「大変だ」と言う人がいる。

「お前だけじゃない」と思う。

 

今、厳しくない人がいるのだろうか。

苦しんでいない商売があるのだろうか。

なかにはあるのだろうな。

それはそれでいい。

 

声を出している人間だけが大変なわけではない。

絶叫マシンは、本当に苦しいとき、声も出せない。

声の大きさが大変さの度合いではないのだ。

 

多くの人は苦しいながらも、平気な顔で、

目の前のことをたんたんとやっているはずだ。

 

笑っている人が楽しいとは限らない。

ほんとうのことはわからないのだ。

 

だから私は、自分だけが大変だ、苦しい、忙しいとかいい、

口に出す人間が好きではない。お前だけじゃないんだよ。

 

そしてこのようなことを書いてしまう自分がもっと好きではない。

気をつけろよ。

 

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人は誰だって外からはうかがい知れない、その人なりの事情を抱えながら、

それでも平然として生きている。

========<伊集院静『無頼のススメ』>