引き続き、少し具体論に入っていきたい。

前回も触れたとおり、日本の総人口の減少に伴い、労働人口も2005年をピークに減り始めている。労働人口×一人当たりの給与所得の積は内需にも非常に強く影響する為、一人当たりの給与所得が急激に伸びない限り、当然、内需は落ちていく一方である。ではこの環境下、我々企業は持続成長や事業運営の為の人材を確保するために、何をすべきか?大きく分けると以下3つである。
 ① 競争に打ち勝てる(事業競合だけでなく人材採用競合も)採用競争優位性を構築する
 ② 獲得競争が激しくない(供給絶対数が多い)ターゲット層を探す
 ③ 人材採用競争をしなくてもよい(人材を必要としない)ビジネスモデルを構築する


①は会社や商品・サービスのブランド、雇用条件、労働環境、採用ノウハウなどの向上で
ある。ここは非常にわかりやすく、かつ即効性が高い。別の回に詳しくご紹介したい。③は採用をしないモデルの構築なので、割愛させていただく。本稿で一番申し上げたいのは、②獲得競争が激しくない(供給絶対数が多い)ターゲット層についてである。

では、今後の人材採用における『供給絶対数が多いターゲット層』とは何か。それは、前回紹介した人口ピラミッドや、図1「年齢階層別 労働力人口と非労働力人口」から見出すことができる。
 ・ 女性
 ・ 高齢者(年配者)
 ・ 外国人
 ・ ダブルワーク


$マーケティング視点で考える人材採用 ・ 採用は「農業」「狩猟」「漁業」


まず一つ目の「女性」は、図1をご覧いただくとわかるが、「労働人口が減少していて足りない」という割には、15歳以上65歳までの非労働者が約1500万人超存在する事実がある。これは、一部若年層は学生も含まれるが、主には給与所得のない専業主婦と、給与所得はあるが扶養控除の範囲内で働く方が大多数。この約1500万人にいかに働いてもらうか、つまり、「非労働者の方々を戦力として活用できる事業や職場、採用手法を構築すること」が、この環境下で我々企業が人材を確保するためにすべきことの第一番目である。生命保険会社の営業職、ヤクルトスタッフ、地域販促情報誌ホットペッパーの営業職などもこのターゲットを活用している実例である。



二つ目の「高齢者(年配者)」も言われて久しいが、図1や図2 「労働力人口の推移と見通し」をご覧いただくと改めて必要性と有効性を再認識していただけるであろう。医療の発達もあるが、現在の60代、70代はまだまだ現役である。伝統的にはタクシードライバーや専門職などにおいてご年配が見られたが、最近では接客・販売などの以前なら比較的若年層が多かった職種での活用が顕著である。海外に旅行される方は、かなり以前から、年配男性がスチュワートとして接客する航空機に乗り合わせたことがあるのではないだろうか。これからの採用担当者には、「この仕事はこういう年齢・性別の人がやるもの」という固定概念を取っ払うところがスタートである。また、年配の方と働くにあたって大事なのは、就業に対する理由付け(動機設定)を本音ベースで行うことである。ご年配の方にとっては、給与などの金銭報酬的な労働条件だけでなく、非金銭報酬[例えば、”地域の役に立つ”や”自分の経験が活かせる””寂しさを紛らわすコミュニティに参加できる””出会いがある”]が働く価値として非常に大きなウエイトを占める。採用担当者は少なからず対応が必要だろう。



三つ目の「外国人」の活用については、欧米の労働市場で先に例がある。法律や治安の問題はあるものの、現実的にはこの動きは加速すると思われる。古くは製造・建設現場などにおいて多くの外国人が活用されてきたが、最近では医療・介護職の他、都心の深夜帯のコンビニではむしろ日本人スタッフのほうが少ないくらい、外国人が働いている。さらに、ITや金融において既に散見されるが、今後は高付加価値なホワイトカラーや技術職や専門職にも増加するであろう。外国人の採用(人材活用)のポイントは5つ。

