オラみてーなビンボ人には、どーせ車なんか縁ねえから、
と思ってな、二輪の免許しか取らなかったのす。
行きたいどこあればサ、
カッパ着て、カブさ乗って、何処へでも行けばいいんでねが。
行きました。
親父の形見のカブで。
ホンダ・ホークⅡ(400cc)で。
スズキ・GS650Gで。
知り合いの数人は散華しましたけど、僕は生き残りました。
かわいい彼女を残して死んだ奴、
子供を残して死んだ奴、
死に損なって骨がグシャグシャになった奴、
(担架に乗せるとき難儀しました。なにせ、体がぐにゃぐにゃです。
こいつ、数ヵ月後には、何食わぬ顔でブイブイ走っておりました)
コーナーを速く抜けるには?と聞かれ、
肩と腰から突っ込んで行け、何とかなる!とちゃんと教えたのに、
ガードレール飛び越して行った奴、
(専属レスキュー隊持参のロープで引っ張り上げました。)
いろんな奴がおりました。
その後は散りじり。
連絡が取れる奴なんか、ただの一人もおりません。
こいつらは、死に急いだ訳ではありません。
曲がりくねった道を、一秒でも速くクリアーしたかっただけです。
バタイユは、死に近づくことによって快楽は増すと言いました。
ステップを削り、肩が路面に接するほどのハング・オン(註)で
コーナーを駆け抜ける彼らは、
エンゼルほどに死に近かったのでしょう。
死に近い危険が、生にスポット照明を当てたのです。
(芝居では、その後、「暗転」になることが多い。)
徳島在の知人S君が、カーブ外側のポールに激突して死んだ、
という彼の恋人からの電話があり、
単車で雪の降る四国山地を越え、鳴門まで走ったことがある。
生の意識は、死を遠ざけながら進行する。
でも、実際は、死はあなたのすぐそばで手招きをしている。
メメント・モリ。
死を想え。
夢の結果は、醒めたということだ。
生の結果は、死か?
このことは、宗教者や哲学者を悩ませた大問題です。
死は体験できない。
行った者は再び帰って来ることはない。
行く手に近づいてくる死をどう回避するか?
でなければ、どう受容すればいいのか?
映画に出てくる宇宙旅行のシーンのように、
白い斑点が上下左右に飛び去っていくのを見ながら、
ワシも道中いろんなことを考えたわけさ。
そのワシも、今ではもっぱら四輪を利用するようになり、
雨の日なんか、「なんて楽チンなんだ~」と、今でも思うんだが、
なんだかね、自分が「卑怯者」になったような気がするのである。
(註)
ハング・オン=コーナリング時の体勢の一つ。
通常、車体の倒れている角度(バンク角)と体が同じ角度をもって、
コーナー内側に倒し込んで走るのだが(頭部だけは立てているのが
よろしかろう)、ステップが路面を削るようになると、
タイヤのグリップ力が限界に近いサインである。
センタースタンドまで接地しだすと、リアタイヤが浮いてしまう。
わたしは、これで見事にコケたことがあります。
(GS650Gの左のステップは半分ないし、センタースタンドも
かなり削れていました。これではいつかコケますよ。)
車体を倒す角度には限界がある、とすると、
人間が内側に倒れればいい。この体勢を、リーン・インと言う。
もっと過激なリーン・インもある。
外側の足をシートに引っ掛けて、体のほとんどがハンドルとシートに
(コーナー内側に)ぶら下がっているような格好になる。
これをハングオンと言う。
バンク角を稼ぐ、最終兵器と申せましょう。
これは、速いです。
バイクに乗る方は、是非マスターしてほしいものです。
ただね、難点は、峠道で山肌に視線が遮られ、
コーナー出口の状況がつかめません。
ブラインドコーナーです。こわいです。
知らない峠では、コーナー外側に体を起こして走る
(バンク角を犠牲にする)リーン・アウトという走り方がいいかも。
ことほど左様に、「バンク角」というのは、
コーナリング・スピードを決定する重要なファクターです。
コーナー外側に吹っ飛ばそうとする遠心力に抗して、
限界ギリギリまでタイヤのグリップ力をコーナリングフォースに、
つまり、求心力に転位させる絶妙なバランス角なのだ。
(ものすごくタメになる後註でございましたね。
何言ってるのか分からんけど。それほどインテリジェントな
乗り物であるわけなんだな、バイクは。)
お気楽に四輪で必要以上に排気ガスを撒き散らしている紳士・淑女
らが、なぜ、必要以上の自己肯定を持ちえるのか、
オイラには疑問である。
「もう一度、暴走族を作ろうやないか」と私は言った。
「バイクは青春期の神話だよ。
こんな年寄り集めてどーするんだよ?
ワシらは、せいぜい若い衆の通行の邪魔にならんようにするのが
よかよ。」と彼は言った。
「腰抜け!せっかくゾクの名まで考えたのによー。」
「なんつーの?」
「お達者くらぶ。」
「やめましょう!」
2003.6.28 (旧)ヨコナミの青い流れ星