×− | Startin' over…
「先生、見てこれ。」
「なにさ。」
「これ靴ヤバくない?ばりばりに割れてる。」
スニーカーの靴底を見せ、一生懸命語る。
「まぁ、けっこう歩いてるもんね。」
あいつは徒歩通塾。
「これね、前さ、ドンキで買ったって言ったじゃん。」
「そうだっけ?」
全く記憶に無い。
「言ったじゃん5月に。」
「あーそうだったか、ごめんなさい。忘れてました。」
「だからね、ドンキで靴買わないほういいよ。まじでやばい。」
かく言う私も通勤用の黒パンプスはドンキで買っている。

「体力やばい。」
「は?」

この前も年取ったーなんて発言していたあいつ。
いいか、私はあなたより8歳年を食っている。

「この前も言ってたよね。」
「そう。昨日ね、バイト終わった後ね、脚筋肉痛になった。」
「サッカーすれば?」
「サッカーできない。」
「何言ってんの。」


「ちょっと!」
あいつが席を立つ。顔を上げる。他の生徒さんの授業中、あいつと同じ高校の3年男子。
「帰るの?」
「うん。」
さきほど入会したばかりの生徒さんを送り出したところ。
これ以上の途中離席ははばかられる。
「質問ないの?添削は?」
「thanのとこ聞けたからあと大丈夫。」
んなわけがない。
「そう。」
「さようなら。」

仕掛けて来たかのような目。講師として、悔しい目で見つめ返す。
まだやりたいことはあるのに。

その日の帰りはタバコ屋の前のベンチで一人缶ビールを空ける。
その頃、あいつは一人夜の公園でボールを蹴っていたらしい。