最近やたらとこの言葉が有名になり過ぎた、というか独り歩きしてる感じがするので、私なりに思うことを書いてみようと思う。
元はブルース・リーがまだ有名になる前にアメリカの空手大会で披露したパンチ(突き)のデモンストレーション。
その時の映像が残っていて、その内容は最初に大会スタッフ(?)と思われる人がミットを胸に当てて構え、ジョー・ルイスという空手のトップ選手が、おそらく本人が最も強いと思う空手の正拳突きをミットに打ち込むシーンが入る。
その打ち方は、打った後に勢いで後ろ足が離れてしまって、もはや空手の正拳(逆)突きではなく、無門会の逆突き野球の投球フォームのような体勢になってしまってるが、むしろ、本能的に力いっぱい殴ろうとしてるのが良くわかる。
さすがに空手の選手の思いっきりのパンチだけあってミットを持ってる人はそれなりの衝撃を受けている。(この写真のタイミングではまだ衝撃を受けてないが)
次に打ち手がブルース・リーに代わる。
最初に先ほどの空手選手のような左足前で横拳での正拳逆突きのような動きをしながら何らかの説明をした後に、右足前、右手前の構えにチェンジして拳を縦拳にしてミットから数インチ離れた距離から超コンパクトな動作で突きを放ち、ミットを構えてる人を遠くに突き放す、という内容。
最初から衝撃を極力ダイレクトに伝えて突き放す(離す)という前提なので、ミットは胸に押し当てて、(離すと衝撃が逃げる)さらにミット持ちの人の後方に椅子が置かれていて、打たれた人が椅子に尻もちをついてその反動でさらに後方にスライドして、結果として数メートルは吹っ飛ばされる(ように感じる)。
というカラクリ演武である。
公開されている動画のシーンの時系列が不明だが、その後に今度は先ほどの空手選手が受け手となり胸のあたりをミット無しで指の長さ分の距離から突きを打つシーンがある。
ミット無しとなったのは、受け手が空手選手なので鍛えてるから大丈夫だろうというのと、衝撃をよりダイレクトに伝えるという意図があったのかどうかは不明。
(これらの画像の使用に問題あればご指摘ください)
最初の数インチの距離からミットに打った時のスライド吹っ飛び距離ではないものの、空手選手はそれなりの衝撃で椅子に尻もちをついて後ずさりして、受けた本人も驚いている様子がうかがえる。
(世間でワンインチ・・とされているのはこちらの方である)
私は別にこの演武をディスってるわけでもなく、格闘技イベントのデモンストレーションとしてはむしろ最高のパフォーマンスであると感じている。
ブルース・リー本人もこれを武術の技ではなく、あくまでも大衆にもわかりやすいような
シンプルかつダイナミックな力の使い方の例
という事を紹介したかったんだと、と私は思っている。
(同演舞の中でオマケ?で行う片手指2本腕立て伏せも同じ狙いのパフォーマンス)
それがいつからかこの 突き方の一例 が ワンインチパンチ というという名称で広まり、あたかもジークンドーの必殺技代表的な技のように紹介されているように思う。
紹介してる人達からすると、そういうつもりで紹介はしてないって仰るかもしれないが、視聴者は明らかにそう感じているし、実演者もそれを狙っているとかしか思えない。
最近YouTubeで知った動画で、ある有名な中国武術家の方と、ジークンドーマスターと称されてる方とのコラボがあり、ジークンドーマスターの方が満を持してこのワンインチパンチの実演された後に、中国武術家の方が、
これは突きというよりも拳を使った体当たりですね
というような感想を述べていたのが印象的であった。
この手の他流の人間同士のコラボ動画ではお互いを褒め合う、あるいは共感するのがお約束のようで、この武術家の方は八極拳の技法のようなという(良いような)意味で言われたのかもしれないが、私には それはパンチではない(体全体で押してるだけやん) という揶揄的な意味に感じてしまった。
というのも、これは私の気のせいかもかもしれないが、それを言われたジークンドーの人の
そ、、そうですね、、、
といった返答と表情がなんとも微妙で複雑な感じだったからである。
そして、そのすぐ後にジークンドーの人が
違う使い方かもしれないけど
と前置きした上で、
こういう打ち方も、、
と、ボクシングの接近時のボディブローのようなパンチを披露して、どうみても(押してない)体当たりとは言わせないような打ち方をアピールしてたのも印象的であった。
この方以外にも、今はYouTubeで(便利な世の中になったものだ)いろんな先生たちのワンインチパンチの実演を見ることが出来るが、中には少しでも距離を引き離したいという気持ちが先走ってるがゆえに、どう見ても 突いてる のではなく 押してる とかしか思えないような動作もあり、そのコメント欄で
素晴らしいワンインチプッシュ!