1. 採用、特に選考ノウハウ :次項と関係するが、日本人と同じ選考だと採用ミスが起こりやすい。
2. 民族多様性の理解 :職場や食事、生活環境や休日に関する考え方の違いを相互に理解する必要がある。全てを合わせる必要は無いが、相互理解がないとかなり深い問題となる。
3. 評価、昇降給 :これも民族多様性と関係するが、終身雇用・年功序列、”あうんの呼吸”といった評価は、納得感が薄い。具体的な行動や数字(プロセス数値も可)など、目に見える成果での評価体系が非常に有効である。
4. キャリアパス :プレイヤーとしてのスペシャリストになるのか、マネジメントを任せるのか、帰国することが前提なのか。もちろんケースバイケースではあるが、ある程度最初に決めておくことが重要。海外現地法人をもつ大手製造業の多くは、まず日本国内において外国人管理者を中期スパンで教育し、その後現地で活用することに成功している。
5. 経歴調査 :個人情報を含むので取り扱いに細心の注意を払わねばならないが、非常に大事である。



四つ目の「ダブルワーク」は、これからの働き方である。これまでのダブルワークや副業的なものではなく、ウィキペディアやLINUXなどに代表される、細切れの時間やプライベートの時間などで非常に付加価値の高い仕事をしてもらい、その成果の「ナレッジ」を価値に変えていく仕組みや事業、商品・サービスである。広義では休日を中心としたNPOや社会活動もこれにあたる。ダブルワークの主なポイントは、3点。

1. 金銭的報酬を発生させるか否か(無ければ、「名誉」等も含めた非金銭報酬の有無)
2. 情報のオープン化を許容できるかどうか
3. メイン所属している組織の許諾

IT産業に限らず、サービス業のバックオフィスや教育などでも活用が増えていくであろう。例えば、様々なサービス業で行われているお客様アンケートや苦情窓口も、教育をお客様に一部アウトソーシングしていると捉えている企業は、非常に高い成果をあげている。



以上、遠くない将来の変化が著しい人口動態からみる採用マーケティング考察である。ちなみに、この不況下で好業績のマクドナルドの店舗では、先述の「女性」、「高齢者」、「外国人」の活用が盛んであるのは、ご存知のとおりである。

$マーケティング視点で考える人材採用 ・ 採用は「農業」「狩猟」「漁業」
「人口構造の推移は事業を行う上での基礎や前提となる」。

かの著名な経営学者 P.F.ドラッカー氏は、著書の中で複数回にわたって同義のことを論じておられる。90年代に書かれた「ネクスト・ソサエティー」等の著書の中でも、来るべき高齢化社会や若年人口減少の中での高付加価値若年労働者のリクルーティングの難しさについて触れている。

既知の方も多いと思うが、改めて国内の現実に目を向けてみたい。
人口問題研究所のHPに、昭和初期1930年から2055年、今から40年数年先までの日本の人口ピラミッドの推移が掲載されているので、ご覧いただきたい。拡大してよく眺めると、以下3つに強い危機感を覚える。

1. 総面積=総人口の明らかな減少とそのスピード
2. 特に若年層の激減
3. ピラミッド底辺(裾)にあたる、出生児=0歳人口の減少

昭和の戦後、第一次ベビーブームに生まれた 団塊の世代は、一学年200数人もの“すし詰学級”だった。そのジュニア世代と言われる1970年代前中盤に生まれた世代の全国出生数は、200万人超。ここ数年は110万人を割り込んでおり、推計によると将来は50万人を割り込む見込みである。

もちろん、永遠の人口拡大と経済成長のみが是ということでは無いが、この急激な変化は、労働市場のみならず社会全体に与える影響が非常に大きい。マクロ、ミクロ両面で様々な変化が起こる。採用マーケティングを考える小欄では、この事実が採用マーケティングにもたらす影響を考察していきたい。(次回へつづく)

