不況です。
皆さまは如何お暮らしでしょうか。
広大な敷地に、これまた豪壮な邸宅をぶっ建て、
休日にはジャグゥアーを乗り回すというリッチな生活をしている
私ですが、近ごろ、ないんです。アレが。
お金が。
これも、やっぱり世間で言う不況のせいでしょうか。
私はアイボと遊びながら、そう言えば、
「たまにゃ、エビスビールを飲みてえよなー」と愚痴が出るわけだ。
不況って、人の家にまで入ってくるんだよねえ。
厚かましいよねえ。
毎日納豆じゃ、栄養バランスが取れないよ、母ちゃん。
で す が
経済発展、景気の良さ、ちゅうものに果てしれず悪意を燃やす家人
は、レース編みのカギ針を動かしながら、言うのです。
「不況って、いいわねえ、静かで。」
「そうだねえ・・・」って、こらこらこら。
中高年の自殺者が急増している昨今に、
何という不謹慎なことを言うんだよ!
「バブルの崩壊、が良かったのよね。
モノをどんどん作って、どんどん売って、どんどん消費するのが
良いこと、なんて、最悪の経済学よ」と申します。
「どーすんだよ、ウチのローンは?」と私。
「売れない時代はとりあえず人減らし、が企業の生き残り策NO.1
だよ。俺の会社だって危ないんだぜ。昨日も『下馬村クン、自由っ
ていいよねえ、欲しくない?』なんて部長に言われたよ。
死んでから存分に、って答えといたけどね。
2年前(97年)、山一證券や北海道拓殖銀行の破産から金融不安が
始まったよな。ワシら預金残高マイナスだし、株もやるわけじゃな
いけど、問題は始まったばかりだ。
モノを買わない→生産・設備投資・研究開発費縮小→雇用縮小→輸入
縮小→輸出国景気減速→輸出国A景気不安から政情不安へ→隣国
Bに飛び火し内乱→スパイラルを描いて世界大恐慌へ。エドガー・
ランポーの『大渦巻』だ。」
「あんた、いつから憂国の志士になったのよ。
ローンなんか踏み倒しゃいいでしょうが。
わたしは、これでやっと世の中が静かになるかなって、歓迎だね。」
「そんな乱暴な。」
「政府は財政建て直しより景気回復の予算にシフトしてるでしょ。
でもあれぐらいの減税規模で消費が拡大すると思ってたら大間違い
よ。所得税減税だ、いや公共投資だ、消費税を下げようか、不良債
権が諸悪の根源だ、とか、上の人はガヤガヤやってるけど、効果な
いね。
だいたい、消費者を舐めてるわよ。
いい?
現在に消費停滞は、決して消費税が5%になったとか、医療費の負
担が増えたとか、金融不安とかが主原因じゃあないの。
国家財政の赤字に脅かされながら買いあさることはできないという
こと、未来に不安を残して現金を消費に回すことはできないという
こと、これって、ひょっとしたら実は国民経済としては既に破綻し
ていることじゃない?
それと、消費は環境に対する打撃(インパクト)が大きいことを
消費者が感じ取っていること、本当のことを言ったらこれが基本的
な要因なのよ。そのスジの人は、所得が減っているからだとかなん
だとか言いたがっているけどさ、大嘘よ。
消費者はそこまで成熟したってことよね。
消費者が消費を抑えたから不況になった。それはある面当たってま
す。でも、問題は、なのになお生産しかつ消費しないと維持できな
い社会って何?ってことじゃあないの。
生産(者)側と消費(者)側が対立しながら均衡・発展してきたとい
う図式は、ここにきてド旧くなってんじゃないの。」
「なるほど。それは<大>問題だね。
でも、経済の問題はそこで終わりじゃないんだよ。
これは俺の勘なんだけど、つまりうまく説明ができないんだけど、
それは滅びの道だな。
人間は、と言うより生命というものは自転車操業と同じだ。
前進しなければ倒れる。
自転車ってのは、お前さん、馬鹿にしてはいけませんよ。
人間を人間たらしめているのは、二足歩行や火と言葉だと言います
けどね、近代を作ったのは、実は自転車なのです。
自転車こそ人間だ、と私は声を大にして言いたい!
