a promise without a voice | Startin' over…
「待ってて。」

その一言で、すべては伝わる。
残っている生徒さんを送り出し、無駄を創出した故に残業をしている社員を残し、そそくさと上がった。

「あれ?いない」

いつもの暗がりの中に入っても、あいつの姿は見えない。

「嫌だったのかな。」

だが歩き進めると、
遠くに細身のすらっとした陰から視線を向けられるのを感じた。

近づいてみて見ると、カーキ色のアウターにいつものリュック。
陰に同化している。
さらに遠い場所で待っててくれた。
こちらの都合をよく考えている。

「ごめんね。」
いっしょに歩き出す前に必ずそう言うけど、いつも返事は無く黙っていっしょに歩いてくれる。


「昨日、何とかなったよ。」
「そうなんだ。」

嫌な飲み会だった。信頼できる人間との関係を深める、信頼できる仲間を増やす。
そのために講じられる手段として、なけなしの知恵を絞った結果飲み会を開いた。
故に仲間では無い人間には極秘にする必要がある。
嫌いな人間にほど笑顔、軽蔑している人間ほどほめちぎる。
そんな私の性格の悪さを見抜けない人間が厄介だ。
何を言おうお金を頂いている自覚が無い人間は軽蔑する。
自己満足のために子供を踏み台にしてしか優越感を得る事ができない人間は、即刻教育サービスの現場から消えるべきだと思う。
この信条が揺らぐ事は無いだろう。

「ねぇ、あなたはバイト先の飲み会行くの?」
「たまに。」
「ここ2ヶ月では?」
「行ってない。最後に行ったの去年の2月とかだもん。」
「だよね。」
受験生だもん。
「次の日きついから行かない。」

昨日、あいつと同い年の小坂先生にどれだけ飲ませただろうか。
こんなにも立場とは不条理で残酷。

「そういえば、あのスープってどうやってつくるの?」
「味噌だよ。」
「辛みある?」
「うん、それと唐辛子いれる。」
「辛いの平気?」
「まぁまぁかな。お客さんでめっちゃ味覚障害っぽい人いて、MAX辛くしても、甘いとか言い出す。」
「やばっ。」
「おかしい。」

笑い合うことはあっても、最近ますます目を合わせられない。
恥ずかしいのか、悟られたくないのか。


無理矢理曲がろうとして、あいつの胸に近づいた。

「え?」
「買い物してく。」

一人量販店に向けて足を向けた。