当社は創業以来、1000社を超える企業経営者の方や人事の方々とお付き合いをしてきた。その中でほとんどの経営者が、「人材採用」は「生産活動」であると認識されている。にも関わらず、採用を担当する部署は管理部門に属しているケースが多く、組織運営上コストセンター(CC)の中に置かれている。会計上もCCとして扱われるケースがほとんどで、採用に使用するお金の大半は、会計上、投資でなくコスト(費用)として処理されている(一部、採用HP等を資産として計上する場合もある)。

ここで、実際に採用部門をプロフィットセンター(PC)としている実例をご紹介しよう。今から10年程前の話だが、某企業の人材開発部(人事の採用が主な役割の部署)が社内においてPCとして位置付けられていた。その部には全社から営業の選りすぐりが集められ、役員クラスの最終面接を通過(合格)する品質を担保に、何人採用するかで評価(昇給、賞与)の大半が行われる。社内会計上では、採用した人材が現場へ配属されると、現場から採用費として一人当たり数百万円が売上計上される。
これは極端な例ではあるが、その後の市場でのこの企業に対する高評価や、数多くの出身者の活躍を見れば、この運営には一定の成果があったと言えるであろう。採用部門をPCと位置付けて成功した典型である。


一概に人材採用は生産活動であると言っても、実に様々なケースや手段方法論が存在する。そんな中、経営者や人事の方との意思疎通を円滑にするのにうってつけの比喩表現がある。それが、題にある「農業」「狩猟」「漁業」である。

例えば、同業他社からのヘッドハンティングを「狩猟」に例えるケース。
ある大手製造業技術職の中途採用。若干業績が良くない競合他社の同職種を採用ターゲットとして、彼らが多く所属する事業所の沿線に、電車中吊り広告、駅看板、ビラ配りを集中的に実施。並行して、近隣での個別会社説明会やヘッドハンターによる面談敢行。これはまさしく「狩猟」である。

また、新卒採用において、長年、欲しい分野の研究を行う大学院の研究室に研究費の支援を行ったり、共同研究などを通して実際の仕事現場で交流したり、その会社で働く人や姿勢、情熱などに触れることで採用に至るケースがある。これを例えるなら、畑を耕し種を蒔き、水や肥料を遣り、芽が出て実がなり収穫する「農業」に似ている。

また、一般的な中途採用などの場合は「漁業」が例えやすい。
まず欲しい人材を魚に例えて、どんな魚が欲しいか?(求める人物像の明確化)、どこにいるのか?(ターゲットの明確化)、どんな季節にどんな活動をしているか?、どこにどんな釣り道具と餌と仕掛けで釣りにいくのか?(採用手法の企画、具体化)、、、

* 山中の釣堀で天然の鯛を釣ろうと投網を掛けたり
* べた凪の瀬戸内海で本マグロを釣ろうと手釣りで糸を垂れたり
* 琵琶湖でワカサギを釣ろうと、大きな銛を構えたり

上記は皆さんには非常に滑稽な姿に映ったり、それでは欲しい魚は連れないよと思わずアドバイスしたくなるが、実際にはこのような不適切な採用活動を行う会社は少なくない。もう欲しい魚は泳いでいない生簀(いけす)に案内し、高い料金で高機能な釣竿を提供する人材採用支援会社や求人媒体の営業が存在するのも事実である。
当社は「漁業」で言えば、ある意味「釣りの船頭」と「魚群探知機」の役割を果たす。欲しい魚が釣れる季節と場所、釣れる仕掛けや餌、糸を垂れる深さなどをアドバイスする。もちろん百発百中ではないが、素手で望むのとでは「釣果」に格段の違いが出る。

大事なのは、人材採用を行う時にその採用はどんな生産(農業か狩猟か漁業か)なのか、それにはどんな準備とステップが必要か、を明確にすることである。これは遠回りのようで、かなりの近道となることをお伝えしたい。

マーケティング視点で考える人材採用 ・ 採用は「農業」「狩猟」「漁業」-compus