・・・(笑い取れない)
でだなあ、地球温暖化や酸性雨、環境ホルモンなどの環境汚染、
砂漠化や表土流出、エネルギー問題に伴ういまだ実験段階の原子力
利用、人口爆発に伴う食糧問題、等々、可及的速やかに解決すべき
課題があるだろ。
これらは、経済システム上で解決して行かなくちゃいけない課題な
んだよ。経済発展を減速すればいいという問題じゃない。それは
解決を先送りするだけだよ。
つまり、コスト的、経済的にペイできる解決策を考えなくちゃ。
例えば、ゴミ問題、ゴミの生産を少なくすればいいという考え方じゃ
解決できゃしない。リサイクルできない原子力発電を必要とする
過剰消費の経済システムをマイナスのベクトルでこしらえ直すか?
そうじゃない。それじゃ間に合わないんだよ。
風上の某国は今膨大な酸性雨の元を大気中に排出してるよねえ。
このまま行ったらあと10年で日本の湖や森は死んでしまうはずだけ
ど、彼らに”経済発展をスローダウンせよ”って言える?
としたら、”これからは公害に対して世界からNOと言われます、
わが社の公害防止プラントをお使いください。これで御社は安泰
間違いなし”という新しい産業として輸出する、この方策しか採れ
ないんじゃないか。
割り箸や牛乳パックは森林資源の浪費だという運動があったけど、
倫理観をくすぐっただけに終わったろう?
大体やねえ、自称エコロジストはな、
ファンタでこんなに染まっちゃうのよ!
きゃー、ファンタって、コワイー、
なんて言いやがってさ、
紅茶で布染めて、きゃー、カワイー、ってやがんだよ。
これだけは言っておくけどね、経済の論理(システム)の乗れないの
は、実効性ゼロ、ということなんだ。
悔しい、と思うかもしれない、けれど、決定要因はこれなんだね。
たしかにな、廃棄物のことまで考えられない実験段階にある原子力
を実用に供するなんざあ、地球全体を生体実験すると同じだ、とは
言えるかもしれないけどね。
人間てのは、業が深えんだよ。ふ。」
「なにのんきな事を言ってるのよ。
現代の資本の自然的動向に任すべきで、それは破滅を回避する道を
取るはずだというお考えね。人間はむざむざと自滅するはずはない、
って訳よね。しかも、”景気”はプラスの方向でねえ。ずいぶん楽
天的なんだ。
というより、<敗北主義>と言う方が正確よね。
歴史を決定する人間の意志の力を信じられない、のよ。
資本は既に世界規模のレベルで行動しているわね。市場は世界の至
る所、って訳。あたしに言わせりゃ十字軍と同じよ。キリスト教の
ない所にキリスト教を輸出しまくって世界中をキリスト教の論理を
通用するようにしたいのよ。余計な節介だっての。
資本主義は生命のヴァリエーションを踏み倒し、貪り尽くすまで
止まんないのよねえ。
とにかくね、あたしは、おっしゃるような、必死こいて走り回って
いないと死んじゃうみたいな、腰の据わる暇のないような自転車操
業生活はイヤなの! しかもよ、こいでいるご本人はどっちへ
向かっているのか皆目ご存じない、ときている。ともかく走ってい
ることに意義があるんで、何処に向かおうが、知ったことではない
のよ。ハメルーンの鼠とおんなじよね。
万物の霊長が聞いて呆れるわよ。」
「人間はそう簡単に没落しないよ。
それにね、未来の課題を解決するには、目下の課題が解決されるこ
とが条件だよ。目下は、社会不安の火種=不況を消火することだ。
それが先決だな。
空想エコロジストのユートピア幻想では効力を持たない。」
「あれ、れ~?
政治権力の無化とかおっしゃっていた自称アナキストにしては
ずいぶん腰抜けな現実追認主義だこと。
目下の課題と言ったらねえ、システムの変容なの。生産力を増大す
ることでしか<進歩>の確認が出来なかった石器時代以来の進歩主
義からパラダイムシフトしなくちゃいけないのよ。限りある地球資
源と、DNA資源よ。危機意識が根本的に希薄なんじゃないの?
