Startin' over… -59ページ目
いっそすべて私の勘違いだったらいいのに。
「え、別にそんなつもりは無かったですよ。」
一言あいつが吐き捨ててくれれば、すべては終わる。
本気で熱を上げた自分が馬鹿だったと悟れば、どんなに楽なのだろうか。

低下し続ける講師として技量。
増加し続ける無駄な雑務。
仕事だけならいい、一人じゃないから言い訳野郎の副詞節だらけの会話により
時間が浪費されていく。
一人でどうにかなるものではない。
自分の体を刻みたくなった。
どうしていいかわからないから。
マルボロだけでは事足りない。
仕方が無いから、表情を消す。
あいつが視界に入っても、PCか他の幼い生徒さんを見つめる。
そんな私を受け入れる、笑顔を絶やさないあいつ。
一番辛いはずなのに、私に優しくしてくれる。
それを素直に受け取れない。
受け取らない。
あいつの方が辛いのに。
逆転する立場。
私はもうここにいられないのでは?
お客様の大切な息子さんをぞんざいに扱っている。
講師の資格が無い。
無機質な文法説明、構文説明、
あいつのためになっているのだろうか。
消える場所が無いから、代わりに表情を消す。
それは慣れている。
少しだけ指が触れた。
隣のあいつが私の横顔を見つめる、視線が刺さるように感じる。
何かを読み取られたくなくて、表情を消す。


「はい、わかりました。」
すなわちスルーします。と言われているもの。
月給を頂いているにもかかわらず、最重要日に休むことを厭わない人間もいると知った。
合理的な逃げである。
休みだから折り返し連絡の対応になるのがわからない。
最もだ。
ただお客様は私でなく責任者と話し合いたいとおっしゃっている。
それでも休みだから、その姿勢を貫くことはお客様のことなどどうでもいいのだろう。

貧乏経験者として、腹が立って仕方なかった。
また他の講師の給料支払いにもかかわる仕事を丸投げされた。
リミットは18時。
本来の業務時間なら2時間しか与えられていない。
徒歩20分の距離に対しタクシー代を叩いた。
おかげで3時に着くことはできた。
3時授業開始の講師は、鍵開けを頼まれてはいなかったとのこと。
荷物の集荷は4時まで。出勤時間に出勤していたら明らかに間に合っていなかった。
これははめられているのだろう。
こちらが仕事を完遂できないのを考慮し、できなかったらすべて私のせい。
そして自分は責任逃れをする。
うまい処世術を垣間みたものだ。
講師の給与に対し、責任を感じず、
逃れるために言い訳は長く、
最低限の業務に付き合うだけでも疲弊する。
うまくいけば私の評価を下げることにもつながる。
もしそこまで考えていたのなら、その策士ぶりに少しは尊敬の念を
払っていただろう。
だが皮肉なことに、他の教室の室長、エリアマネージャーの助けにより
ふられた仕事を片付けることができた。
私がしたのは依頼だけであるが。

もはや何なのかわからない。
私は講師なのか?
運営者なのか?
新人講師は、何から何まで私が手配していたせいで
すべては私の不手際だと思っているだろう。
何度室長に代わり、頭を下げ謝り続けただろうか。
支えてくれた同僚に感謝する。
理解者がゼロでは無いと、ファミレスであおったビールの味が教えてくれた。
考えたら一時間しか寝ていない。
シャワーを浴びようと、眠くなり始めた目をこすり
もはや無意味に鳴った目覚まし時計を止め、熟睡した。
起きたのは大学の授業が始まる45分前。
ぼさぼさの頭を洗いたがったが無理になった。

結果授業は休講であった。
遅刻覚悟で家を出て、授業開始時刻になったと同時にグループワークのメンバーに連絡した。
ここで休講判明。
どうやら朝食をとる時間が与えられたようだ。
コンビニでサラダを買い、肉無しで過ごせる年齢になってしまったことを悲しく思う。
ストレスだけだとは思わない。
一日一食の生活。食べることに対し執着をもたなくなるのは、
自分のアイデンティティを少しばかりは破壊するのではないか。
社畜とは、外食産業の餌食でもある。

キャンパスのベンチでバッグを枕にして、人目をはばからず眠る。
2年時の、映像制作実習が忙しかった時を思い起こす。
あれから二年が経った。
スッピン、キャップ、ペタンコサンダルにルーズなTシャツ。
適当なファッションで大自然の中で眠る。
海に行けるかな?
こんな年になり、大学で青春っぽいことができる自分がおかしく思える。

「あと3時間で出勤かー。」

適度に低い青空。夏は近い。
曇り始めて、雨が降ってもあいつを思うことは無いだろう。
「もっとまともに働けたら。」

果たして頑張っているのだろうか。
よくわからない。
好き避けと、授業を避けることは訳が違う。
そんなことを対等に考えてしまうほど脳味噌は
腐っているようだった。

流れる音楽は、どれも古いものばかり。
慎吾がいた時代に聞いたもの。
否応無く頭で歌詞が再生される。

お金を頂いているなら、今すぐ滝に打たれて頭を冷やしたい。
だけど出勤時、悔し涙をこらえることに。
それを隠せるのは、平静なふりした無表情のマスクをかぶることのみ。
冷たくして、何になるのだろう。
こればかりは、私自身の甘え以外の何ものでもない。