健康である限りわれわれの食物はわれわれが選べばよいが、
病気のときは医者の薬も必要かもしれない。
しかし薬などのまずになおる人もあり薬をのんでも死ぬ人もある。
書物についても同じことがいわれはしないか。
============<寺田寅彦『読書と人生』>
「小説というのは、理不尽なことに悲しんでいる人に寄り添うものなんだよ」
と伊集院静さんが言っていたらしい。
書物というのは、弱きもののためにあるのかもしれない。
であるならば、書物を必要としなくなったなら、
そういう自分を疑ったほうがいい。
調子のよいときに、人は本を必要としない。
うまくいかないときに、うまくいく方法はないかと本を探す。
本は薬ではない。サプリでもない。
自分の調子に関係なく接種するものだ。
調子が悪くなったと思ったときに、
書物に頼っても、時はすでに遅いのだ。
常に弱い自分を自覚しながら、書物に向き合っていくのがいいのだろう。