$マーケティング視点で考える人材採用 ・ 採用は「農業」「狩猟」「漁業」
$マーケティング視点で考える人材採用 ・ 採用は「農業」「狩猟」「漁業」
「はじめに」の冒頭でも触れたが、経営者もしくは人事の方が異口同音に仰るのは『いい人が採用できれば事業は成長する』ということである。
さて、ここで言われる【いい人】について今回は述べていきたい。
確かに【いい人】は欲しい。また【いい人】が採用できれば事業は前に進む。
しかしながらこの【いい人】は少し曲者である。なぜならもうお気付きのとおり、【いい人】の定義、基準が人や会社によって千差万別だからである。当然のことながら業種や職種が違えばそれは別のものであるのは明白だが、同じ規模の同じ業種の同じ職種でも【いい人】の定義はかなり違う。

2000年代前半、本田技研工業株式会社の若手人事担当は、技術職の採用において、トヨタ自動車株式会社は採用競合では無いと断言した。彼曰く、「なぜならホンダは本田宗一郎を教祖とし、ホンダフィロソフィをバイブルとする宗教集団だから。たまたま現在は二輪車・四輪車・汎用製品(船外機、発電機、芝刈り機、汎用エンジン、耕うん機など)の開発、製造、販売を主力事業としているが、将来は分からない。一方、トヨタ自動車さんは世界に冠たる自動車メーカーである」と言う。なので、当時の四輪技術者募集において、トヨタ出身者からの応募を受け付けないわけではないが、メインターゲットではないという。

要約すると、ホンダで【いい人】はトヨタでは【いい人】では無い。つまり求めるスキルや知識は近しいが、組織文化や価値観、戦略が違うので【いい人】も異なるという事だ。確かにホンダでは、「小説 本田技研」なるノンフィクション小説が作られており、ルールを無視したり組織を飛び越えて行った開発秘話が、まるでドキュメンタリー番組のごとく紹介されている。現在も社内で読み交わされているとは、まるで奨励しているかのようだ。

当時のホンダといえば、今ほどハイブリッドカーはブレークしていなかったが、バイオエタノール対応車や電気自動車、水素自動車をはじめ飛行機や耕うん機など、次世代事業を複数準備している最中であった。そのような状況下で、(あえて表現するが)四輪だけのエンジニアで志向や価値観が合わない人材は、今後のホンダでは厳しいと判断したのかもしれない。

これは一例ではあるが、自社や自部門にとっての【いい人】は誰なのか?どんな人なのかは、可変の部分も不変の部分もあるであろう。採用に取り組む上で、ぜひ自社の経営陣や現場とディスカッションしたいテーマである。

マーケティング視点で考える人材採用 ・ 採用は「農業」「狩猟」「漁業」-discussion
当社は創業以来、1000社を超える企業経営者の方や人事の方々とお付き合いをしてきた。その中でほとんどの経営者が、「人材採用」は「生産活動」であると認識されている。にも関わらず、採用を担当する部署は管理部門に属しているケースが多く、組織運営上コストセンター(CC)の中に置かれている。会計上もCCとして扱われるケースがほとんどで、採用に使用するお金の大半は、会計上、投資でなくコスト(費用)として処理されている(一部、採用HP等を資産として計上する場合もある)。

ここで、実際に採用部門をプロフィットセンター(PC)としている実例をご紹介しよう。今から10年程前の話だが、某企業の人材開発部(人事の採用が主な役割の部署)が社内においてPCとして位置付けられていた。その部には全社から営業の選りすぐりが集められ、役員クラスの最終面接を通過(合格)する品質を担保に、何人採用するかで評価(昇給、賞与)の大半が行われる。社内会計上では、採用した人材が現場へ配属されると、現場から採用費として一人当たり数百万円が売上計上される。
これは極端な例ではあるが、その後の市場でのこの企業に対する高評価や、数多くの出身者の活躍を見れば、この運営には一定の成果があったと言えるであろう。採用部門をPCと位置付けて成功した典型である。


