Startin' over… -81ページ目
「お風呂入ってきていいよ。」


「…え、来る前にシャワーなら浴びてきたけど。」

「そっ。」


奴は私の身体から降りると、すぐに服を身につけ外へと出ていった。
そんなことされなくたって、誰にどんな話をするために電話をかけたかったのか、こんな私にだって推測できた。
私は相当馬鹿だと思われているのだろう。
奴にとって、私が何も気づいてない姿がおもしろく感じられるのか。



だから、すぐにかけ直せって言ったのに。
「俺はお前だけの俺ではなく、みんなの俺だからお前だけにかまってはいられない。」
そんな決めセリフを吐いた後、外に電話しにいった。事前に用意していた一言なんだろう。
きっとこれから先も、私は誰にも愛されない。大切にされる価値などない。
こんなつまらない身体、バランスの崩れた顔、だらしなくうねった傷んだ髪。奴が価値の低い女だと思って当然だ。
だけど、あまりに自分の内面外見ともに絶望しているから、おしゃれやきれいになろうとする行為全般が、無駄な抵抗そのものに思える。
だから奴みたいな男から、こんな扱いを受けるのは身分相応だと、納得していた。

奴が私との関係を誰にも話さないのは、サナさんのことがなかったとしても、私を自分に相応しい女だと思っていないため、他人に見せるのが恥ずかしいからという理由もあるのだろう。きっと外で、私と一緒に歩いたり、一緒にいるのも嫌であるはず。
自分の魅力の無さが申し訳ない。
※いつも御覧頂き誠にありがとうございます。この先には若干の性的描写がございます。18歳未満の方及び不快に思われる方は、読み飛ばして頂きますようお願い申し上げます。






































ワンピースをめくり上げられ、インナーのキャミワンピも脱がされた。下着姿にされた。素直に本能的にはなれなかった。
生理中に交わるのはこれで何回目だろうか。

「バスタオル、借りていい?」
ベッドに座り、自分を解放できずにいた。

「え?ああ…きょおは、く・ち・に出すの!」

「…でも血ついたら嫌だし。洗濯大変じゃん(ふとん干す場所無いんだから)」
「でも上は見たいな。」

窓から洩れる光によって、青く照らされる狭い部屋。奴の手は私の背後にまわり、ブラのホックが外された。
ゆっくりと取り払われ、奴の顔が胸に近付いてくる。
〈うずめて欲しい、その愛しい頭を〉

だけど私の手は、カーテンレールに干してあるバスタオルへと伸びて、勝手にベッドに敷きはじめた。


本当に素っ裸になってベッドに横たわる。
シーツがいつも気持ちいい。


「いじめて…」

奴の瞳が黒かった。光一つ通さぬかのように。
しかし白目は潤んでいた。

〈どこを見ているんだろう。〉


仰向けになり横にだらしなく垂れる私の胸。
この体勢になるたびに、自分に何の魅力も無くて、つまらない身体だと思われてるんじゃないかと自信を無くす。

奴が同じく仰向けになる。

「おい、舐めて。」

どんな風に愛しただろう。きっと寂しい気持ちを押し殺して、もしくはそれを反動にして奴に快感を与え続けたのか。
言葉にして、奴に気持ちを伝えたことはない。
そうするべきでないと思ったから。

舐めるたびに、伸びっぱなしの傷んだ髪が顔にかかる。
口や鼻の周りが奴の体液と自分の唾液でべたつく。そのべたつきを拭うかのように、さらに舐め続ける。
喉の奥まで入れようとして、いつものようにむせる。
「大丈夫?無理するなよ」
優しくはないけど、落ち着いた声で奴が言う。
私を認めて欲しかった。
愛して欲しいくらい、奴を愛した。

自分にできる表現方法は、これしか残されてないように思ったから。


「勝手に動けよ。」


硬さが最高潮になったところで、奴が素っ気なく言った。

奴は下着を外す時以外、まだ私の身体に触れていない。

少しだけ、泣きたかった。

銀の袋を破って、直立したものに被せる。

「RRRRRRRRR…!!」

スマホの画面が着信を知らせている。奴のバイト先からだ。

「出なくていいの?」

「いい。面倒臭いから出ない。」

「人足りないんじゃないの?」

「行かないよ。面倒臭い。」


それから間もなく2回目の着信。
だけど、女性の名前だった。"四ツ谷 唯"。


「出なよ。」

私に悲しむ権利も、嫉妬する資格も、傷つく余地も無かった。
まして、奴からは、これから10年20年経ったってサナを思う気持ちが消えることは無いと言われてるのだから。

「出なよ。」

お願いだから出て。

「いい、早く上乗って。」

「でも…」

奴に押し倒されて、いきなり奥まで入れられた。

「脚からませて。」

腕も奴の首に絡ませる。

「クッ…何これ、今日ヤバい。」
奴の表情はどんなふうに歪んでるだろう。

この一体感が、いつまでも続けばいいのに。
溶け合うような心地。
奴とつながっている。私は一人じゃない。
この瞬間を求めて、私は日々の時間を浪費している。すべての他のものが、空虚に思えてくる。友達さえ。

奴が動けば動くほど、自分の内側が温かみを増してきた。奥までくるものがはっきりと感じられる。私の内側へと奴が訴えかけてくる。
それを全身全霊で受け止めようとするほど、心臓が締め付けられ、感情が湧き出てくる。

それは愛しさだと思っていた。

奴の名前を呼ぶ。
そして背中に爪を立てる。

この生きていて一番幸せな時間。


激しく腰を打ち付け続ける奴に、乱暴に唇を塞がれた。今日初めてのキスだった。
なぜか沈んだ気分で自宅のドアを開けた。

〈また出かけなきゃいけないのか…〉

昨日の夜から、楽しい時間を過ごしてきたはずなのに。
和馬の家に行ったのだって、奴と一緒の時間を過ごしたかったに過ぎない。
奴の横で眠れた時は、幸せであった。

シャワーを浴びてスキンケア、荷物をまとめて家を出た。
もう日は暮れている。
晩ごはんを一緒に食べる約束だから、奴は待っている。
でも、灰皿の吸い殻の火が消えたか気になって、一度家まで引き返した。
奴には財布を忘れたから遅れると嘘をついた。
バスで行こうか、電車で行こうか、どっちが早いか。急ぐ必要なんか無いのに、いつも急かされているような気分になる。
遅れることに、私が強迫的になっているだけ?
慎吾の時だってそうだった。
いつも私が急かされた。お金もろくに無いのに、タクシーに乗って会いに行った。一度だけではない。


「ガチャ。」
約束より、一時間遅くなった。
ハーフパンツに、タンクトップ姿の奴。
いつものように、冷房は効き過ぎている。


有名店のレトルトのカレーが、沸騰した湯の中に2つ浸かっていた。

"甘えさせてくれ"と言っていた割に、自分のことは自分でやってしまう奴、それ以上に、人をもてなす術も身についている。
そう感じるたびに、自分の立ち位置がわからなくなった。


食事の間、どんな会話をしたかよく覚えていない。大した内容ではないだろう。きっとカレーに関することで間をもたせていたのか。

食べ終わって、誰にも邪魔されず二人きりになれた喜びから、私が奴に抱き着こうとしたら、腰をつかまれベッドに押し倒された。


まだする気にはなれなかったし、お腹もきつかった。だけど私が断るなど、一度たりとあったであろうか?

電気を消す。
窓から漏れる光だけ。
奴が猛獣的なのは、私を裸にするところまで。
仰向けになって、私が尽くすのを待っている。