危機管理弱小国=日本、なんて外国に言われてオタオタしてるけど
さ、もっと重要な危機管理が全く出来ていないのよね。」
「ぱらだいむ・しふと、だあ~? なんじゃ、そりゃ。
パラダイス・キングなら知っとるが。
だからさあ、野党的空論を費やしてもコトは始まらないないちゅう
のよ、俺は。解決可能領域を拡大しうる政策を今すぐ立案すべきだ、
ちゅうの。あなたの言っているのはね、消費&経済『倫理』であっ
て、経済のシステムとして実行可能な施策ではないのよ。」
「あー、やだやだ。
鼻毛抜きながら政策とやらをでっち上げている小役人みたい。
実行可能性?そんな屁っぴり腰じゃあ、■■はできませんよねえ。
あたしは、中軸に据えるべき理念とは何か?ってことを言ってるの。
持って回った、すれからしの、テクニカルな、議論百出の、
そのうち何がなにやらわからなくなるような、『実現可能性』を
こねくり回すのなんて、真っ平なの。
今、何をするべきか? 生産と消費をもろともに削減すること、
モノが溢れかえることでしか回転しなかった生産システムを転換す
ること、つまり、富の分配様式を再構築すること、これでしょ?」
「貧しい食事を分け合って、てか? やだねえ、■■■は。
長期的には、そうでしょう。でも、目下の課題に対しては、念仏だ。
一方では念仏を称える奴、他方では餓死者が累々、
てな中世みたいな時代にならねばいいがね。」
「念仏、ですって? あんたの耳は馬の耳なのよ。
子供たちはキレかかっているけど、人類の歴史もキレかかっている
のよ。膨れ上がった腹で足元が見えなくなってしまっているんだ。
どうして人間のことばかりしか考えられないの?
それだから、人間は地球のガン細胞だなんて言われるのよ。
馬の耳どころじゃないね、ゾウリ虫だね。
触手にさわった物をむさぼり食って、ただうごめいているだけ。」
「おいおい、人間の尊厳を賭けて言うけど、問題は目の前の課題を
解決することだろうが。■■■■だって言ってんだよう。
俺はね、現在の不況が解決できなけりゃ、何を言ったって未来は
開けて行かないっつってんだよ。
社会がボロボロになるのを傍観してればいいのか、え、おい?」
「ふん。
不況だ不況だって大騒ぎしてますがね、あなたは大事なことが抜け
てます。不況は経済活動の一つの結果よね。論理学的に言ったらよ、
それは『解』ということよね。だったら、不況が解決だ、っちゅう
ことじゃないの。
なにを慌てふためいているのよ。見苦しい。
新しいページの夜明けがこのカタチだってことじゃないの。
いい加減に観念したらどうなのよ。
自覚なき進歩主義者は自滅へと急ぐ。
まったく、男ってアホですねえ。
企業が生命線維持のためリストラ策を取るのは、いわばオートマチ
ックでしょ。一生懸命生産性を上げて、あげく余剰人員として失職
する。ワリが合わない話よね。
ワーカー・ホリックと言われるほど働いて、その富が生活にまわら
ないで、どこぞに集積して、そのまんま目減りした、ってことよね。
日本人って、あわれよねえ。
生産=労働システムが、そもそもおかしい、と考えたことはないの?
経済政策の失敗をみんな言い上げてるけどさ、本気で言ってんの?
政府ごときのレベルでなく、日本人の富の運用がダメなの。」
「ふん、だぁ~? てやんでえ、ベラボウめ。
そんな七面倒くさいことを考えながら働けるかよ。
何のために俺が一生懸命働いているんだと思っているんだ!
俺たちの労働自体がバカだった、とオメエは言いたいのか?