一概に人材採用は生産活動であると言っても、実に様々なケースや手段方法論が存在する。そんな中、経営者や人事の方との意思疎通を円滑にするのにうってつけの比喩表現がある。それが、題にある「農業」「狩猟」「漁業」である。

例えば、同業他社からのヘッドハンティングを「狩猟」に例えるケース。
ある大手製造業技術職の中途採用。若干業績が良くない競合他社の同職種を採用ターゲットとして、彼らが多く所属する事業所の沿線に、電車中吊り広告、駅看板、ビラ配りを集中的に実施。並行して、近隣での個別会社説明会やヘッドハンターによる面談敢行。これはまさしく「狩猟」である。

また、新卒採用において、長年、欲しい分野の研究を行う大学院の研究室に研究費の支援を行ったり、共同研究などを通して実際の仕事現場で交流したり、その会社で働く人や姿勢、情熱などに触れることで採用に至るケースがある。これを例えるなら、畑を耕し種を蒔き、水や肥料を遣り、芽が出て実がなり収穫する「農業」に似ている。

また、一般的な中途採用などの場合は「漁業」が例えやすい。
まず欲しい人材を魚に例えて、どんな魚が欲しいか?(求める人物像の明確化)、どこにいるのか?(ターゲットの明確化)、どんな季節にどんな活動をしているか?、どこにどんな釣り道具と餌と仕掛けで釣りにいくのか?(採用手法の企画、具体化)、、、

* 山中の釣堀で天然の鯛を釣ろうと投網を掛けたり
* べた凪の瀬戸内海で本マグロを釣ろうと手釣りで糸を垂れたり
* 琵琶湖でワカサギを釣ろうと、大きな銛を構えたり

上記は皆さんには非常に滑稽な姿に映ったり、それでは欲しい魚は連れないよと思わずアドバイスしたくなるが、実際にはこのような不適切な採用活動を行う会社は少なくない。もう欲しい魚は泳いでいない生簀(いけす)に案内し、高い料金で高機能な釣竿を提供する人材採用支援会社や求人媒体の営業が存在するのも事実である。
当社は「漁業」で言えば、ある意味「釣りの船頭」と「魚群探知機」の役割を果たす。欲しい魚が釣れる季節と場所、釣れる仕掛けや餌、糸を垂れる深さなどをアドバイスする。もちろん百発百中ではないが、素手で望むのとでは「釣果」に格段の違いが出る。

大事なのは、人材採用を行う時にその採用はどんな生産(農業か狩猟か漁業か)なのか、それにはどんな準備とステップが必要か、を明確にすることである。これは遠回りのようで、かなりの近道となることをお伝えしたい。

マーケティング視点で考える人材採用 ・ 採用は「農業」「狩猟」「漁業」-compus
企業や組織における人材採用は、古くは「三顧の礼」「隗より始めよ」といった言葉にあるように、有史以来、人間社会における組織の発達とともに研究され試行錯誤されてきました。組織の発達過程において、人材採用が組織の生産性に非常に重要な影響を与えることは言われて久しいですが、「これを行えば間違いない」「これが正解」といういわゆるBEST PRACTICEは未だ確立されていません。これは「採用ノウハウ」というものが発展途上であり未熟であるという側面もありますが、確立されていない一番の理由は『人間』と『社会』自体が発展途上にあるからです。その中において、組織における人材採用(≒個人にとっての所属組織の選択)は“答え”の無い永遠のテーマであり、言い換えるなら、「人材採用が何たるか」の追究はゴールの無いマラソンのようなものです。

HRSは、常にそんなレースの先頭を走っていたいと考える会社です。その時代や環境、エリア、業種・職種でのベストな手法を開発、実践、検証し、少しでもこの世の中で目標達成、目的実現を果たす組織の一助になることを切望しています。

このコラムでは、組織が目標・目的の達成や戦略の実行において必要な人材を採用する為の、ノウハウや事例、気付きなどを発信します。題にあるように、人材採用を農業、狩猟、漁業などに例えながら、あくまでも人材採用は組織において「生産活動」であるということを前提に展開してゆきます。