と皮肉られているのもあったりする。(それが誰だとはここではあえて書かない)
ブルース・リーが亡くなり、長い年月が過ぎた今、世界中にいろんなジークンドーが存在していて、それぞれが自分たちの「流派」に決められた「流儀」の枠内で活動してるようで、どれが本物だとかどれが正解だとかを、ここで私の持論を書くつもりは毛頭もないが、
もしブルース・リーが生きてたらジークンドーはどうなってたんだろう?
という事はついつい考えてしまう。
少し話がそれるが、昔にブルース・リーマニアの知人から聞いた話で信憑性はわからないが、生前(有名になる前)のブルース・リーの逸話として印象に残ったエピソードがある。
ある日、武道家達の交流の場があり(今でいうコラボ?)そこにブルース・リーもいて1人の武道家(柔道家?)が、
私を(押して)動かしてみろ
というような事を言い出した。
その武道家は関取のような体重、体形だったのか、あるいは立ち方が上手かったのかは不明だが、その場にいた他の武道家達が順番に力いっぱい押してみるものの、びくともしなかった。
そしてブルース・リーにも機会がまわってきたが彼は丁重にお断りしたものの、「お前の武術では無理なのか?」的な事を言われたかどうかは知らないが、あまりにも執拗に強要されたので、ブルース・リーが何をしたかというと、押すどころか、その武道家の
顔面を思い切りパンチしてぶっ飛ばした
(相手を動かした)
らしい。
その後に「私の武術に押すという技はない」と言い放ったとか。
さらに同じような話がもう1つあり、今度も同じような場で例によってある武道家(空手家?)が
私の腹を思い切り殴ってみろ
と言い出し、そこにいた人間が順番に殴るが、打たれた本人はダメージを受けることがない。
空手(フルコンタクト)等の鍛錬を少しでもされた事がある方ならわかるとは思うが、あらかじめ1発のみ打たれるという事がわかっていて、それに備えて腹筋に力を入れて準備をしていれば、そこそこ強い打撃だとしてもそれに耐える事はそれほど難しい事でもない。
それで、ブルース・リーの番になり、また顔面を殴るのかと思いきや、彼はフィンガージャブか何かで顔面にフェイントを打ち出し、
相手が一瞬怯んだ瞬間に
猛烈なパンチを腹にぶち込んだ。
らしい。
受けた人がどうなったかは想像に任せるが、どちらのエピソードも相手の要求は「動かしてみろ」と「腹を殴ってみろ」であり、そのどちらも要求に応えたわけである。
武術に限らず物事の真をつくとはこういう事である。
という事をこの2つのエピソードが教えてくれた。
現在の各流派や団体の先生達の接待コラボでこんな事が起きる事はなさそうだが、あったら放送事故レベルどころか、情報(動画)がまたたく間に拡散され、その(やられた側の)団体のイメージは大幅にダウンして、挙句は存続の危機にさらされる可能性もある。
最後に、話をワンインチパンチに戻して、もし宴会芸とかで同じような事をする場合、地肌に直撃すると素人の突きだとしてもそれなりに痛いし、とはいえミットなんか無いと思うので、週刊誌などがあればそれをミット代わりにすると良い。ちなみにベストは電話帳。
週刊誌より固い分衝撃がよりダイレクトに伝わる。
間違っても座布団などのソフトな物を使うと拍子が抜けるのでご注意を。
おわり