え、こら!」
「おバカさん。大体ねえ、生命史にとって人間てのは鬼っ子なのよ。
それに気が付かない人間の精神は地獄の釜へまっしぐらね。
死ぬまで能天気してるしかないね。お気の毒だけど。」
「待て待て、待て~っ、ちょっと待っつくれよ。
話を元に戻すぜ。経済不安というのはな、とりもなおさず民情不安
だ。つまり、明日の糧食の不安だ。銀行も必死、金貸さない、社長
街金に走る、物売れない、デフレ圧力でコスト回収できない、金策
絶える、社長失踪、社員首切り、部長首吊り、
娘はブスでファッションヘルスにも売れない、
お父さんローソンに強盗に行くもドアに頭ぶつけて救急車で入院、
母ちゃんがせっかく作ったカレーは食卓でむなしく冷える、
ヒ素入りだけど。
息子グレて単車盗んで青い鳥を探しに走る、ところがかわいそうに、
ガソリン代がない。
自転車に乗り換えるが、青い鳥さん自転車より速いときている。
な、完全失業率5%といえば、20件に1軒はこういうことになる。
なるんだよ!」
「たいへんねえ。」
「た・い・へ・ん、なんだよ~っ!バガヤロー(--#)!」
「ま、明日になったら笑い話になってるって。」
「なるかよー。
だいたいなあ、おめえさんが調子に乗って、7000万の家なんぞ建て
るからいけねえ。今な、住宅ローン破産がドトーの勢いで全国席巻
中なんだ。俺の友達なんか、返済が78歳だぜ。俺んとこは135歳じゃ
ねえか。おまけに、今年から『ゆとり返済』だろう?何が『ゆとり』
だ!? 完全な家庭政策の失敗じゃねえか。」
「だってさー、99年には恐怖の大王が降りてきて全部チャラって
いうからさー。」
「大王様はな、もう、すでに、うちに、お降り下すってんだよ。」
「どこに?」
「ここに。」
「キャー!
お茶出さなくちゃ。」
「バガ、バガ、バガーっ。
この間の地域振興券だって、俺が米買えつってんのに、何買ってき
たんだ?プレイ・ステーションとファイナル・ファンタジー8買って
きたろう? だからお前は馬鹿だてんだ。いいか、もうちょっと
待ってたら、ドリーム・キャストの<シーマン>が買えてたろうが!
それにだ、もうすぐ、映像処理能力最強のプレ・ステ2が発売だ。
F・F8がきれいになったっても、ムービー部分だけ。
今度はすごいぞ。最強のMPUだぜ。
ああ、それにしてもシーマンが欲しい!
顔をヒロスエにして遊びたい。顔取り替え可能なソフトを即刻発売
してくれ。”あなたって、 す ご い ”って、
ヒロスエに言わせちゃうぞ~。」
「・・・・・・ばかはあんたね・・・・・・」
「いや、問題はそうじゃない。地域振興券は自・公の思惑からはず
れて、つまり、消費拡大になんか回すべきでなく、生活防衛に振る
べきだったんだ、と言いたかったのよ。景気刺激政策としては完全
に失敗であったってな。
ミス出したら速やかに謝るてえのがスジじゃねえのかい。
ところが、近頃の政治家ときたら、金貰ってありがとうと言うかも
しれねえが、間違いしでかしたって、ごめんなさいとは言いやしね
え。教育上悪いてえんだ。これで日の丸や君が代持ち出して倫理的
な荒廃を何とかしようてんだから、タチが悪いや。
おっと、こいつは、日ぃ改めて言わせてもらうぜ。
ともかく、おめえもボーっとしてレース編みとかパッチワークなん
かしてねえで、経済や経営に気を配ってねえと駄目だぜ。」
「さっきから気になってんだけどね、お前さん。」
「なんでえ。」
「長屋の熊さんみたいな物言い、およしなさいよ。
だいいち、あんた、生まれも育ちも土佐の高知じゃないの。」
「てやんでえ。おきやがれってんだ。
たとえ、高知の土佐であろうともだよ、おいらの親父は芝浜でえ。
おととい来やがれ。スットコドッコイ。」
「何言ってんだかわからないよ。お前さん、大丈夫?
ゆうべ、遺伝子操作で神経伝達物質をアルコールに取り替えたとか
なんだとか訳の分からないこと言ってたけど、そろそろ、切れてん
じゃないの?」
「そいつはいいとこに気が付いたな。おう、一本つけてくんな!
大体よう、男がよう、なんのために朝から晩まで汗みどろになって
働いているのか、分かってんのか?たった一杯の酒と家族の平和の
ためじゃねえか。
おっとっと。ぷは~、うまいね、どうも。
今日一日の労苦は今日一日で足れリ、キリストさんも言ってます。
せくな騒ぐな世間のことは、しばし美人の膝枕~っと。
なんだい、美人じゃねえなー、あははは・・・」
「いやだよ、お前さん、ヘンなとこさわらないでおくれよ。」
× × × × × × × × ×
筆者後註・・・えーと、構想では、夫婦壮絶なバトルの果て、離縁!
という段取りだったんですが、なんとなく、夫婦和合の図
になっちまいました。なっちゃったものはしょうがない。
舌禍事件になりそうなので、一部伏字を使わせていただき
ました。 2003.1.27