海鳴りを遠く聞いている。
なにか恐ろしいものが近づいている。
恐ろしい<祭り>のようなものが。
生贄を屠(ほふ)る供儀の祭礼の如きものが。
旱魃飢饉の際、雨乞いはしたろうが、
風を乞うことは、今だかつてなかっただろう。
風は要らん、のか?
民俗の中で、風を乞う歌はなかったのだろうか?
その歌は、どこかに埋もれているんではなかろうか。
♪なんとか颪(おろし)が吹かないことにゃ、
今年の米はダメだぎゃー、なんて歌がね。
大洪水はエジプトを沃野に変えた。
風は継子(ままこ)。シンデレラみたいに。
海は富を伝来させたのに、
幸せを運ぶツバメは偏西風に乗って来たのに。
風の文化は、なじみが薄い。
せいぜいオランダの風車ぐらい。
風の文化を誰か発掘してくれないものか。
『風の又三郎』は風来の伝道師ではなかったか。
雨漏りだらけのわが陋屋は、風前の灯火(ともしび)である。
これが最後の便りとならないことを祈る。
瓦が吹っ飛んでしまいませんように。
命あらば、また他日。