は強制処分に当たらない。

2(1)そうだとしても、なんらかの法益を侵害し、又は侵害するおそれがあるのだから、捜査比例原則(197条1項本文)の下、必要性などを考慮したうえ、具体的状況下で相当と認められる限度でなければならない。

(2)本件についてみると、A工務店と名乗る男はVしか見ておらず、これと撮影の対象者たる中肉中背の男が同一人物であるかをVに確認するためには、撮影をする必要性は高い。

  一方、甲の被侵害利益は、公道上からみだりに撮影されない自由というプライバシーに対する期待が減退したものであり、撮影時間も20秒と短い。

  そうだとすれば、撮影の必要性の高さに比して、被侵害利益の制約は小さいため、捜査①を行うことは、具体的状況下に照らして相当といえる。

3 以上より、捜査①は任意捜査として適法である。

設問1 捜査②について

1 捜査②は「強制の処分」に当たるか。上述の基準に照らし判断する。

(1)撮影は甲に秘して行われているため、甲の黙示の意思に反するものであるといえる。

(2)甲の制約される利益は、事務所の内部を撮影されない自由である。

公道からでは事務所内部を見ることはできないのであるから、プライバシーに対する期待が減退しているとはいえない。また、向かい側のマンション2階通路からは、採光用の小窓を通して、ある程度、事務所内部を見通すことができたとしても、工具箱に貼られたステッカーまでをも観察されることは予定されていない。

そうだとすれば、この望遠レンズを用いた撮影は、事務所内部に立ち入って肉眼で工具箱を観察したのに等しく、甲の私的領域に侵入(憲法35条参照)したものといえる。  

したがって、5秒という短時間の撮影であったとしても許されるものではない。

2 以上より、捜査②は「強制の処分」に当たる。

そうだとすれば、捜査②は、五官の作用によって物の状態を認識する捜査たる検証といえるため、この捜査を行うには検証令状(218条1項)が必要である。

そして、捜査②は、検証令状なしに行っているため、令状主義に反し、違法である。

設問2小問1

1(1)供述証拠は、知覚・記憶・叙述という過程を経て生み出されるところ、各過程に誤りが入る危険があるにもかかわらず、公判廷外における原供述については、反対尋問、偽証罪の警告、供述態度の観察により、供述の信用性を吟味し、内容の真実性を担保することができない。それゆえ、伝聞証拠(①公判廷外の原供述を内容とする証拠であって、②原供述内容の真実性が問題となるもの)の証拠能力は原則として否定される(320条1項)。

なお、供述内容の真実性が問題となるかは、要証事実次第となるところ、当事者主義的訴訟構造の下、いかなる証拠でどのような立証を行うかは原則として当事者に委ねられているため、原則としては、当事者が示す立証趣旨に沿って要証事実が決定される。

(2)本件メモの立証趣旨は、甲がVに対しメモに記載された内容を申し向けたことであるところ、欺罔行為の内容を立証することには意味があるため、これがそのまま要証事実となる。

そして、欺罔行為の内容を立証するためには本件メモに記載された内容が真実でなければならない。

そこで、本件メモは内容の真実性が問題となるため伝聞証拠となり、原則として証拠能力は否定される。

2 そうだとしても、本件メモが321条1項3号の伝聞例外に該当し、例外的に証拠能力が認められないか。

(1)Vは脳梗塞で倒れ、今後Vの意識が回復する見込みはなく、仮に意識が回復したとしても、記憶障害が残り、取調べをすることは不可能とされているため、「身体の故障」により「公判準備又は公判期日において供述することができ」ないといえる。

(2)欺罔行為の具体的内容を示す証拠は本件メモ以外にないため、「犯罪事実の存否の証明に欠くことができない」ものといえる。

(3)Vは、本件メモ内容の文言を申し向けられた当日中に本件メモを作成しており、特信情況も認められる。

3 以上より、本件メモ証拠能力が認められる。

設問2小問2

1 立証趣旨は、甲がVから工事代金として100万円を受け取ったことであるところ、これを立証することには意味があるため、これがそのまま要証事実となる。

(1)そして、領収書の存在それ自体を立証すれば、甲の指紋と甲の印影が検出された領収書がVに交付され所持していた事実と相まって、甲がVから工事代金として100万円を受け取ったことが推認できるため、内容の真実性は問題とならない。

   したがって、この場合、本件領収書は非伝聞であり証拠能力を有する。

(2)他方、領収書に記載された内容通りの事実があったことから、甲がVから工事代金として100万円を受け取ったことを推認する場合は、内容の真実性が問題となるため、伝聞証拠となる。

   そして、伝聞例外は認められないから、証拠能力は否定される。

 

以上(2419文字)

 

 

【雑感】

・最後は時間が足らなくなり、323条3号に触れずに証拠能力を否定したが、

 あとになってみれば仮に323条に当たらなくても、322条も検討すべきだったか…

・そして、「立証上の使用方法を複数想定」というのは、

 書証のほか物証として使うことを想定すべきだったのか…

・刑訴は1つのミスが大きく響きそうだし、どのくらいの評価になるかは全く読めない

 
 
 

※本記事(平成30年司法試験再現答案 刑事訴訟法)について

…問題文と答案構成用紙のみを参照し、ミス等も含めて本番で書いた答案をできるだけ忠実に再現したものであり、内容や形式面の正確性は一切担保できません。